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新緑が沁みる無人駅と、美味しいものたち〜岡山県津山市。

この春、かつての仕事仲間が岡山県北部、津山に近い町に引っ越した。
東京で暮らしている姿以外は想像できないくらいの、80年代シティポップを思わせる元祖シティボーイであり、今年中に本を二冊出版する予定の売れっ子のライターさんなのだけど、東京での拠点をすべて引き払っての引っ越しらしい。
そして、古民家の整理が思いのほか大変なので、手伝ってほしい、と。

何があったのかは知らないけれど、これはちょっとようすを見に行かなきゃいけない。僕は岡山県にはいろいろと縁があるので、何かの役に立てるかもしれない。
ということで、ついでにいくつかの用事を作って、ゴールデンウィークの混雑が始まる前に行ってきました。
今回は、友人の引っ越しというプライベートな話についてはともかく、その途中で垣間見た、"鉄分豊富な”津山市周辺のようすについて書いておきたいと思います。

山陽と山陰をつなぐ交通の要衝。

到着した日は雨。とは言え、岡山空港でレンタカーを借り、走り始めた中国山地の新緑に目が醒めました。おむすび山と呼びたいくらいの、小さい山々が連なる中国山地。広葉樹の新緑に混ざる、針葉樹の濃い緑がおむすびの海苔に見える。
雨に霞んでいるので写真は撮らなかったけれど、途中、山道に現れるヤマフジが美しい。この花、関東南部ではあまり見ることができないんですよね。
そして、あまり期待せずに予約しておいたビジネスホテルからは、何と津山駅が一望できました。平屋の駅舎っていいなぁ。この街、山といい川といい街並みといい、かなり美しいではありませんか。

大きな商業施設を併設せず、街並みに溶け込む津山駅。写真ではよくわからないけれど、右奥には車両基地が見える。しかも、停まっている車両のほとんどが、国鉄時代に作られたディーゼルだぜ!
さっそく見に行った車両基地。キハ40系の宝の山。この眺めにトキメキが隠せない。
津山駅にはJR津山線(津山〜岡山)、姫新線(姫路〜新見)、因美線(鳥取〜東津山)が乗り入れており、山陽地方と山陰地方を結ぶ、交通の要衝なのですね。
因美線、姫新線のホーム。行き先表示のあの書体が沁みます。昭和の昔、JRの駅では多く使われていた書体ですよね。あの文字を見ていると、旅先にいるのに旅に出たくなる。
そして、雨に濡れるキハ40系が沁みる。津山発岡山行きの津山線。
こんなカットも撮ってみたりして。
この界隈の観光は「鉄道遺産」という打ち出しなのですね。これが集客に繋がるかどうかはともかく、共感します。賛成です。応援します。

津山駅の西側には、蒸気機関の時代に使われていた大きな転車台が残され、そこは『津山まなびの鉄道館』として一般開放されているけれど、その施設の話については後述します。

この街には美味しい店が多い。

このほど東京から引っ越してきた友人は、多くの雑誌で「食」や「酒」に関する記事も書いている。なので、すでに津山市内でも美味しい店は探索済み。ありがたいことだ。
彼が案内してくれた店は、津山市内でとりわけ大きなデパート『天満屋』の麓にあった。和食と寿司の店で、店主は日本酒の研究に余念がないようす。出される魚介や山菜の天ぷらなどに合わせて、お酒はすべてお任せすることにした。ご覧のグラスで一杯ずつ試す方式。飽きません。それにしても、知らないお酒の数々。酔っている暇が無いくらい。

たとえば境港で上がる魚介に対しては、長野県佐久市の濁り酒が現れた。かと言ってくどくなく、刺身の盛り合わせの味を決して邪魔しない。
中盤。鶏肉に合わせて登場したのが、このお酒。
まるで、信州上田から届いた手紙のようなラベル。ただ空腹を満たすためではなく、覚えるための食事というのもいいものです。
僕は「雄町」を使ったお酒が好み、と言ったら、この銘柄を教えてくれた。なるほど。山菜の天ぷらに合わせたフルボディ。幸せなマリアージュでございました。

こんな調子で出された10種くらいのお酒を全部紹介していたら大変なことになるので省略しますが、こういう店主が店を開く街はラッキーです。地元の皆さんで大切にしてほしいです。しかも、お値段は決してバカ高くない。

ご多分に漏れず、この店も人手不足とのこと。予約のみの営業だそうです。
探す楽しみを奪いたくないので、例によって、入り口のようすだけお知らせしておきます。探してみてください。いわゆるグルメサイトだけを見て行き先を決めるような旅だけは、決してしたくないものです。

翌朝は、先日の雨が嘘のような快晴。午後から、友人が引っ越した古民家の整理を手伝うために、昼は津山の街で良さげなうどん屋を探してみたのでした。
この街は「ホルモンうどん」がご当地グルメとされているようですね。うどん屋さんの多い街です。だったら観光客向けにできたような新しい店を避け、少し歴史のありそうな店を探してみようかと。

津山城の方まで行くと時間がなくなりそうだったので、商店街の周りを探してみたら(それだけでも10軒はあります)、地元のお年寄りや会社員で賑わう店があったので入ってみました。

ホルモンうどんは味の予想がついてしまうので、肉うどんにしてみました。すると頼んでもいないのに、軽く盛ったご飯とアイスコーヒーがついてくるんですね。こういうローカルルールは楽しい。

そしてこのうどんがうんまかった! 薄味の鰹だしに肉が際立つというか。あまり期待していなかった自分を戒めました。他のお客さんはカレーうどんの人が多かったので、次に来るときはカレーうどんにしてみようかな、と。

ところで津山の街の商店街は、一見したところ、いわゆるシャッター商店街の様相ではあります。しかし、昼間の飲食店を覗いてみると、賑わっている店は賑わっているんですね。このような飲食を起点に、人の流れが生まれそうな予感がありました。なんたって、美味しそうな店が多いからです。

因美線沿線の、新緑と無人駅にヤラレました。

その日の午後は友人宅。翌日は再び津山に戻り、次の目的地、美作市上山の千枚田に向かう前に寄り道。津山駅の駅員さんが教えてくれたシブい無人駅、因美線の知和駅を目指しました。

目的地まで10kmと少しの間、ずっとこのような新緑を眺めていました。

清流・加茂川を何度も渡りました。川が何度も蛇行しているので、その都度橋を渡ることになるんですね。時折現れる小さな集落、そして再び川と新緑の中に戻る。それを数回繰り返した後、カーナビから右折の指示。そして間もなく、目の前に現れましたよ、かわいい無人駅が。

昭和7年、因美線開業時以来の駅舎だそうです。
かつては駅員さんも働いていたであろう事務室には、鍵がかけられていました。が、室内は定期的に掃除されていると思われ、清潔です。机の上には黒電話が一台残されています。
木製の改札口が沁みるよねぇ。
改札に立つ駅員さんに、「ただいま」と言ってみたかった。
駅のホームも、きれいに手入れされてますなぁ。
乗客は、このベンチでのんびり列車を待つことになる。待ってみたいものだ。
このまま鳥取まで行きたいな。
そしてこっちが津山方面。
この場を立ち去るのが惜しくて、一時間近くここで過ごしてしまった。
何時間後かに、この駅に戻ってくる主人を待つ自転車。
そしてこれが、駅の真正面にある新緑の山。…さてと、次に向かいますか。

後ろ髪を引かれる思いで知和駅を離れる。
とは言ってもそれほど急いではいないので、カーナビに現れた次の駅、美作加茂の駅にも寄り道してみました。この駅は、小さな集落の中にあります。

この駅は、近年になって改築された跡がうかがえますね。
待合室の畳がうれしい。夏休み、ここに座ってかき氷を食べたい。
そしてホームに出れば… のどかなり。
やはり木造の駅舎は良い。このベンチで津山行きを待ちたい。

という、因美線の駅舎たち。いずれも無人駅ながら掃除が行き届いており、沿線の人たちから大切にされているようすが伝わってきました。いずれ、また来よう。

最後にもう少し、津山の話。

実は津山に行ったのは今回が初めてではなく、2016年の年末に行ったことがあります。ただしその時は仕事だったので、ゆっくりと見て回ることはできず、『津山まなびの鉄道館』だけは行っておきました。時間が経っているので何かと変わっているかもしれませんが、その時のようすも付け加えておきます。

かつての転車台の跡に作られたこの施設、懐かしいディーゼル車が並ぶようすは壮観そのもの。
年末だったのでメリークリスマスなんて書かれてますが、このD51は、何と2号機じゃないですか。
かつての切符の数々。どんな人が、どんな目的で乗っていたのだろう?
そして、単線を事故なく運行させる閉塞機。列車から降りた運転手さんが、駅員さんに何やら鍵を渡す。その鍵を閉塞機に入れてガシャンとやると、単線上を行く上り下りの車両が安全に駅で待ち合わせできるとか何とか。この仕組み、話に聞いただけではわからなかった。映画『ポッポ屋』でも、高倉健さんが鍵を受け取るシーンがありましたっけ。
入場券は硬券なのですよ。しびれます。今でも本の栞として使っています。

そんなこんなで、この施設だけはウェブサイトを紹介しておきます。今の入場料は、大人一枚310円のようですね。

そして津山は城下町。江戸時代に築城された比較的歴史の浅い城ではあるけれど、城下に広がる商人街や出雲街道の風情は、じっくり眺めてみたいもの。今年は6月にもう一度行くので、その時には時間をかけて回ってみようと思っています。







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