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春うらら

朝6時。「っぱぁ〜! うまいんだなーこれが!」と言ってグラスいっぱいの水をごくごく飲んだ。昨夜の赤ワインがきいている。こんな日は、水のありがたさをいつもの数倍にも感じる。
1、2ヶ月ほど前から、長らくかっている植物に新しく開きそうな葉っぱが出ていた。ずっと小さく包まれていたのに、ふと目をやると大きく開いていて、いつのまにか立派な葉っぱになってた。キミも飲むかい? 水。そう言いたくなるような瑞々しい色をしている。

また別の植物で、それもまた同じくらい長い年月をかけてかっていたのに、最近気づいたときには枯れていた。正確に言えば、根元はギリギリ生きていそうだけど、細長い形をした葉っぱの先が茶色になって、ぎゅっと縮こまったようにさらに痩せ細った葉っぱになっていた。ふくよかな人が不健康に激痩せしたような姿をしていて、見れば見るほど切なくなった。福岡時代からかっていた植物が神奈川に引っ越してきてからそんなふうになったので、お部屋の温度や日当たりなど環境の変化によってもたらされたことなのかもしれない。

この激痩せをどうにか戻せるように、もっと自分の目に入るところに置くことにした。毎日はあげすぎかもしれないので、程よい感覚で日々お水をあげた。もう2ヶ月間くらい様子を見てるけど、枯れゆく葉っぱが自然と抜けていく様子を見るばかりで、回復の兆しがない。でも、捨てることはない。ちょっとの緑が見える限り、希望を持って諦めない。

新しい葉っぱが開いたほうの植物は、冬の間、もうこのまんま変化のない状態なのかしら、と思うくらい微動だにせず沈黙を貫いていた。じっと。ずっと。だけど、春の訪れに目覚めるかのようにして突然変化を帯びた。私たちが柔らかな暖かい風を感じて、なんだかくすぶっていたものを自然と解き放つ気持ちになるような、うららな変化。夏みたいにお水をあげる機会が頻繁ではないし、だからそのうち、じっと包まれた葉っぱの状態なんて気にかけることもなく忘れる日々が続いたけれど、開くときは開く。

いろんな生き物がいる。
いろんな状態がある。
いろんな変化や結果がある。
暖かな風を感じたのなら目を覚まし、のどが渇いたのならば水を飲もう。全部が枯れてしまっていないのなら、少しだけ期待してみるのもきっといい。
だから懲りずにワインを抱えて、美しい花や新緑の下で、ちょっと先の未来に乾杯しましょうよ。



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