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夕暮れ、追憶の束の間〜珈琲の佇まい

年の瀬の束の間は
ひとり時間があっていい。ぼおっと。
テーブルに一杯のブラックコーヒー。
その白い湯気を追いかけると、
いつの間にか、目の前の景色が消え、
遠い日の追憶が広がっていく…。

…あの日あのとき、あの笑顔。
今はもういないあのひとが
ストップモーションで蘇り、
モノクロームのなかで
静かに語りかけてくる。

いつの日か切り結んだ心が
いつの間にか、もつれ、はぐれて、
もう決して交わることのない生き方を
互いに選択していた。

不器用で頑固、自分勝手で浅慮、
ささくれた心、そして意気地なし。
思い当たる我が欠点は枚挙に暇なく、
若気の至りのゆく先は
一抹の悔いと盛り沢山の申し訳なさ。

夕暮れの熱々ブラックは
苦さが沁み入り、
渋いほどにじわりと利いてくる。


独りの部屋に隙間風が吹き込んで
ふと我に返る。
腕時計の針は10分だけ動いている。
僕の時間だけ10年も戻っている。
壁のほのかな電灯を仰ぎみる。

歯車の軋んで止まったあの音を
僕は今でも時折、思い出しているんだ。

珈琲は不思議だ。
途方もない魅力、魔力がある。
今からでも、遅くはないかもしれない。
この熱さがそんなふうに思わせてくれる。
自分のなかで何かが立ち上がり、蘇る。

「ふぅーっ」、分かっているのです。
この一杯に、深謝を捧げて。

「冬夕焼け ひとり珈琲 面影と」弥七


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