日本アニメの大航海時代:後編(80年代アニメ事情)
80年代アニメについて記事を書いています。
今回は後編ですが、前編以上にマニアックな話になりますので、ほんと、ご容赦ください!(←抑えきれんのか?!)
+ + + + + +
前編で紹介できなかった残り2つのラインに沿って紹介していきます。
■ ガイナックス(GAINAX)ライン
まずはガイナックスのラインについて…
1984年、20代を中心とした自主映像制作集団が、自分たちの映画を作るために立ち上げたのが "ガイナックス" です。
そして1987年、とうとうその映画が公開されます。
まだ、10代だった自分にとって、ちょっと上のお兄さん世代の人たちが作った映画なんて… その事実だけでインパクトがあったのですが、その映画というのが…
『王立宇宙軍 オネアミスの翼』1987.3
監督:山賀博之
制作:ガイナックス
公開当時、あまりヒットしなかったんですよね。
今では再評価されてますが、事前の期待が大きすぎたのか、全体のトーンの暗さのせいなのか、キャラが地味だったせいなのか、私的にも、なんか突き抜けきれてない印象でした。
ただ、CGのない時代なんですが、作画や動きは神がかってましたね~。
多少、ストーリーがまったりしてても、クライマックスのロケット発射の場面のみで伝説を作った作品なんです。
そして、その後にガイナックスが制作したのが…
『トップをねらえ!』1988.10~
監督: 庵野秀明
制作:ガイナックス
庵野秀明さんの初監督作品です。
『オネアミスの翼』が制作費を回収しきれなかったことを受けて制作された全6話のOVA作品です。
そんな事情なんで『オネアミスの翼』とは打って変わって、美少女とメカ、スポ根、ラブコメ、過去のSFや特撮のパロディやオマージュと、もう、てんこ盛りの作品でした。
女の子達のユニフォームを見ただけで、なりふり構わぬ ”あざとさ” が感じられると思うんですが、軽~い気持ちで観てたら、後半のシリアスな展開に不意を突かれてしまうんですよ。
スケールも大きいし、ウラシマ効果に起因して、宇宙で戦ってる者と地球で待つ者との時間がズレていく様子が表現されてたりと、細かなこだわりにSFファンも納得の傑作だったのです。
庵野秀明さんのその後の活躍は言うまでもありませんが、NHK制作アニメ『ふしぎの海のナディア』(1990)の総監督に起用され、評価を確立していくことになります。
そして、1995年にあの作品を手掛けるんです。
<『新世紀エヴァンゲリオン』1995.10~>
監督: 庵野秀明
制作:ガイナックス、タツノコプロ
"深夜アニメ" という枠が定着してきた頃ですね。
深夜の放送なんで、当然、年齢対象は上に設定されていて、題材や表現方法も相応のものになっています。
『新世紀エヴァンゲリオン』はそこにハマって、後に社会現象と言われるほどのブームを生み出したのです。
その後、ガイナックス自体はゴタゴタにより残念な結果になってしまうのですが、初期に在籍していた若手クリエーターの皆さんは、 今でも活躍されている方が多いのです。
ちなみに、その中の一人、前田真宏さん(現カラー)は、2003年の『アニマトリックス』* に抜擢された日本人監督の一人です。
■ 『迷宮物語』ライン
次に紹介するのは、公開日が迷走したオムニバスアニメ映画『迷宮物語』のラインです。
元々はりんたろうさんと丸山正雄さん(現MAPPA会長)が角川映画の併映作品として企画したアニメ映画です。
本来なら '86年に公開予定だったのが、完成後、ちょっとマニアックな内容だったために公開が見送られ、'87年になって東京国際ファンタスティック映画祭で上映、同年ビデオ化されたことで、ようやく一般でも観れるようになった紆余曲折ある作品なのです。(公開が見送られるなんて、かえって内容が気になりますよね)
『迷宮物語』1987.9
監督:りんたろう「ラビリンス*ラビリントス」
監督:川尻善昭「走る男」
監督:大友克洋「工事中止命令」
制作:マッドハウス、アルゴス
りんたろうさんは、映画版『銀河鉄道999』や角川の『幻魔大戦』『カムイの剣』などを監督していて、当時の自分にとって大好きだった監督さんの一人なのです。
オムニバス映画なんですが、りんたろうさんが担当してるのはオープニングとエンディングみたいな感じで、間にメインとなる二つの作品が挟まってる構成です。
そのメイン作品の一つが、単独監督としては初となる川尻善昭さんの作品、そしてもう一つが大友克洋さんの初監督作品なのです。
内容については、確かにマニアックで商業向けではないかもしれませんが、大友克洋さんの初監督作品ですからね~、公開見送りなんてもったいない!
さて、メインのお二人のその後について
『迷宮物語』を経て、次の監督作品となったのは、当時大人気だった菊地秀行さんのスーパー伝記小説『幼獣都市』です。
『幼獣都市』1987.4
監督:川尻善昭
制作:マッドハウス
原作:菊地秀行
この作品も80年代に生まれた傑作のひとつです。
原作がエロスとバイオレンスに彩られたアダルト小説なんで、かなり控えめにしてるとはいえ、それなりにアダルトなシーンも多い作品でした。
ただ、川尻義昭さん独特のクールな感じが全編を覆っていて、全然、下品にならないんですよね。(むしろハードボイルド!なんです。)
川尻義昭さんの作品は海外でも人気で、同じ菊地秀行さん原作の『バンパイアハンター D』なんかは、海外で先に公開され、国内では字幕で公開という珍しい逆輸入作品でした。
また、川尻さんも『アニマトリックス』* に抜擢された監督の一人です。
<『Vampire Hunter D』2000.8>
監督:川尻善昭
制作:マッドハウス
原作:菊地秀行
< その後の大友克洋 >
80年代の大友克洋さんといえば、日本アニメ史における大きな仕事をしています。
それが '88年公開のSFアニメ『AKIRA』です。
漫画も連載途中だったのにアニメ化するという、一人メディアミックスの荒技が炸裂でした!
『AKIRA』1988.7
監督:大友克洋
制作:東京ムービー新社
80年代アニメの金字塔ですよね。
監督2作目ですが、こだわり抜いた作画がすごかったです。
公開に間に合わせるため、かなりの数のアニメーターさんが動員されたという話がありました。
全世界を熱狂させた『AKIRA』でしたが、大友克洋さんはその後も、『MEMORIES』(1995年)、『スチームボーイ』(2004年)、『SHORT PEACE』(2013年)と10年単位ぐらいでアニメ映画を制作してくれています。
… あれ?、そういえば、新作の『ORBITAL ERA』ってどうなってるんでしょうね。
■ インターセクション
この時代って、意外とオムニバス系の作品が多かったのですが、関わっている人が多いと、いろんなラインが交差してることも多いのです。
最後に紹介したいOVA作品も、これまで紹介したラインも交差した作品なのです。
『ロボットカーニバル』1987.7
監督:大友克洋「オープニング&エンディング」
監督:森本晃司「フランケンの歯車」
監督:大森英敏「DEPRIVE」
監督:梅津泰臣「プレゼンス」
監督:北爪宏幸「STARLIGHT ANGEL」
監督:マオラムド「CLOUD」
監督:北久保弘之「明治からくり文明奇譚」
監督:なかむらたかし「ニワトリ男と赤い首」
制作:A.P.P.P
『ロボット』というテーマのもと、各アニメーターが個人作家として短編を作るというコンセプトのオムニバスOVA作品です。
オープニングとエンディングを大友克洋さんが務め、間に7人のアニメーターによる7つの作品が収められています。
テーマはありますが、ほんと7者7様の出来上がりです。
脚本はもちろん、作画の方も自分でやってるわけなんで、こだわりが詰まってる作品になってるんですよね〜。
これも、知る人ぞ知る地味な作品なんですが、7人のアニメーターさんのその後の活躍を考えれば、紹介しないわけにはいかないのです。
うち、3人の方についてその後を紹介します。
< その後の森本晃司 >
「フランケンの歯車」を監督した森本晃司さんは『迷宮物語』をはじめ『AKIRA』にも参加するなど、大友克洋さんとの関係が深い方です。
その後、大友さん関連のオムニバスアニメ映画『MEMORIES』の第1話を監督しています。
また、『アニマトリックス』* に抜擢された監督のひとりです。
<『MEMORIES』1995.12>
監督:森本晃司「彼女の想いで」
監督:岡村天斎「最臭兵器」
監督:大友克洋「大砲の街」
制作:スタジオ4℃、マッドハウス
< その後の梅津泰臣 >
私にとって『ロボットカーニバル』の中で最も気に入ったのが梅津泰臣さんが監督した「プレゼンス」でした。
その後の監督作品は少ないのですが、1998年に制作したアダルトアニメ『A KITE』が有名です。
少女の殺し屋を描いたアニメで、バイオレンスたっぷりな上に、どぎついエロスもある過激な作品なんですが、海外での人気が高く、2014年にはアメリカで実写版が制作されました。
<『A KITE』1998.2>
監督:梅津泰臣
制作:アームス
< その後の北久保弘之 >
北久保弘之さんは、本記事の前編で紹介した『ブラックマジック M-66』で士郎正宗さんと共同監督を務めた方でもあるんですが、『ロボットカーニバル』では、他のメンバーを集めるプロデューサー的な役割とともに「明治からくり文明奇譚」の監督を務めています。
その後は1991年に『老人Z』、2000年には『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の監督をしています。
特に『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の方はフルデジタルで制作されていて、日本アニメ界のデジタル化を語る上で外せない作品だったりします。
また、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』は海外での評価も高く、クエンティン・タランティーノが『キル・ビル』のアニメパート制作をProduction I.Gに依頼するきっかけとなった作品なんです。
<『BLOOD THE LAST VAMPIRE』2000.11>
監督:北久保弘之
制作:Production I.G
+ + + + + +
前編以上の文字数になってしまいましたが(💦)、前・後編を通じて、様々な冒険がされた80年代のアニメ作品、また、そこで頭角を現したクリエイターの皆さんのその後の活躍を紹介してきました。
前編を含めた80年代の紹介作品を年表で確認してみると、 '87~ '88年辺りとかすごいですよね~
時代が動いてるって感じがします。
アニメ映画やOVAで活況となったアニメ界ですが、その後もアニメを巡る状況は変化していきます。
「深夜アニメ枠」や「BS」が登場してきたり、現在では様々な「配信プラットフォーム」があって、制作費はビデオやDVDでなく配信料等で回収されるようになってきてますし、レイティングも国内だけでなく世界を意識して作られるようになってきてるので、ますます細分化されていってる感じです。
刻々と変化するアニメを取り巻く状況ですが、きっと、これからも変化していくのでしょう。
ただ、この80年代の大航海時代を思い出すと、むしろ、状況の変化によって、どんな新しい作品が生まれてくるのか楽しみで仕方ないんです。
+
クリエーターさんたちの<その後>を紹介する中で『アニマトリックス』に触れてる部分があるので最後に紹介しておきます。
『アニマトリックス』は、『マトリックス』のウォシャウスキー姉妹製作のオムニバスアニメで、『マトリックス』の世界観をモチーフにした9本の短編アニメーションで構成されています。
ちなみに、日本からは5人の監督が参加しているのですが、日本アニメの質の高さが評価されていて、何やら誇らしい感じなのです。
<『アニマトリックス』2003.6>
監督:アンディー・ジョーンズ「ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス」
監督:前田真宏「セカンドルネッサンス PART1&2」
監督:渡辺信一郎「キッズ・ストーリー」
監督:川尻善昭「プログラム」
監督:小池健「ワールド・レコード」
監督:森本晃司「ビヨンド」
監督:渡辺信一郎「ディテクティブ・ストーリー」
監督:ピーター・チョン「マトリキュレーテッド」
制作:STUDIO4℃、 マッドハウス
(関係note)
*