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【シズる映画にハズレなし】「スクワーム」は逆方向シズルの極北

さあっ、今日はみんな大好き『スクワーム』(1976)について書くぞ!

「スクワーム?じゃあまたスパゲッティの話かよ」
いやいや、そんなベタな話ではなく。
ちゃんと劇中に印象的なシズルポイントがあるんですよ。

ジョージア州の田舎町に休暇で訪れたミック。地元のジェネラルストア(軽食もとれる雑貨屋)風の店にやってきて、客を切り盛りするお姉さんのすぐ前のカウンター席に陣取る。
お姉さんが彼に注文を聞くと、だいたいこんなやり取りになる。

ミック「エッグ・クリームをラージサイズで。あと、水を」
お姉さん「水と…何て言ったの?エイク、クリーム?」
ミック「エッグ・クリーム。チョコレートシロップを炭酸水で割るんだよ」
お姉さん「チョコレート・ソーダ?」
ミック「そう。それにミルクを少し足してね」

・・・・・・ハァ?
終始何いってんの、コイツ。

名前こそ「エッグ・クリーム」ってシズってる感じなのに、それが“チョコレートの炭酸水割り”?
ナニでナニを割っとるんだ。
そんで「エッグ」も「クリーム」もどこいった?

それでもお姉さんはミックにいわれた通りのものを作ってくれる。ちょびちょびと試すように口をつけるミック、突然グラスを倒して中身をカウンター上にぶちまけてしまう。グラスの中に15cmほどのゴカイ(ミミズよりもギザギザな奴ね)が入っていたのだ!

液まみれでのたうつゴカイも気色悪いですが、何よりがっっっかりなのは飛び散ったドリンクがただのココアみたいなとこ。
クリーム的なニュアンスはほぼない。エッグについてはいわずもがな。
だったら「アイスココア」とかでいいじゃないか。田舎まで来てこんなもの飲んで何のトクがあんだ。

お姉さんも「不味いのならはっきりそう言ってよ!」と、うごめくゴカイが突如カウンター上に出現したことよりも、ミックの態度にブチキレのご様子。おかげでミックは店にいた保安官や地元の人たちから訝しがられてしまいます。

そんな波風を立てたエッグ・クリーム。田舎にはない都会人の飲み物なんでしょうか。
日本でも聞いたことないけど、そもそも実在するのか。
ミックの野郎が田舎の人をからかって適当な注文をしたのかもしれない。

ということで、ウィキ様にお尋ねしてみたところ・・・

何とありました、“Egg Cream”!
https://en.wikipedia.org/wiki/Egg_cream

ミックの奴は「チョコレートシロップを…」としたり顔でのたまってたが、ウィキ様によるとバニラ味のもポピュラーらしい。
また、「アイスクリーム・フロートの代用品」だとも。

それを聞くと少し想像がつく。シュワシュワの泡と後付けのミルクが相まってグラスの上のほうにつくりだす白い乳成分の固まりが、アイスクリームを浮かべる代わりになっているっぽいのではないでしょうか(当てずっぽう)。

しかし世の中には知らないものがまだまだあるもんです。
西洋文化を貪欲に取り込んだ昭和の日本だが、この妙ちきりんな飲み物をうっかり持ち込まなかった先人の賢明さには脱帽だ。

ところでこのカウンターでのちょっとした騒ぎは、これから起きる惨事の兆しとなる最初のイベントなのです。
「ジョーズ」でいうと金髪全裸のクリシーが食いちぎられるところ。
「シン・ゴジラ」でいうと謎のしっぽ生物がアクアラインをぶっ壊すところ。

比較するまでもなくツカミとして地味だし、ここまでの登場人物はミックをはじめ全員どこかクセがあって誰一人馴染めないし(肉体労働に精を出す朴訥なロジャーだけがかろうじてマトモっぽい)、町の風景には魅力ないし。保安官に睨まれているミックが事態の異常を訴えても信じてもらえないという今までに100回見た展開になりそうだし(実際そうなる)。

こんな安そうな映画を選んだ後悔も含めて導入部は嫌な思いばかりさせられます。

ところがこれらはすべて制作者の計算だということが徐々にわかってくるんですよ。クライマックスに向けては大笑い(もちろん悲鳴を上げてもいい)の展開に。食欲をそそるのとは真反対に突き抜ける。
当時、月刊誌「ロードショー」のクロスレビューでは100点満点つけてた人もいたような。

見た目のグロさばかりが記憶に残る「スクワーム」だけれども、いかにも市井の人たちって感じのキャラクター設定の捻りはもっと評価されていいんじゃないですかね。
当時のジェフ・リーバーマンは次作の「悪魔の狂暴パニック」(1977)といい、観客をどこに連れていこうとしているのか、意図が独創的でカッコよかった。
才気走っていたよねー。全然評価されなかったけど。
(ドミンゲス)


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