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104:ミズノ寝具市場参入で思い出した

「スポーツ」と「睡眠」の親和性


先日、当社クライアントでもあるミズノさまより「睡眠市場に本格参入」というプレスリリースが届いた。

https://corp.mizuno.com/jp/news-release/2023/20230526

 それを見て、昔々「ゴルフ用品界(GEW)」という雑誌で連載をしていた頃にそんな記事を書いた記憶が蘇り、過去の記事ファイルを検索したところ、2013年あたりに書いた記事が出てきた。今回は忘備録的に転記。

ゴルフ産業比較論「睡眠関連市場」

 今回は、「睡眠関連市場」を取り上げてみたいと思います。皆さんは最近、フィギュアスケートの浅田真央選手と歌舞伎俳優の坂東玉三郎さんが出演しているCMや広告、また「キングカズ」ことサッカーの三浦知良選手を起用したCMや広告を目にした記憶はないでしょうか。また、国際大会から帰国したスポーツ選手を取材したニュースの中で、「丸い筒」のようなものをキャスターに乗せて歩いている選手の画像を目にしたことはないでしょうか。既にご存知の方も多いのではないかと思いますが、これらは全て睡眠時に使用する「マットレス」を対象としたものなのです。最近やけにトップアスリートたちの間でこれら「マットレス(睡眠関連用品)」がもてはやされているように感じます。兼ねてから自社で発刊してきた資料の中で、「一晩にコップ一杯分の汗をかくといわれている睡眠も、拡大解釈をすればスポーツの一種である=トップアスリートを満足させる品質を有するスポーツ用品業界にとって、長年蓄積してきたノウハウを活用できる新たな世界である」という主旨の発言をしてきた私にとって、非常に興味深い動向に映りました。一体「睡眠市場」の中で何が起きているのでしょうか。

 しかしながら、果たして「睡眠市場」などという市場が規模化されているものなのか。「全産業を調査領域として網羅している」のが私の勤務している矢野経済研究所のセールスポイントの一つではあるのですが、さすがに今回はそのような資料はないだろうな、と半ば諦め半分で資料を検索したところ、何と関連資料が存在していました。「睡眠関連ビジネス市場の現状と方向性 2013年版」という名称の資料なのですが、具体的に睡眠関連ビジネスを「機能性寝具類」「食品・サプリメント」「医科向け睡眠薬、睡眠改善薬(OTC医薬品)」「睡眠時無呼吸症候群(検査、治療:CPAP機器)」「睡眠計測器」という5つのカテゴリーに分類して分析しています。ちなみに、上述した「浅田真央選手と坂東玉三郎さんが出演している」のは株式会社エアウィーヴが製造、販売する「エアウィーヴ」という商品、「三浦知良選手が出演している」のは西川産業株式会社(東京西川)が製造、販売する「AiR」という商品なのですが、これらの商品は同資料内では「機能性寝具類」に属します。資料には機能性寝具類の詳細な市場規模データは掲載されていませんが、「機能性を謳ったマットレスパッド分野の市場が大きく上昇している」とあります。その成長性を示す指標のひとつとして、上述した株式会社エアウィーヴの売上高推移が掲載されているのですが、何と年率で300%以上の成長を誇っており、直近の2013年2月期は対前年比481.8%の53億円という驚異的な成長を遂げています。同じく同資料内には「(機能性以外のものを含めた)マットレス市場全体は頭打ち傾向にある」とのことですので、成熟化している市場の中で、この「エアウィーヴ」や「AiR」といった商品が付加価値商材として市場で急激に認知が広まっているかが分かります。

 この「エアウィーヴ」という会社、もともとは釣り糸などを作る樹脂射出成形機の製造装置メーカーだったそうですが、2004年11月にマットレスパッドのメーカーとして設立されました。いわば「異業種からの参入」だったということになりますが、僅か10年足らずで急激な成長を続けた要因は一体どこにあるのでしょうか。調べていくと「トップアスリートを起用したマーケティング戦略の徹底」という絵が見えてきます。同社のウエブサイトやプレスリリースを見ると、これまでのアスリートに対する主なサポート活動実績が掲載されています。主なものとして、

・2007年 国立科学スポーツセンター(JISS)の宿泊施設への採用
・2008年 北京オリンピックで水泳、陸上代表約70名が使用
・2013年 日本オリンピック委員会 オフィシャルパートナーシップ契約(マットレスパッド、ピロー)

などが挙げられますが、新たに今年9月日本女子プロゴルフ協会(LPGA)ともマットレスパッドのオフィシャルサプライヤー契約を締結しています。短期間にこれだけ数多くの実績を残しているというのは、アスリートを満足させる性能が伴っているであろうことは想像に難くありませんが、「睡眠」というスポーツ産業にとって異なる土俵であるとは言え、スポーツ用品業界以外でここまでトップアスリート達に深く浸透している企業が存在していたというのは、私にとって大きな驚きでした。最近では、「スポーツ活動時以外に着用する」というコンセプトの「リカバリーウエア」が開発・発売されており、一部のゴルフ用品小売店では行き渡り感の出た機能性アンダーウエアに代わる商材として好調な販売を記録しているようです。これまで「プレーヤーが競技時に最大限のパフォーマンスを発揮すること」を主眼に開発されてきたスポーツ用品が、「競技時以外においても最高のパフォーマンスを提供することで、競技時により高いパフォーマンスを発揮できる」領域へと広がり始めたということを、今回の機能性寝具類の成長は指し示していると言えるのではないでしょうか。



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