尻野ベロ彦

3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。 ショートショートを中心に…

尻野ベロ彦

3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。 ショートショートを中心に、短い物語をたまに書いてアップしていこうと思います。 【トピックス】 ・第16回「1ページの絵本」入選 ・第20回「坊っちゃん文学賞」佳作 ・プチコン5 ~遊園地~

マガジン

  • ショートショート

    毎週ショートショートnoteなど

  • 文学賞関係

    文学賞への応募にまつわるエトセトラ

  • インターナショナルカルチャーショック

    子どもが通うインターナショナルスクールについての備忘録

最近の記事

友情の総重量

正臣の家の蔵で遊んでいたら埃まみれの秤を見つけた。支柱に飾り文字で”友情計”と刻まれていた。 「何これ?」 と正臣。僕は肩をすくめた。 「体重計?」 「動くかな?」 「試してみよう」 正臣が秤に乗ると、針が揺れ50キロを示した。次に僕。いつもと同じ45キロだ。やっぱり体重計か。友情計だなんて書いてあるから何かあるのかと思ったけれど、拍子抜けだ。正臣も同じ気持ちだったのか、ふざけて僕に抱きついてきた。秤の針が大きく揺れる。表示された数字は、 「110キロ?」 「95キロのはずだ

    • 三日坊主のクレーター

      「グエーッ!」 闇夜に怪鳥の鳴き声が響き渡る。きょうは”三日坊主”で、辺りはほとんど漆黒の闇だ。私は坊主様に見つからないように先を急ぐ。 この星の空には女神様と坊主様が存在する。昼間は女神様が空高く舞い上がり、世界を隅々まで明るく照らす。夜になると女神様は海の底で眠り、代わりに坊主様が夜空に浮かぶ。坊主様は両目をギラギラ光らせ、闇に乗じて魔物が地獄から這い出してこないように睨みをきかせる。 坊主様は元は高名な修行僧だったという。桁違いな法力を身に着けた末に闇落ちしたため女

      • 祈願上手

        最近セールスが絶不調。このままじゃ昇進レースで同期に後れを取ってしまう。こうなったら神頼みだ! 神社には先客がいた。彼は真剣な表情で長々と手を合わせている。みんな大変なんだなぁと思いながら、僕も続いて祈りを捧げた。 「セールスの成績が上がりますように。いや、どうせならすぐに昇進できますようお願いします!」 二礼二拍手一礼をして帰ろうとしたら、すぐ隣で見た顔がお参りをしている。同期のケンジだ。「お前も昇進祈願か?」と聞くと「いや、俺は宝くじ当選を願ったんだ」と言う。欲しい

        • 文学トリマー

          「何故、ベスという名にしたのですか?」 はぁ……この質問攻めはいつまで続くのだろう。私はただ、ベスを可愛くして欲しいだけなのに。出会いから始まり、好物、性格、更には家族の趣味まで根掘り葉掘り……ペットサロンってこうなの?この人もちょっと変。さっきから自分の髪をくしゃくしゃとかき分けて、何かぶつぶつ呟いて、まるで芸術家みたい。 「あの~、カットの希望を伝えて良いですか?」 「必要ありません!」 「え⁉」 トリマーに睨まれる。 「犬種は勿論、生い立ちや性格など、あらゆる観

        友情の総重量

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          34本
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        記事

          「プチコン5 〜遊園地〜」で優秀賞に選ばれました

          ショートショート作家、田丸雅智さんが主宰するショートショートガーデンで行われた「プチコン5 ~遊園地~」で優秀賞に選ばれていました。 タイトルは「シンギュラリティーの先に」です。 最近、なかなか思うような作品が書けずに創作意欲が湧かなくなっていたので、とてもうれしいです。これを励みに、また頑張ります。 ↓ここに結果が出ていたのですが、受賞者に知っている名前の方が何人か並んでいます。最優秀賞は、毎週ショートショートnoteを主催している、たらはかにさん。さすがです!

          「プチコン5 〜遊園地〜」で優秀賞に選ばれました

          記憶冷凍

          路地裏で凍死した男の遺体が発見された。外傷はなく、警察は酔っぱらった男が道端で寝込んでしまった事故として処理をした。身元を示すモノはなく、火葬費用を節約するため遺体は大学病院に引き渡された。 遺体を引き取った教授は脳科学者で、記憶を映像として取りだす研究をしている。凍死体の脳はダメージが少ないので貴重な実験材料だ。早速、頭蓋骨を開き、脳に電極を差し込んだ。モニターに古ぼけたビルの映像が映し出される。 よし、成功だ! 男が古ぼけたビルの中の「粉雪」という店に入るとドレス姿

          放課後ランプ

          夫が骨董市で古ぼけたランプを買ってきた。 「またガラクタを買ってきたの?」 私の嫌味も意に介さぬ様子で「面白いから見ててごらん」と夫。ランプに油を入れて火を付けると、部屋がオレンジの閃光に包まれ、私は西日が差し込む教室にいた。窓の外から白球を打つ金属バットの硬質な音と球児達の掛け声が聞こえてくる。なんで学校?夫はどこ? 「菅原さん?」 振り返ると教室の入り口に制服姿の青年が。懐かしい笑顔。そうか、これは夢なんだ。 「何しているの?」 「え⁉ああ、別に。藤井君は?」

          放課後ランプ

          トラネキサム酸笑顔

          香の顔には大きな火傷の痕があった。5歳の時に囲炉裏に落ちてしまったのだ。その火傷の痕を見られるのを嫌がり、快活で誰からも好かれた香は家に閉じこもるようになってしまった。両親は心を痛めていたが、どうすることもできなかった。 ある日、街から物売りにきた男衆の1人が、火傷の痕がきれいに治る薬が開発されたと教えてくれた。しかし、その薬は高価で貧しい農家に手が届くものではない。香を寝かしつけた後、母は不憫な娘を思って泣いた。父は怒ったような表情で、押し黙って考え込んでいた。 一月後

          トラネキサム酸笑顔

          春ギター

          春ギターの旬は4月から5月にかけて。その時期になると、ギター農家は毎日夜明け前に畑に出て、日が昇るのと同時に収穫を開始します。ギターのボディが丸く大きく育ち、ヘッドに伸びた弦がペグに巻き付き、しっかりキュっと張っていたら弾き頃の印。ひとつひとつ目で確認していきます。 収穫されたギターは、鮮度を保つために温度と湿度を管理しながら、その日のうちに演奏家に届けられます。採れたての春ギターによる生演奏は、ほんのりと甘いのに、シャキッとした軽妙さをもつバランスが絶妙。この爽やかな音色

          オバケレインコート

          「ハナちゃんのレインコートは、なんで何も絵がかいてないの?」 保育園にお迎えにきたパパにハナちゃんが聞きました。周りをみると、可愛い動物やアニメのキャラクターが描かれたレインコートを着たお友達が、ママと一緒に楽しそうに帰っていきます。ハナちゃんが着ているのは、100円ショップで買ったビニール製の白いレインコートです。 「ハナちゃんも、ああいうレインコートが欲しい?」 ハナちゃんは「別に」と言って歩き出しました。 帰り道でハナちゃんは、保育園で何をして遊んだかを一生懸命話

          オバケレインコート

          インターナショナル・カルチャーショック~うちの姉兄妹~⑤(入学前のお勉強の話)

          子供達が韓国で通うインターナショナルスクールがやっと決まりましたが、 それはマラソンに例えるなら、大会に申し込んだというだけ。 この先、長い距離を走り切るためには、事前の練習が欠かせません。 ということで、学校が始まるまでの1か月弱、家庭教師を付けて子供達に英会話を教えてもらうことにしました。 家庭教師になってもらったのは、30代(?)の韓国人女性Kさん。二村グローバルビレッジセンターという公民館のようなところで「英語の家庭教師をします。日本語話せます」というビラを見つけ、

          インターナショナル・カルチャーショック~うちの姉兄妹~⑤(入学前のお勉強の話)

          深煎り入学式

          緊張した面持ちの新入生に向かい、校長が祝辞を述べる。 「皆さん、ご入学おめでとうございます!  新たなスタートを前に、いま、不安を感じていますか?それは当たり前。    不安は、知らないことを恐れるという人間として自然な感情なのです。  でも、世の中には皆さんの知らない楽しいこともたくさんあります。  いろいろなことを知れば不安は消えて、FUNに変わります。  皆さんも、この学校でたくさんのことを学び、  FUNをいっぱいみつけましょう!」 祝辞の後、子供達は出席番号順に

          深煎り入学式

          インターナショナル・カルチャーショック~うちの姉兄妹~④(韓国でのインター探し その2)

          (noteで短いショートショートを毎週書くことを自らに課していたら、インターナショナルスクールについての話は前回から3か月以上期間があいてしまいました。こちらは備忘録的なところもあるので、時間に余裕ができた時に、ぼちぼち書いていければと思います。前回は、韓国赴任前に、弾丸ツアーでソウルのインターを外から見学したことを書きました。今回はソウルに赴任してから、学校を決めるまでを書きたいと思います。)  我が家がソウルに引っ越したのは6月。インターナショナルスクールの新学年のスタ

          インターナショナル・カルチャーショック~うちの姉兄妹~④(韓国でのインター探し その2)

          命乞いする蜘蛛

          糸に微かな振動を感じると、蜘蛛は八本の肢を巧みに動かし素早く移動する。巨大な幾何学模様の中央には小さな人の子がいた。逃れようと藻掻けば藻掻くほど粘糸が絡みつく。 「た、助けて…」 捕らわれた子の脇では、母が半狂乱になっていた。 「この子を助けて!代わりに私を食べても構いません!」 蜘蛛は母も糸で捕らえ、目の前で子を食べ、母も食べた。 蜘蛛は山の王だ。飽くなき食欲のまま獲物を喰い尽くす。十分な栄養を得ると交尾をし、交尾後に雄も食べ、卵を産んだ。生まれてくる子は父親似かしらと想

          命乞いする蜘蛛

          桜回線

          ~世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし~ 古文で習った、この和歌の意味がまるで分らなかった。 なぜ桜がなくなると心が穏やかになるのか? 逆に、なぜ桜のせいで心が穏やかじゃなくなるのか? 先生は、私の質問に困ったような表情を浮かべながら答えてくれた。その説明は忘れてしまったが、しっくりこないという感覚と先生の困った顔だけがずっと記憶に残っていた。 「教授、いよいよですね」 助手の声で我に返る。会場は人で溢れ返り、3月なのにむせ返るような熱気が充満している。

          三日月ファストパス

          今週は、たらはかにさんに倣い、 ショートショートガーデンに「スキップの小路」で投稿しました。 リンクをこちらに貼っておきます。 https://short-short.garden/S-uCTweM

          三日月ファストパス