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書案六尺 〜 捌  幻肢痛の様なもの

幻肢痛(phantom pain)
ゲームのサブタイトルにもなった言葉だが、怪我や病気などで四肢を失った人が感じる痛みである。足を失った人が無いはずの爪先が痛いと感じる『難治性疼痛』(by Wikipedia)の事だ。

脳内の位置マッピングのディスオーダーが原因ではと言われているらしいが、体の一部というカテゴリーを外すと、もはやその原因はないのに、その事で心に痛みを感じる事も幻肢痛の様なものではないかと思う。

ここから私小説の概要解説みたいになるけど、私にもそんな痛みがごくたまに出る。

40代前半から中半にかけて、愛する者との別れが立て続けにあったのだが、その時に在籍していたとある場所と関連する人間への強烈な憎悪と何とも言えない閉塞感が実際の痛みなのだ。

細かく語る必要もないのだが、そんな中で別れを経験したので直接的な原因では全くないものの、『貴様らのせいで…』という類のドス黒い負の衝動と言えよう。
持って回った言い方だが、東京裁判の判決文の中に『死を以て被告の罪障消滅…云々』のくだりがある。まさに関係したもの全て罪障消滅してしまえといった瘴気の様な負の波動と言って良いかと。(これでもマイルドに表したつもりだが)

これらを経てふと我に帰った私は、もはや自分一人の身の振り方を考えれば良いのだという事を今更ながら思い出し、好きな様に生きる事となってはや13年が経過した。
おかげで毎日ほぼストレスフリーで生きているのだが、これだけ年月が過ぎようがこの痛みはふとした弾みでたまに頭をもたげてくる。

愛する者も、罪障である者も同時に目の前から消えたのに。

こうなってくると、これは時折襲ってくる痛みとして認識し、対処療法でやり過ごすのが第一選択となる。旨い飯を食うのも良し、人と語らうも良し、軍拡するも良し(エアガン好きな人は一挺手に入れるたびにこういう言い方をするのだ)である。

こんな感じでこの痛みは飼い慣らすのが吉だなと思っている。
これが飼い主の手に余る様になったら、おそらく人間は終わるのだろう。

自分では珍しくシリアスに終始した極私的なphantom painの話。

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