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オレゴン州のビジネス環境の実態「はてなボックス」を叩いてみる


北米の西海岸を占める3つの州の一つであるオレゴン州は、カリフォルニア州とワシントン州に挟まれる緑豊かな場所として多くの日本人に知られているでしょう。しかし、オレゴン州にはそれ以上の魅力が存在します。ワシントン州との境を流れるフッドリバーに始まり、太平洋を見渡せるオレゴンコーストと灯台がもたらす「自然」で「シンプル」な暮らしを送るポートランド人には、もう一つの顔があります。オールドウェストから始まるカリフォルニアとの関係とオレゴニアンの生活も交えながら、今回は叩いてみないとわからない「はてなボックス」の魅力を存分に発信したいと思います。

なぜオレゴン州でビジネス?

法人所得税が安くはないオレゴン州では、地元の中小企業を大切にする傾向が古くから残っており、同州に本社を置くコロンビア・スポーツウェア、Les Schwab Tire Center、Dutch Bros Coffeeは、州に守られながら成長をし、今ではアメリカ国民の誰もが聞いたことのある会社となりました。

オレゴン州での法人所得税は、最初の 100 万ドルの収入に対して 6.6%、100 万ドルを超えるすべての収入に対して 7.6%となっており、8.84%のカリフォルニア州(全国7位)よりも安いものの、0%のテキサス州やワシントン州、7.3%のニューヨーク州、5.8%のジョージア州と比較して高い数値となっています。しかし、オレゴン州で新しいビジネスを登録すると、オレゴン ニュー マーケット税額控除 (NMTC) を含むいくつかの種類の税額控除を受けることができ、以下のように7年間の税額控除を受けることが可能となります。
1年目:0%
2年目:0%
3年目:7%
4~7年目:8%
税額控除の総額は、適格投資総額の 39% として計算されます。このプログラムは「オレゴン低所得地域雇用イニシアチブ」として知られており、主な目的は企業による金融投資を促進し、特に低所得地域で新たな雇用を創出することとされています。

Oregon Sportswear Company の本社 出典:Oregon Live

新しいスモールビジネスに優しいオレゴン州ですが、世界的なブランド会社Nikeもあります。空港のあるポートランドから車で20分西に走った場所にある本社の建物は、東京ドームおよそ2個分の面積を持ち、今では一万人以上の地元民を雇用している場所となっています。Nikeの歴史は、オレゴン大学でビジネスを専攻し、陸上チームのマイラーでもあったフィル・ナイト氏が、アメリカのランニングシューズに対する不満をコーチのビル・バウワーマン氏に打ち明けたことから始まりました。創業者の1人であるフィル・ナイト氏は総計5000万ドル以上の寄付を地元コミュニティに行っていたり、会社としては「Nike Community Impact Fund」と呼ばれる地元住民を大切にするプログラムを通して、地域に多大な貢献をもたらしています。

また、オレゴン州の地理的な特徴を密かに生かしてビジネスを行っている企業にAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)があります。AWSのビジネスの中心となっているデータセンターでは、海外で低コスト生産をしたハードウェアや部品を時間通りに輸入したり、電力を大量に使用したりする必要があり、実はオレゴン州は最適な場所となっているのです。 AWSは2012年にオレゴン州東部にデータセンターを建設してから約156億ドルの資本投資を行なってきており、州GDPに約11億ドルの貢献をしてきました。多くの資源だけでなく、特殊スキルを持ったタレントを常に必要とする企業に選ばれるということは、州政府が信頼されている証でもあり、このような信頼関係で築かれる大きなビジネスもあるのです。

オレゴン州のAWSデータセンター 出典:Amazon

オレゴン州は、広大な平地を持つテキサス州や、テクノロジーの中心となっているカリフォルニア州と異なり、拠点の候補地を考える企業にとっては、特に大きなインセンティブはない場所です。ただし、十分な労働人口を比較的低コストで確保できる、また港を使って貨物を運ぶことができることから、他州に本社を置く企業の製造・運営拠点として選ばれることが多い州となっているのです。

日系企業はあるの?

ここで、オレゴン州にはどんな日系企業があるのか気になる方もいらっしゃるでしょう。カリフォルニア州やワシントン州同様、オレゴン州にも日本人商工会があり、150以上の日系企業が活動をしていると言われています。地元アメリカ企業の内訳同様、比較的規模の大きい会社には精密機器や電気機器関係の企業が多く、Nikon Precision Inc.やShimadzu U.S.A. Manufacturing, Inc.、Sumitomo Electric Semiconductor Materials, Inc.などがリストアップされています。

他のカテゴリーにおいても多くの大企業の名前が入っていますが、ポートランドに住むアメリカ人にとって一番馴染みのある日系企業は、実は味の素なのです。日本と似た四季や湿度のあるポートランドでは、60年の歴史を持つアメリカ屈指の日本庭園があり、遠くから訪れる観光客だけでなく地元民も季節ごとに訪れ、味の素の提供するUmami Cafeで和菓子屋お茶と共に風情を楽しみます。

オレゴン州のタレント・マーケット

オレゴン州の就職事情は、カリフォルニア州やワシントン州と少し異なってきます。手に職を持つタレントにとっては居心地の良いジョブマーケットですが、デスク系ジョブで高い上昇志向をもつタレントにとっては、物足りないだけでなく、選択肢が少ないことからリスクも多少残る場所となっています。その一方、オレゴン州はIntel、IBM、EPSONなどの大企業の小規模オフィスやキャンパスがあることから「Silicon Forest」と呼ばれており、インターンシップを通して最初の経験だけを積みたい新卒には完璧な場所となっています。2018年には、Appleがエンジニアリング系の研究ハブを新設したことが発表されており、2021年には同分野に追加で4,300億ドルの投資をすることを発表していることから、安定したマーケットになっているとも見受けられます。

Appleのエンジニアリング系の研究ハブ 出典:Apple

ポートランドの摩訶不思議な文化

同じ西海岸にも関わらず、オレゴン州のビジネスがカリフォルニア州やシアトルと異なる理由があります。西部開拓時代、多くの向上心を持ったパイオニアがミズーリ州を通って流れてきました。西海岸エリアに入る直前には表示看板があり、カリフォルニアへ行く南を指す方には金の延べ棒の絵があり、北を指す方には文字でオレゴン州と書いてあったことから、物質的な欲望に駆られた字の読めない人はカリフォルニアへ向かい、物欲以外で満足感を得たい賢者はポートランドに向かったと言われています。

そんな歴史のあるオレゴン州の中心であるポートランド市に訪れてみると、古き時代からの文化や物を重んじながらも、新しい異文化を取れることに積極的な街の「不思議」な雰囲気を感じることができます。国内で知られているスローガン「Keep Portland Weird」は、地元のローカルビジネスを大事にするために作られたフレーズとなっており、地元を大切にするコミュニティだからこそ育つビジネスもあるのかもしれません。そんな西部の開拓された未開拓地を是非訪れてみて、オレゴン州の「変」なところを体験してみてください。

著者名:ホールドストック絵里花
役職:ビジネスコンサルタント
所属組織:スカイライト・アメリカ(Skylight America Inc.)
略歴:米国で修士を取得後、現地日系企業とAWSでの就労を経て、学生時代にリサーチャーとしてインターンを行っていたSkylight Americaに参画。米国企業と日本企業での過去の勤務経験を活かし、バイリンガルなコンサルタントとして活動。


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