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終わって欲しくないドラマ

今期の朝ドラ『虎に翼』は、ちゃんと面白いと感じながら見続けています。前回の『ブギウギ』は2月頃にリタイアしてしまいました。「買い物ブギ」がリリースされた時期ですかね。ずっと趣里さんのパフォーマンスに惹かれるものがありましたが、ドラマとしては飽きてしまった。戦後の笠置シズ子快進撃が始まった、というようなところで何故か興味を失いました。

虎に翼はキャストが素晴らしい上、尾野真千子さんをナレーターに起用したのが絶品と思います。主題歌も作品としてのクォリティが高く、いつも飛ばさずに聴いています。

以前書いたことですが、朝ドラは2007年『ちりとてちん』から見始め、それは元来落語好きだったからという理由によります。朝ドラ侮れんと思ったものの、2010年『ゲゲゲの女房』まで4作品は飛ばしています。以後、再放送で2011年『おひさま』『カーネーション』『梅ちゃん先生』と連投しましたが、続く『純と愛』では見切りを付け、2013年『あまちゃん』『ごちそうさん』『花子とアン』『マッサン』『まれ』とコンプリートしたところで休憩。

というわけで2015年『あさが来た』は見ておらず、次回作2016年の『とと姉ちゃん』は反省して完走。ところが以後ぱったり見なくなりました。8作品飛ばして、注目の杉咲花さん主演ということで『おちょやん』(2020)で復活したというのは、振り返れば長いブランクでした(自宅のテレビ装置を廃棄したせいでもあります)。

以降は『おかえりモネ』『カムカムエヴリバディ』と傑作を堪能しましたが『ちむどんどん』に落胆。2022年『舞い上がれ!』『らんまん』と大満足しましたが、冒頭書いたとおり『ブギウギ』は途中脱落、今に至るというわけで、朝ドラを語るほどの資格はありませんが、16本は全話観た、という実績なら朝ドラファンを自認して良いかと思います。

そのように当たり外れが出るのは当然であり、大河も『鎌倉殿の13人』『どうする家康』は完走できたけれど『光る君へ』は早々にリタイアです。最初良かったけれどね。清少納言役がちょっと無理で、出てきたところで見られなくなりました。

NHKは15分の夜ドラをやるようになりましたが、第二作2022年の『カナカナ』を半分くらい観て興味を持ちました。ちゃんと見たのは第五作同年『あなたのブツが、ここに』、第八作同年『作りたい女と食べたい女』。あなたの〜は『おちょやん』で杉咲さんの幼少期を演じた毎田暖乃ちゃんが出ていたので視聴復活のきっかけとなりました。同様に『舞い上がれ!』で好演した八木莉可子さん主演作23年の『おとなりに銀河』はとても良かったです。

しばらく空いて昨年の『ミワさんなりすます』は原作の連載を読んでおり、ドラマ化というところで見逃すことなくチェック。この時期、裏側では『セクシー田中さん』が放送されており、漫画原作の実写化について孕んでいる問題がクロースアップされますが、本作では原作とは異なる展開を見せ、それなりによくできていたと思います。出演俳優(の演技)はとても良かった。

作りたい女〜のシーズン2は、興味が湧かずスルーしましたが、今放送中の『VRおじさんの初恋』が素晴らしいので、本日記事にしています。やっと本題。

漫画原作ですが未読。Wikipediaによればストーリーはドラマ用に改変されているようです。作者の暴力とも子さんはnote上でも作品を発表されており、書籍化についても所感を書かれていますので、これから読んでみます。以後ドラマについてのみ語ります。

概略は、孤独な中年男性がVRの世界で美少女に出会い恋をする、という物語。彼自身、自分の姿を女子高校生に設定する、昔で言う「ネカマ」といったなりすましも、VR世界ともなれば特殊なことではありません。出会った美少女も、主は男性でした。

先入観無しに見ていくと、そのお節介な美少女は、主人公の同僚ではないかなどと想像しますが、身近な人物であったというような偶然性はなく、見知らぬ他人ではありました。しかし現実社会でも接触が始まり、複雑な人間関係が生まれ、物語は想像していたものとはまるで違う広がりを見せます。

原作者の意図なのか、ドラマ制作チームの創作なのか、現時点で私の知見が及ぶところではありません。連続ドラマとして見て、その予測不能であり、人間性の深いところを抉りだしていく掘り進め方が圧巻です。あの中年男が非現実の世界で恋心を持った、というきっかけで実社会での様相が変化していきます。波紋というような静かな広がり方で。その描き方が類例を見ないように感じました。優れています。

当然キャストの力量が、それを破綻させてはなりません。実績のある実力派が堅調な演技を見せてくれますが、それにリンクするアバターたち、設定上若く美しい女性達なのですが、私から見て完全に初見の俳優達が文句なしの役割を果たします。とくに初恋の相手であるホナミを演じる井桁弘恵さんは、それまで名も姿も全く知らない方でしたけれど、回を増す毎に現実社会での複雑な心情をアバターに表出させます。彼女の魅力は多くの方が視聴を続ける理由にされていることでしょう。そして、余命宣告、即ち消滅する宿命を腹に含んでの諦念を見事、描いておられます。

そうした「終わり」を見届ける約束を、我々も取り交わさざるを得ず、その切なさが次第に高まりつつ、あと6話で物語は閉じます。終わることが哀しいです。

人物達の現在と過去が次第に明らかになってきました。そこには、親しい人と、どのように別れるのかといったトピックが含まれます。どうやら孤独を愛す中年男性も悔やまれる体験を抱えていそうです。それは、大袈裟に言えば、私自身の物語でもあります。塀を作り、その中で安全に生きることを選択しながら、壁を壊そうとしてくれる他者の思いに気付く過程が絶妙に描かれており、空想世界の美しさにさえ慰撫される毎日は、視聴者にとっても掛け替えのない時間になっています。

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