見出し画像

介護とジェンダーについて考えた5ヶ月 | 堤 香奈子

皆さんは介護について誰かと話し合ったことはありますか?我が家は、80代の母と50代の私が共に暮らしている。我が家では父が健在であった時から介護について話し合ってきた。 その時から母は「介護施設に入る」と言っている。
 
 なので、私達の間ではこんな会話が成立している。私が有名人の名前などを思い出せない時に、「介護施設に入る」と言っている母が「(あなたを)先に施設に入れるよ」と言い、私は「お先に(施設に入ります)」と言い、笑い合っている。お互いに元気だからこそできる会話である。介護についてお互いに話ができていことで、私の気持ちも母の気持ちも楽になっているのかもしれない。

 なぜ冒頭のような質問をしたのかというと、私が札幌市男女共同参画センターに勤務するようになって1年になり、4月からは当センターが発行する情報誌「りぷる」担当者の一員となったからだ。この情報誌は当センターが年2回発行しており、次号は「介護」がテーマとなった。それから約5ヶ月、介護について考え続けてきた。

 東京に住んでいた時は、23区内の区役所で非常勤職員として14年働いていた。所属部署は福祉部福祉課高齢者支援係であったため、福祉関係の仕事の中でも介護について関わることが多かった。そのため、様々な介護に関する問題を目の当たりにしてきた。金銭の問題や虐待など、生々しい状況も見た。ここで私が見聞きしてきた介護に潜むジェンダー問題を重くならない程度に書いてみようと思う。

 一つは男性の方の話である。70代前半にみえるその男性は、車いすに女性を乗せ、私の職場にやってきた。東京の役所ではネームプレートタイプの「介護者」という札を介護者に渡していたので、男性もそのネームプレートを受け取りに来たのである。男性は恥ずかしそうに「妻のトイレ介助に多目的トイレを使用する時に下げておきたい。男性が女性の世話をしているので、通行人から冷たい目で見られるのが嫌だ」とおっしゃっていたのが印象的だった。

 二つ目は女性の方の話である。女性の兄は実家を出て家庭を持っているのだそうだ。その女性は、仕事をしながら認知症の母親の介護をしていた。母親も不安になるのでしょう、度々、彼女の職場に電話が入るとのことだった。その都度、彼女は席を外し母親に電話口から声をかけていたとのこと。その対応をするにあたり、同僚にも気を遣い、帰宅してからは同じことを繰り返し言い続ける母親に付き合う生活だと聞いた。彼女は時々、「兄は長男のくせに母の面倒をみない」とも言っていた。結局、彼女は仕事を早期退職し、母親の介護に専念することになった。
この二つのケースには、いくつかのジェンダー問題が潜んでいる。男性が女性のトイレ介助をしたからといって非難されることではない。こんな世の中なので監視の目も必要だが、温かい目線も大切であると考える。二つ目のケースの「長男のくせに母親の面倒をみない」という言葉は、介護のつらさ故の発言だったのだと思う。彼女の状況を知ってしまうと、彼女がそう思ってしまうことも責められない。彼女の兄が責められるものでもないとも思う。しかし、そう思い込むような環境にしたのは、私たちのなにげない言葉だったのかもしれない。そして、彼女が仕事を辞めなければ介護を続けられなかったことにも違和感を覚える。今は育児同様に男性が介護に関わることも多くなってきた。女性も男性も働きながら介護と向き合う時代だと思う。

 「りぷる」担当の一員になったことで、福祉課で働いてきた時に疑問に思っていた介護に潜むジェンダー問題を発信できるようになったことは幸せななことだと思う。介護というテーマは広く、そして奥が深いので、すべての方の立場から提案することは難しい。けれど40代~50代の介護が始まったばかりの方や直面しそうな方には参考にしてもらえる内容になったと思う。「りぷる」を手にとって、一緒にジェンダー問題を考え、どんなことでもいいから介護について話し合ってもらえたら嬉しく思う。

 皆で話し合ってみる、その行動が介護者にも要介護者にも優しい社会になるための大きな一歩となっていくと考える。多様化してきている介護を思い込みや風習にとらわれることなく、しなやかに受け入れられる社会になってほしいと願っている。

 この5ヶ月、介護からジェンダー問題を考え続けてきたので、この原稿を提出したら他の角度からジェンダー問題をみつめてみたい。


プロフィール
札幌市出身。昨年8月より札幌市男女共同参画センターでサポートスタッフとして勤務。今年の4月より情報誌「りぷる」担当の一員となる。民間企業で8年間勤務。その後、京都と東京で暮らす。東京では23区内の区役所 福祉部で14年勤務。福祉部では様々な福祉に関する問題を見てきた。福祉で得た経験と道外で生活した経験を活かして、今後も働いていきたい。好きなことは演劇鑑賞・美術鑑賞・ダンス・手話など(好きなだけで、うんちくは語れない)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?