見出し画像

つかの間の校長

授業中静かに手をあげ
トイレに行きたいと云う
背後に感じる
微かな笑い声を残し
廊下に出る

ひんやりと冷たい灰色の
迷路が広がっている

トイレに行きたい訳ではなかった
ただひとの中にずっといるのが
嫌だったのだ

階段の手すりを撫でながら
その冷たさに恍惚となり

他のクラスの様子を
聞き耳を立てて伺う

よし、このクラスはまとまっている

どっと、笑い声がして
何があったのか気になる教室もある

わたしはつかの間
校長先生になり
ごくろうさんと云いながら
悠然と構えて廊下を歩き
一通り
巡ると

行きたくもない
トイレの扉を開く

静かだ
ため息が出るほど
静かだ
これが本当の自由時間だ

わたしはトイレの水を流すと
大勢が居る学校の中に溢れる
孤独を堪能する
十分に

クラスに戻る時
校長の立場から

またわたしは平凡な一生徒に戻っている