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「世界から猫が消えたなら」の感想〜人生の本質を教えてくれた〜

本書の概要

30歳の「僕」は郵便配達員として働きながら、猫と2人暮らしをしている。ある日、僕は脳腫瘍の診断を受け、残りの人生がわずかであることを医師から宣告される。そして家に帰ると「悪魔」から、実は死ぬのは明日であること、世の中から何かを消すことで一日寿命を伸ばすことができることを伝えられる。僕は電話、映画、時計など、数々のモノが消える中で一日一日を生きていく。

感想 

今、世の中はとても便利になっている。世界はモノで溢れており、モノはより安く、質が高く、簡単に手に入るようになっている。そんな生活を当たり前のようにしている中で、世界から「モノ」が消えていくとどうなるのかということを想像させられた。

世界から電話が消えたとき、学生時代の彼女に彼女に死が近い事を伝えた僕。彼女はその日の別れ際、僕に「最後にあなたの好きな映画をここ(彼女が働いている映画館でかけてあげる」と約束した。彼女と別れた後に、彼女にどうしても伝えたいことを思い出した僕。でも世界には電話がない。その状況での描写が印象に残っている。

すぐに伝えられないもどかしい時間こそが、相手のことを思っている時間そのものなのだ。
川村元気:世界から猫が消えたなら.2016, 小学館文庫, p82. 

スマホがあるから人といつでも繋がれる。そんな現代に生きている私は「伝えたいのに伝えられない。伝えたくでどうしようもない。」そんな気持ちに駆られたことはない。モノが豊かな現代では、心が豊かになる機会は減っているのではないか?心を豊かにするためには、モノに依存しては良くないのではないか?そんなことを感じさせられた。

また、昔母が亡くなった時の回想をしている場面。入院中の母が僕に「父と僕と猫と旅行に行きたい」と話し、僕が色々な手続きを踏むことで旅行は決行された。今まで母が我儘をいうことは無かったのに、こんな主張をするのは珍しいと僕は感じていた。その思い出を回想する中で、僕は気づくのだった。

"母さんは自分が旅に行きたいわけじゃなかった"
ただ僕と父に仲直りして欲しかっただけなんだ。
川村元気:世界から猫が消えたなら.2016, 小学館文庫, p153.

母は、自分に残された最後の時間までもを、僕と父のために、家族のために使おうとしたことが明らかになる。モノがどんどん無くなっていく、僕も死に直面していく。その中で、大切な思い出に触れ、今まで気づかなかった母からの予想以上の「愛」に気づくのだった。それは以前から存在していたのに、失ってから初めて気づく。こういうことって、自分の人生の至る所にあるんじゃ無いかな、と考えさせられた。

本書を読んで考えた「人生の本質」

本書では、色々なモノが消えていく。しかも、主人公が大切にしているものがどんどん消えていく。でも、それをきっかけに僕は、モノを通して得られた大切な思い出に触れていく。そんな描写を通して私は感じた。大切なのはモノではなくて、モノを通して得られた思い出なのだと。また、モノが失われていく中で、主人公は色々な人を愛していた過去、愛されていた過去を思い出していく。そして最終的には愛する猫や愛していた家族のために行動をする。人生で一番大切なのは「愛」なのだ。表現は月並みだが、そんなことに気付かされた。

本書は内容が比較的短いこともあり、最初から最後まで夢中になって読んでしまった。また、モノで溢れた現代の中で大切なものが何かを考えるきっかけになった。かなりの名著だと思うので、色々な人に貸し付けたい一冊であった。

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