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決起会はショット・バーで【北極圏遠征0日目】

去る四月、冬のスカンディナヴィア北極圏を犬ぞりで旅する極地探検プロジェクト『フェールラーベンポラー』に日本人として初めて参加してきました。世界中から選出された20人のメンバーと、120匹のアラスカン・ハスキーとともに、スウェーデンからノルウェーにかけての350kmを旅する記録です。

詳細は記事後半

11時にダニエルが目を覚ましてくる。
「残り物でサンドウィッチをつくろう」
スウェーデン名物の堅パン・クナッケルブレッドを大きめに割り、昨晩の蒸したじゃがいも、ゆでたまごを贅沢にのせる。マヨネーズをかけてディルシードをふりかけ、飾りにキャビアをトッピング。
「パンよりも多くのものを載せる。これが北欧のオープンサンドウィッチ『スモルゴース』のゴールデン・ルールだ」とダニエルが誇らしげに言う。スウェーデンの家庭料理をいつも嬉しそうに作ってくれる親友がいるというのは素敵なことだ。

明日からついに始まる極地遠征「フェールラーベンポラー」に向けてパッキングする。ほとんどのギアは支給されるが、洗面用品や好みのギア、終了後のパーティで着るものなどは持参する必要がある。カメラのSDカードは2枚、替えのバッテリーは7つ。就寝時のベースレイヤーは2年前に支給された古い方のものが気に入っている。スポーツサンダルも持っていく。背負えるドライバッグに装備を詰め込む。

夕方にはストックホルムに向かう。遠征は明日からスタートだが、数日早くスウェーデン入りしているメンバーと決起集会がある。

ストックホルムはウプサラ駅から通勤列車に乗って45分ほど。もちろんのことだが、車両も車窓も駅構内も4年前と何も変わっていない。ウプサラに住んでいた時、買い物や観光で月一度ほどストックホルムに出ていたことを思い出す。ラーメンを一緒に食べに行った友達とは2年以上連絡をとっていないな。バックパックを選ぶのに付き合ってくれた友人は今どうしているだろうか。そういえばこの車両であんな本を読んでいたな。そんなことがめぐるめぐる蘇ってくる。

ストックホルム中央駅で地下鉄に乗り換える。体が複雑な駅構造を完璧に覚えていることに驚く。一度通った場所は絶対に忘れない、という僕のささやかな能力である。

ストックホルム出身のテレサが予約してくれたのはお洒落な店が集まるスルッセンのバー『ショットルッケン』。入ろうとするとクローズドの看板が出ているので焦ったが、どうやらメンバーで貸切のようだ。僕に気づいたオランダからのメンバーのジェロンがドアを開けてくれる。「遅かったな!」

バーにはすでに10人ほどのメンバーが揃っていた。メキシコ出身のカリナ、イギリス出身のベンをはじめ、これまでオンラインでチャットを続けてきた同士たちだ。
選出メンバーの発表から4ヶ月、ずっと連絡を取り合ってきた仲間たちとようやくの対面である。「みんな実在したんだね!」とハグを交わす。

「ついに会えたね!」とレネ。はつらつとした笑顔がチャーミングなドイツ人の女の子。僕と同い年である。
「5年もかかったね」と僕も返す。レネも僕と同じく、2020年の遠征メンバーに選ばれていた一人。パンデミックの影響で中止になり、あの時のメンバーと旅をできないのは残念だが、少なくとも僕たち二人が参加できたのは喜ばしいことだ。

Pic by Theresa

ビールをピッチャーで頼み、テーブルのメンバーと話す。今回選出された20人は男女二人ずつ、5つのチームに分けられる。僕のチームメンバーになるウェールズ出身のケイト、カナダのトロントから参加するタイラーともここで対面する。

『ショットルッケン』はエキセントリックなバー。ショットを頼むごとにひょうきんなバーテンダーが色々な手で盛り上げてくれる。花火や煙幕もお手のもの。最後に面白半分で「ベア・スレイヤー!(お勧めしません)」と書かれたショットを頼むと、骸骨のショットグラスにタバスコ、テキーラ、ライム、チリペーストを混ぜたものが火焔放射とともに出てきた。演出にも味にも大盛り上がり。まさかこんなショットバーで遠征が始まるとは思ってもみなかった。

二時間ほとバーテンダーのショーを楽しんだ後、夜のストックホルムの街に繰り出す。アルコールで火照った顔を冷たい風が撫でる。こうして夜に都会を歩くというのもなかなか久しぶりだ。

向かったのはスウェディッシュ・ミートボールの人気店『ミートボール・フォー・ピープル』。寒い三月のストックホルム、夜九時でも行列ができていた。幸いテレサが12人分のテーブルを予約していてくれたので、特に待たずに座ることができた。ローカル民、流石の仕事である。

『ミートボール・フォー・ザ・ピープル』はミートボールの専門店。驚くのはその種類である。定番のトナカイやムースをはじめ、豚肉や牛肉はもちろん、ビーガンや熊にいたるまで実に十二種類のミートボールを選ぶことができる。悩んだ挙句、僕が頼んだのはイノシシのミートボール。いつかスウェーデン人の友達が自分で狩ったイノシシで作ってくれたソーセージがとても美味しかったのをふと思い出す。「いいチョイス。僕も好きだよ」とウェイター。

スウェーデン料理の看板メニューといっても差し支えないミートボール。基本的にグレイビーソース、マッシュポテト、リンゴンベリージャムとともにサーブされる。やわらかめに仕上げられたイノシシのミートボールは旨みが強く、「肉を食っている」という満足感がある。たっぷりのバターと練り合わされたマッシュポテトはビロードのようになめらかで、ミートボールと共に口に運ぶとそこはかとない幸福感が湧いてくる。

同じテーブルにはテレサ、ジェロン、スロベニア出身のロク。陽気な3人で、ビールがどんどんなくなり、ジョークがどんどん飛び交う。食べ終わった後、レネと3次会でカラオケバーに行く気満々だったが皆「若さだねえ」と帰る気満々である。明日からが遠征本番ということもあり、今夜は大人しくちゃんと睡眠をとることにする。ウプサラに戻ってダニエルのアパートに布団を敷き、目を閉じる。少しまだ酔いが残っている。

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❄️『フェールラーベンポラー』って?🛷

フェールラーベンポラー(Fjällräven Polar)は、スウェーデンの老舗アウトドアブランド・フェールラーベン(Fjällräven)が毎年開催する公募の北極圏遠征イベントです。世界中から選出された二十人のメンバーとともに、最も環境負荷の少ない移動手段のひとつである犬ぞりを用いて、冬のスカンディナヴィア北極圏を旅します。

🗺️どんな行程?🧭

スウェーデン極北のポイキヤルヴィからスカンディナヴィア山脈を越え、ノルウェー最北部に近いシグナルダーレンにいたる総距離300kmほどの道のりを、五日間かけて走り抜けます。氷と雪が支配するラップランドの大地にテントを張り、火を起こし、雪を溶かし続け、犬たちと共に生き抜きます。

🧳何が必要?🏕

遠征に必要な装備は全て支給されます。極地環境で快適に生き抜くアウトドアスキルもプロフェッショナルから提供されます。道中は自分自身のみならず犬たちの世話も担うことになりますが、経験豊富なフェールラーベンのスタッフ、ドクター、そしてプロのマッシャー(犬ぞり使い)が帯同し、サポートしてくれます。英語で最低限のコミュニケーションを取ることができれば、経験やバックグラウンドを問わず誰でも参加できる遠征です。

🌱参加するには?🔥

毎年十月から十一月にかけてフェールラーベンのホームページで参加要項が公開されます。昨年のコンテストでは、三つの課題にSNS上で答えるというものでした。毎年課題や応募方法は異なるので、応募時期にしっかりとページをチェックしてください。自分らしく、クリエイティブに、楽しんで応募すれば、選出されるのは難しくないはずです。

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