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【読書】藤井亮『ネガティブクリエイティブ』

2024-04-03

藤井亮さんの『ネガティブクリエイティブ つまらない人間こそおもしろいを生みだせる』を読みました。
「石田三成CM」や、「TAROMAN」を手がけた映像プロデューサーが書いた仕事術の本です。

私は一応映像でメシを食っている人間でして、そういう意味ではクリエイティブな業界に身を置いていると言えなくもありません。
とはいえ、毎日の仕事にはルーティンワークも多く、毎日刺激的!終電フゥッフゥ!とかいう仕事では全くございません。

それでも時折、「仕事で成功するためには独特の感性や発想が必要なのでは?」みたいな思索に陥り、直後、自分の引き出しの無さや言葉選びのチョイ悪さに絶望する、ということを繰り返してきました。


そこにきてこの本『ネガティブクリエイティビティ』を読んだのですが、これがなかなか、いい。

上述したような、「クリエイティブな世界に身を置いている自分」像をことごとく崩し、世の中のあらゆる人と同じ目線で汗をかきかき仕事をすることの大切さを教えてくれる本でした。

 世の中のほとんどのコンテンツを届けるべき相手は、ごく普通の人たちです。都会に住んでいると勘違いしそうになりますが、おしゃれなオフィスでおしゃれなケータリングを食べながらミーティングして、「庶民感覚」がどうのこうのと上から目線で論じている世界は、普通でも庶民でもありません。クリエイティブ業界はそれを忘れてはいけないと思います。

藤井亮『ネガティブクリエイティブ』扶桑社. 2024. p162

いちばん心にずんときたのは上のフレーズ。
勝手につけあがり、勝手にもがき勝手に自滅しがちな自分が、常に胸に刻んでおくべき名言です。


さて、本の中身としては、「ネガティブだからこそ細部にまでこれでいいだろうかと自問自答を繰り返し、結果として精度の高い作品を生み出すことができるのだ」というのが大意です。

全部で49の小見出しからなり、実践してみたいアドバイスや仕事論がそれぞれ2~3ページほどでまとめてられています。

正直いって、突飛なアイデアやウケ狙いのユーモアは書かれていません。それぞれのアドバイスは、とても地味で堅実なものばかりです。でも、あの藤井亮さんが書いたものだから、という理由で、妙にしっくりくるんです。

そして、そのタネ明かしとも言えるアドバイスが、19個目の小見出しに載っていました。

土台となる世界観さえ変なものにしておけば、あとはどんなにまじめなことをしても、極端なことを言えば、ただの日常を描くだけでもおもしろくなるからです。

同上. p95

そう、大枠となる背景設定、世界観が変であれば、その舞台上で誰が何をしようと、勝手におもしろくなるのです。

この本も、「あのオフザケ系プロデューサーの藤井亮さんが書いた本」という背景がすでに変なんです。真面目なことを書くはずがないだろうな、と。

その下地がある時点で、ふざけたことが書かれていても、「やっぱりあの藤亮さんだもんな」となるし、真面目なことが書かれていたら、「あの藤井亮さんなのに!?」となる。こりゃ一本取られたな、と思ったのでした。


前述のとおり、本の中で紹介されているアドバイスは真面目で愚直なものばかり。なので、読めば考え方が180度変わるだとか、今日から君もクリエイティブ!みたいな感じにはなりません。

でも、本全体を通して、「変な土台」をつくることの大切さをじわじわと教え込まれたような不思議な感覚になりました。
おすすめ、です。

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