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「メンヘラ」はメンタルヘルスを救うか〜「病み」と「闇」の形容〜

「メンヘラなの?」


とある都内のカフェ。私は1つ年上の男性の友人と話し込んでいた。
利害関係のない人なので、何を話しても大丈夫かなという安心感から、私はつい込み入った話に入ってしまっていた。なぜか家族の話になって、自分はあまり家族と会話をしないと言うと、彼はニヤッと笑って言った。

「そんな闇深そうなこと言うなよ〜。」

私は黙り込んでしまった。自分は闇の部分を見せたつもりは全くなかったのに、闇深いことを言うな、と命令を受けたので、次に何を話せば良いかわからなくなってしまった。

話はだんだん恋愛相談となっていった。私はパートナーと別れたばかりで、未練がましく彼の話をしていた。

「私メンタル弱いからさ、彼に頼りたかったんだよね。でも、彼はそこまで私を好きじゃなかったみたい。私はね、大好きだったんだ」
「なに、メンヘラなの?」

私が数秒黙っていたら、「図星ついちゃった?」とイタズラっぽく男性が笑った。

「……そう!メンヘラなの。私メンヘラだからさ、受け入れてくれる人なんていないんだよ…。」

私は緊張がほぐれて、ふっと笑って言った。

 「めんどくせぇカノジョ」


メンヘラという言葉で、2年ほど前、大学の友人が、自分のパートナーの話をしていたのを思い出した。彼らはもう別れてしまったらしい。

「俺のカノジョ、2時間以内に返信しないと怒るんだ。」
「大変だね」
「メンヘラなんだよ、あいつ。めんどくせぇ」

私は自分は返信の速さにこだわる人の気持ちが当時はわからなかったので、笑うことしかできなかった。

ネットスラングとしての「メンヘラ」

メンヘラとは一般的に「メンタルヘルス(心の健康)になんらかの問題を抱えている人」をあらわして使われることが多いよう。インターネット上で生まれた言葉だと言われていて、よく言われる「メンヘラ女子」は【重い女】【面倒くさい女】などのニュアンスで使われることが多いようです。

小学館

「メンヘラ」と画像検索すると、可愛らしく着飾った女の子のイラストがヒットする。女の子はたいてい顔色が悪く、左手首には包帯を巻いている。
「メンヘラ」は、友人や恋人に依存し、関係が面倒になってしまうような人のことを揶揄する言葉にどうやらなっているらしい。しかし元々の意味は「メンタルヘルス」で、心の健康に問題を抱えた人を総合的に指すようだ。

精神病院に入院していたとき、主治医の先生とこんな会話を交わしたことがある。

「smiさんは、手首切っちゃったりだとか、自分を傷つけた経験はありますか。」
「あんまりないですね。指の皮をしきりにむしって、血が出て痛かったことならありますけど。」
「今も、そういうことをすることはありますか。」
「今はしなくなりました。」
「そうですね、それも立派な自傷行為ですよ。」

「メンヘラ」のイラストには飾りのように手首に包帯が巻かれているが、その背景にある自傷行為の深刻さに焦点が当てられたことはあるだろうか。
現実世界では、入院に値する。実際私が入院した病院にも、リストカットの跡のたくさんついた若い女性がいた。

「メンヘラ」という言葉は、悩み苦しむ人々を、関係が面倒くさいという理由だけで嘲笑する側面が含まれていると感じる。

「メンヘラなの?」と言われたら

では、「メンヘラ」と言われた私は、どう返せば良かったのだろうか。言われた当時の私は、開き直って一緒に笑ってしまった。しかし「メンヘラ」と言われ、自分もそれを受け入れたことで、自分が抱える膨大な苦悩の全てを「メンヘラ」という客観的評価に圧縮してしまったように感じる。「私、メンヘラだから……」と自己肯定感をさらに下げてしまった。
このネガティブな思考の循環は、やめた方が良いだろう。
正解はないが、メンヘラについて熟考した今の私の考える返し方は、こうだ。

「そうだね。でも、メンヘラなりに頑張ってるんだよ。」

「メンヘラ」という言葉の持つ滑稽さを利用して、ユーモアの次元に話を落としたうえで、メンタルヘルスに対し前向きな姿勢を見せる。これが「メンヘラ」との向き合い方なのではないだろうか。


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