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新規事業開発のアジェンダ ~Foreword~


はじめに

「シリコンバレーにゼロ→イチの新規事業開発をミッションに来ています!」

日本の大企業に勤める現地駐在員の方と話をすると、多くの方が上記のようなこと述べ、実際に弊社としてもこの数年間、多くの日系大企業を中心とした新規事業開発案件に携わったり実際の事業開発にまつわる話を聞かせていただく機会に恵まれました。

全ての話が興味深く、オリジナリティに富む一方で、企業横断的に見続けることで共通する成功の秘訣や課題のようなものも浮き上がってきます。私自身がそれを評価する立場にあるわけではありませんが、敢えて総括すると「期待と現実のGAPは大きい」と感じている企業が多い印象で、分かりやすいモデルケースがまだほとんど生まれていないように思います。


これからしばらく、新規事業開発における私なりの洞察を連続して書いていきたいと思います。ここで私は、
「なぜ日本の大企業発の新規事業開発は成功しないのか?」
という問いからスタートするつもりはありません。
そのような問いから始めたい衝動もないわけではありませんが、大企業を一括りにすることも成功していないと断定することにも違和感を覚え、同時に現地で一生懸命活動をする仲間やクライアントに対してリスペクトを欠いた内容にはしたくないと考えました。

一方で、多くのアプローチが様々な矛盾を抱えたり、改善の余地を抱えているとも思っており、特にシリコンバレーという地にヒントを求めて進出してきているにもかかわらず、その発展のメカニズムを捉え切れていない、あるいは経営プロセスに落とし込めていない企業が多くことは事実ではないかと思っています。

「大企業の新規事業開発成功に向けて考えるべきテーマとその論点か何か?」

これを問いのスタートとし、正しい性向への道を一緒に探す手伝いをできればと思います。


新規事業開発と帰納法 ~御社のケースは唯一無二なのか?~

英語では "One-fits-all"という言葉がしばし使われます。そして、新規事業開発という文脈においては、One-fits-allなソリューションは存在しないという否定文で使われることが多い表現でもあります。果たして本当にそうなのでしょうか。私は2021年秋からStanford GSBのExecutive Educationに約2年間在籍し、同大学でMBA学生等に対して教鞭を取る教授たちの授業を受けましたが、下記の3点に大きな衝撃を受けました。

  1. ビジネスの重要な事象に対する科学的な分析 (メカニズムの理解)

  2. メカニズムの一般論化 (メカニズムの理論への昇華)

  3. 打ち立てた理論の実ビジネスでの検証 (理論の実証)

スタンフォード大のビジネススクールでの学びには「実ビジネスで使えて初めて意味を為す」という強いDNAが存在すると同時に、それらは「多くのビジネスにおける出来事、特に成功と失敗には共通するメカニズムがあり、それを理解することで成功は再現可能なものになる」というマインドセットとしてシリコンバレー全体に波及していると確信しました。

この国が優れている点として、私は帰納法を挙げたいと思います。上記のスタンフォード大学におけるアプローチの例も帰納法だと考えます。彼らは経験を通じて得た事象に対して「なぜ?」と突き詰めて、そこから普遍的な法則を導き出すことに非常に長けています。

1つ例を挙げたいと思います。授業に "Neuroscience And The Connection To Exemplary Leadership" というものがあります。ビジネスにおける個人や組織のパフォーマンスを神経科学の観点から解き明かすというもので、大変人気のコースであり私も受講しましたが、その中で組織が成長するにつれて保守性向を帯びてくる事象を理論的に解明しようとしている内容は非常に印象的でした。(ちなみに、この考え方は故クリステンセン教授が打ち立てた有名な「イノベーションのジレンマ」と完全にシンクロします。)


詳細は割愛しますが、理論的な理解が出来ると対抗策やアクションを考えることが出来ます。「うちの経営陣は新しいトレンドやテクノロジーが理解できない」とか「あの役員は保守的だからどうしようもない」という愚痴を聞いたり言ったことはあるのではないでしょうか。(私ももちろんありますw) ここで愚痴や諦めで終わるのか、仕組みを理解した上で何かしらの手を打とうとするのか。ここには非常に大きな差があると思いますし、このような実践的な学問を提供する場がシリコンバレーのど真ん中にあることはこの地に大きなアドバンテージをもたらしているのではないかと思います。


これを日本企業がシリコンバレーで行う新規事業開発やR&Dにも応用したいというのが本連載での想いです。当然、企業ごとに異なる文脈で活動は行われており、ミッションやゴールに微妙な差異があることは間違いないと思います。しかし、そこで「だからOne-fits-allは存在しない」と独自路線をイチから模索し過ぎることは少なくともシリコンバレーやアメリカの競争力の源泉の大きな1つから目を背けているのと同じだと思います。

語りつくされている感もありますが、日本の成長は間違いなく海外からもたらされ、それらの模倣でした。最初は仏教などから始まり、ポルトガルからの鉄砲やキリスト教が戦国の動乱を終わらせることに貢献し、最大の模倣は明治維新時の英仏普からの近代国家諸制度、そして太平洋戦争後のアメリカからの憲法および教育制度などに至ります。

シリコンバレーを見ていて面白いのは、ここの模倣を日本は行っているものの、その本質や文脈を理解せずに表面的にとどまっている点です。誰もが「シリコンバレーをそのまま日本に取り入れてもうまくいかない」と理解して声高らかに言いながら、一方でそのまま取り入れようとしています。私の解釈は、そのまま取り入れたいけど日本的制度や文化などが邪魔をしてムリ、その嘆きが「そのままだとうまくいかない」という発言で、多くの活動がここでストップします。その次に進めるためのアプローチこそがアメリカが得意とするような法則の理解と、その法則や理論の社会実装だと信じています。

本シリーズの狙いと留意点

新規事業開発のアジェンダでは、新規事業にまつわる様々なテーマや論点を取り上げ、それらに関して私なりの整理や理論化をしていきます。最初に断っておきますが、本内容は過去のプロジェクトや現地で聞かせてもらった体験談に基づきつつも、私の提唱する内容は全て「仮説」であり、完全な正しさを保証するものでは一切ありません。

ここで書く意味としては、この仮説に対して読んでいただける皆さんの意見やフィードバックを集め、ここでの議論を通じてブラッシュアップして精度を上げること、そしてそれらを活用した方々の新規事業が成功することで実践的な理論やモデルへと昇華され、ひいては日本のビジネスが大きく飛翔する一助になる、そんな大きな野望を持っています。


コメント欄でも個別でも構いません、たくさんのご意見やリアクションをお待ちしています。
また、同テーマを一緒に考えたり書く仲間も合わせて募集しています
単なるディスカッションパートナーだけでも大歓迎です。
特にシリコンバレー在住の方で興味ある方は気軽にご連絡ください。

(なお、クライアント案件は守秘義務もあるため特定可能な情報を基本的に記載しておりません。一方で、それがコンサルティング会社が書く記事や本がちょっと教科書的でつまらないと思われる理由かもなぁと感じる次第で、多少ブロークンかもですが分かりやすさを出せればと思っています。
社名等が出てくる場合、基本的にクライアント許可を取ったもの、あるいは別媒体等で既に公開された内容です。)



新規事業開発のアジェンダ

私が今後論じていきたい様々なアジェンダを以下に簡単な論点と共に記載します。

新規事業開発におけるポートフォリオ的な考え方

少なくない企業が日本の少子高齢化やコロナ等の破壊的な環境変化リスクへの生き残り策として新規事業開発を戦略目標として位置付けています。1つに張ることでゼロサムとなることへの回避策という意味で素晴らしいのですが、時が経つにつれて新規事業作りそのものが目的化し、少し事業の筋さえよければ「共倒れ」事業に次々と着手する企業がいるのはなぜでしょう。

また、このポートフォリオに「既存事業や保有技術とのシナジー」という条件が入ることで事態は急激に複雑化します。

事業シナジーやコア技術活用

多くの製造業の新規事業開発に登場するキーワードです。新規事業の条件に「既存工場のラインを活用すること」、「立ち上がった後はどこかの事業部に渡すこと」、「自社のコア技術を用いること」など。いずれも局所的な視点で見れば理解できなくもないですが、この制約こそがスタートアップが狙う大企業の「スキ」であり、企業から大きな成功が生まれない原因かもしれません。既存の枠組みを超えるべき新規事業に既存の枠組みをカバーするという矛盾が構造的に起こっている可能性がある領域です。

人材不足という嘆き

「うちの会社には新規事業開発を担えるアントレプレナーシップを持った人材がいない」ことを課題として挙げられていることは非常に多い印象です。しかし、本当の意味でアントレプレナーシップを持った人材はリクルート社のように退職して自ら事業を立ち上げます。また、この課題感は「スーパーマン探し」をしているようなもので、優れたスタートアップは最初に優れたチームを作ります。大企業の新規事業開発で社内各部門のエース級人材を全てアサインしたらスタートアップにとってこれ以上の脅威はありませんが、果たしてそれを行える大企業はどのくらいいるのでしょうか。

企業文化の変革

社内発で新規事業開発を成功するために企業文化が変わる必要があると考える経営者は多く、私も賛成です。では、企業文化はどのように「作る」「変える」のでしょうか。ここを突き詰めて考えている経営者の量は日米で大きな差があるように感じます。また、こここそがアメリカのアカデミックシーンではリーダーシップ論など含めて学術・体系化されており、その実現確率を高めているところでもあります。弊社はここに "キャズム" の考え方を適用する、というアプローチを採っています。

新規事業の箱

新たな事業を創った時にそれを収める組織の箱は成功における極めて重要な要素となります。置かれる箱によってその恩恵も制約も強く受けますが、いずれもスタートアップとの大きな違いを出す部分となりますが、私の経験上では弊害のほうが大きくなっているケースが多いように見えます。この自社の箱で囲い込みたくなる衝動を抑え、箱の外に出しながらも自社利益を得るスキームに至れるかが大企業発新規事業の最大のKSFではないかと考えています。

新規事業開発 by スタートアップ投資

しばし、新規事業開発の手段として(主にVC出資を通じた)スタートアップ投資を行っている企業が見られます。スタートアップ投資は有効な「新規事業開発」の手段なのでしょうか。また、そのメカニズムはどのようなものでしょうか。ここにクリアなビジョンを持つ一部の企業と、なんとなく他社がやっていることを真似ているだけのマジョリティが混在している印象を持っています。後者はあまり成果が上がらずともキャピタルリターンが一定あることで許容されてきている側面もありそうです。

時限付き海外駐在員という制度

これら多くのことが「駐在員」という時限付き社員によって行われているという土壌に脚光を当てたいと思います。特に新規事業開発が企業の極めて高い戦略目標として位置付けられている場合、そこへの人事戦略とも言える駐在員制度は果たして目的に合致しているのか。あたかも聖域のように扱われて守られているような印象も覚える日系企業の海外駐在員制度、そのPros/Consを可視化して議論してみることで飛躍のヒントが見つかるかもしれないと考えています。

2つの種類の「情報」

「情報は武器である」という考えは今の情報洪水の時代にも適用されるのでしょうか。私個人の考えでは情報には2種類あり、優れたビジネスパーソンはこれらの2種類の情報を極めて適切かつ効率的に収集しています。一方で、多くのビジネスパーソンは一方の種類の情報のみを追いかけ、それに踊らされています。
武器となる情報の収集とそうでない情報へのアプローチについて考え、それを新規事業開発にどのように活かしていくかを考えたいと思います。


これ以外にも様々なテーマを扱っていければと思います。

See you next time.


著者: 大山 哲生
役職:Skylight America Inc. CEO
略歴:​大手旅行会社を経て、2007年にスカイライト コンサルティング参画

アメリカ・インドなど海外コンサルティング案件や事業開発に数多く携わった経験を活かし、現在はSkylight Americaの代表として海外関連のコンサルティング事業拡大をリードする。得意領域はプロジェクト型での事業リードと新規事業開発。

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