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海外観光客向け〈オルタナティヴ・ニッポン〉都道府県観光ガイド(第二十一回)

世界の皆さんこんにちは。私はニッポン在住の旅行ライター、日比野 心労です。

みなさん温泉はお好きでしょうか。私は大の温泉好きで、仕事の合間あいまによく温泉地へ出かけるのが趣味なのです。
温かい湯に浸かり、全てを無にして心と体の疲れを癒すひととき。ニッポンを代表する癒しの空間、温泉は全国各地に存在し、ニッポン国民、そして訪れる外国人の憩いの場として活況を呈しています。

そんなニッポンの温泉地の中でもひときわ異彩を放つ温泉地があります。球州地方の北東側沿岸部、本京都から飛行機で1.5〜2.5時間で行ける地、多異他県(おおいたけん)。ここには、決して比喩ではない意味での「地獄」が顕現する温泉地が存在するのです。

第二十一回「多異他県(おおいたけん)」
観光難易度:3(やや難)


6月。私、日比野心労と、妻の田島アスミは、籍を入れて10周年の結婚記念旅行を計画しました。海外旅行の案も出たのですが、当時お互いに忙しかった我々は、一泊二日で帰ってこられるニッポン国内の旅行地を探していたのです。
良く晴れた土曜日、我々は本京都から飛行機に乗り多異他県へと向かいます。機内は程よく混み、多異他県の観光人気が伺えました。

・多異他県の地理風土、観光スポットなど

球州地方の北東部に位置する多異多県は温泉や自然景観が豊富な地域です。県内には多くの温泉地があり、ニッポン有数の温泉観光地として知られています。また、湯浮岳や九頭龍連山などの山々があり、登山やハイキングの名所として人気です。海岸線には美しいビーチが広がり、海水浴やマリンスポーツも楽しめます。
歴史的な観光地も多く、地元の食材を使った料理も充実しており、温泉、自然、歴史、食文化など魅力が詰まった観光地として、多異他県は多くの人々に愛されている観光地であると言えましょう。

ではなぜ私が先程この観光地を「地獄」と形容するに至ったのか。その理由はニッポンに存在する宗教のひとつである「物教」(ブッキョーと読みます)の教えである、死後の魂の行く末を模している観光地が存在するからにほか無いのですが……

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多異他空港に降り立った我々ふたりは、一泊二日の荷物をまとめたキャリーケースをゴロゴロ転がしてバスに乗り込みました。行き先は『罰符温泉行き』とあります。
「ばっぷおんせん、」と、座席に腰掛けたアスミが呟きました。「なんかこう……もうちょっと、穏便な地名の名付け方は無かったのかよこの土地は」
「まあ、仕方ないよ。元々ここは物教信仰の篤い土地だったみたいだし、死後の魂が行き着く先ってことで、罪だの罰だのって単語がゴロゴロ見つかるのもさもありなんと」
「いや温泉行きたいっつったのはアタシだけどさ、結婚記念に行く雰囲気の温泉じゃ無いよなぁ?分かってる?」
不機嫌そうな顔を隠そうともせずアスミは私を睨みつけます。
「大丈夫だって。行ってみたら絶対楽しい温泉なんだから。日頃の仕事や生活に疲れてる人なんかは特に……」
「……そういうなら我慢してやるけどさ……。つまらなかったらバックドロップだからな。覚えとけよ」
念のため受け身の練習をしてくるべきだったかな、と私は揺れるバスの車窓を流れる美しい景色を眺めながら冷や汗を流すのでした。

・罰符温泉地獄巡りとは

『罰符温泉』。ここは球州地方最古の温泉地として知られており、また源泉の数も最多を数えています。同じ土地内に多数の源泉が沸いている極めて珍しい温泉地で、その殆どは露天となっている『罰符温泉地獄巡り』という入浴作法は、違う効能がある温泉に順を追って入ることで、心身に多大な癒しを与えるものとして世界中から温泉愛好家の賞賛を受けています。

バスが到着し、温泉地入り口のビジターセンターで受付を済ませて荷物を預けます。ホテルのチェックインにはまだ時間がありますので、まずはひとっ風呂浴びよう、ということで我々は温泉用の水着に着替えて温泉巡りのスタート地点で待ち合わせました。
最近摂生を怠っている私の身体とは対照的に、アスミの引き締まった均整のとれたボディが青空に眩しく映えます。カラフルなワンピースのスポーツ水着に着替えたアスミは、それでも恥ずかしそうに「……何、ジロジロ見てんだよ……」と頬を赤らめて言うのでした。かわいい。
「それよりも心労、その腹、ちゃんと引っ込めておけよな。特に一緒に歩くときはずっとな!」
私は恥ずかしくて頬を赤らめました。みじめだ。

さてこれから地獄巡りです。事前に一度来たことのある私は、サプライズ的な驚きを楽しんでもらおうと、アスミには温泉がどのようなものかは一切知らせておりません。説明書きや案内板の類いを見るのも控えてもらいました。不服そうにするアスミでしたが、こういう趣向もまんざらではないようで、「面白く無かったらバックドロップに加えてパワーボムも追加な」とニヤニヤ笑みを浮かべて指をバキバキ鳴らしています。私はパワーボムの受け身ってどうやるんだったかなと必死に記憶を呼び起こしながら、第一の混浴露天風呂に通じる暖簾をくぐるのでした。

「なんだ。普通の露天風呂じゃんか……」
山腹の台地に設られた露天風呂は、周りを濃い緑に囲まれた静かな趣きで湯気をたたえています。木々の隙間からは木漏れ日が差し込み、辺りからは小鳥の囀りが聞こえています。露天風呂の入り口に立てられた看板には『飛鳥の湯』の文字が筆で書き記されており、人気の温泉地にしては人影も無く静かな穏やかさがある露天風呂の雰囲気です。
「お。空いてるな。へえ、小鳥も温泉に浸かって気持ちよさそうにしてるし。いいねこういうのも。心労、早速入ろうぜ」
折り畳んだタオルをちょこんと頭に載せ、掛け湯をしたアスミは、足先からそろそろと湯に入りました。私もそれに倣って後に続きます。ふふふ……
「あーいい湯だ。温度も丁度いいし。しっかし、他の客の姿が見えないのはどういうことなんだろな」
肩まで湯に浸かったアスミは露天風呂の岩場に背をもたれてリラックスした様子です。私も微笑みながらリラックスし、その瞬間を待ちます。
「気持ちいいけど、ちょっと身体がムズムズしてきたな……これって温泉の効能なのか?おい心労、ニヤニヤしてないでそろそろ教えろって」
「んふふ。効き始めてきたね……もうじき変わるんだチュン……」
私は湯で顔をバシャバシャこすり、その瞬間に備えます。「おい、チュンって何だよその語尾。可愛らしく言ったって無駄だあれ?心労!どこ行った!まさか溺れたのか!?!?」
アスミが慌てて湯気をかきわけて私の姿を探します。私は「ここにいるって!ぬふふ……」と意地の悪い声でさえずったあと、アスミの肩に乗りました。
「は?スズメ?っていうか心労の声で喋ってる?……お前まさか……」
「そうだチュン。僕はスズメに転生したのだチュン!」
私はすこし誇らしげに言いました。見ると、アスミの姿もゆっくりと変わりつつあります。私はパタパタと飛んで風呂から上がると、洗い場に据え付けられた姿見の前にアスミを誘いました。
「ちょっと来て見てみなよ。アスミはハヤブサになってるみたいだよ!」
変わり果てた姿のアスミがバサッバサと湯から飛び立ちます。「うおっ!何でか知らんけど飛べる!って、コレがアタシ……!?!?」
姿見の前に降り立ったアスミ……いやハヤブサは、自らの鏡に映った姿をしげしげと眺めていました。

『物教』信仰には、死後、魂が行き着く先が複数あるという教義があります。大罪を犯したものは地獄の鬼に責め苦を味あわされる文字通りの地獄ですが、大した罪を負っていない普通の魂は、「別の生き物に転生して生の苦しみを味わう」という地獄も用意されています。古くは、この教義も罰則的な意味合いを持っていたのですが、宗教というものは時代の価値観の変遷により変質する部分もあるものです。現代ではこれが「別の生物になることで人間という辛い存在から解放される快感」を味わえるものとして捉えられる考え方に変わってしまいました。
現代において人間がいちばん辛い生物である、というのもある意味で皮肉と言えなくもありませんが、古来、教義やしきたりを守らなかった者に対しての罰則的な意味合いもあったこの温泉に浸かるという行為は、すっかりレジャーとしての意味を持つようになったのです。

「でも、元の人間に戻れなくなるってことはあるのかニャ」
第二の露天風呂「猫の湯」でアメリカンショートヘアに変身したアスミが毛づくろいをしながら聞いてきます。
「それなんだけど、源泉を薄めて露天風呂に入れている関係で、変身の効果は10分くらいで切れるってことなんだニャ。風呂から上がって10分くらいボーっとしてると元の人間に戻れるんだって。あ、身につけてる物もそのままでニャ」
三毛猫になった私は温泉に浸かったまま答えます。あちこち飛び回って鳥の姿を堪能したあと、次の温泉に入った我々は、のんびりした雰囲気のままくつろいでいました。
「それ聞いてちょっと安心したわ……そういえば心なしか身体の調子もいいみたいだし、猫の姿も良いもんだな。何よりもコレだけの猫と一緒に温泉入ってるだけで心が癒される……♡」
猫化した他の利用客も、思い思いの姿でくつろぎながら温泉を楽しんでいます。この露天風呂はどうもこの温泉で一番人気らしく、広い露天風呂にはさまざまな種類の猫が湯に浸かっていました。
「原理は分かんないんだけど、昔むかしに物教の偉い坊さんが、この地を輪廻転生を実体験できる場として開湯したのが罰符温泉の始まりなんだってね。神秘の力といえばそれまでだけど、現代になっても別の捉えかたでこういう信仰が残っているのはなかなか興味深いと思うよ」
「ふーん。ま、地元の人も商魂逞しいってことだよな。罰則をご褒美に変えるなんて人間も業が深いって言い換えもできるんだろうけどニャ」
ちゃぷん、と湯に浸かりなおしたアスミは、ァーーーと大きくあくびをすると、湯の中をチピチピチャパチャパと泳いでしまいました。ま、猫だし。人間のマナーなんてここでは意味が……

「全員そこを動くな!あ、間違えた!全猫そこを動くんじゃねぇ!!!!」
突然、拡声器を通して大音声が鳴り響きました。次いで、バギュンバギュンという銃声も。驚いた温泉客はあちこちでニャーニャーと悲鳴をあげます。いや、いまいち緊張感のない光景ではありますが。
「我々は環境保護活動グループ『いのちの暁』!今からこの温泉は我々が乗っ取った!環境破壊を繰り返す人類に鉄槌を下すべく、ここで汲み取った源泉を世界中に撒き散らし、人類をみな動物化して己の所業を反省させるのだ!!!」
大変だ。環境保護テロリストの襲撃です。露天風呂の岩の上に仁王立ちで銃を構える男と拡声器を持った男、そしてグループの旗を掲げた女が姿をあらわしました。っていうか、やたらとまだるっこしい手法で示威行為をするのだな、と呆れてしまった私ですが、相手は数名とはいえ、そのうち一人は銃を持っています。ここはひとつ穏便に指示に従って救助を待ち……って、あのテロリストの後ろの岩場から音も無く忍び寄るアメショの猫はアスミだ……私は思わず身を乗り出しました。
「そこの三毛猫!動くなと言ったろうが!」
あ、マズい。銃口が私の方を向きます。大変だ。猫のまま撃たれたら人間に戻れるんだろうか。楽しかったな我が人生。猫の姿で終える人生も悪くない、といろんな思考が走馬灯のように頭を巡りましたがその瞬間、
「フミャァァ!!!!」
「いだだだだ!!!!」

飛びかかったアスミの鋭い爪がテロリストの指を切り裂きました。思わず銃を取り落とす男。私は咄嗟に銃に駆け寄ると、それを咥えて駆け出しました。
「ナイス心労!このまま逃げるぞ!」
岩から飛び降りたアスミが私の横に並んで駆け出します。
「ちょっと待てやそこの三毛猫!アメショ!銃を返せ!」
ねこなので銃を咥えたら返事できませーん。私はアスミと共に別の露天風呂エリアへと必死で駆け込みます。温泉地は突如として鬼ごっこ会場と化しました。地獄だけに。(ここでアスミからツッコミが入ります)

・地獄からの逃亡劇

本気を出して走る猫に人類が追いつける筈もありません。そして次の露天風呂は「駿馬の湯」。勝った。これで警察が来るまで時間稼ぎであちこち逃げ回れば我々の勝利です。私とアスミは無我夢中で温泉に飛び込みました。しばらくすると身体が変化していく感覚があります。そうこうしているとテロリストたちが追いついてきました。我々は急いで湯から上がります。
「おっ!すげぇ!アタシは真っ黒なサラブレッドじゃんか!」
洗い場の姿見に映った自分の姿を誇らしげに見せつけながら、アスミは軽快に温泉の周囲を駆け回ってテロリストたちを翻弄します。お、いいぞ。ひとりの男を後ろ足で蹴っ飛ばしてノックアウトした。よし。私も逃げるぞ、と咥えた銃をそのままに湯から上がった私の姿は……

ロバでした。しかもうんと足の短いやつ。

「ああっ!なんだか凄いハズレを引いた気がする!」
と悲鳴じみたいななきを上げて私は必死に逃げ回ります。それでもどうにかしがみつくテロリストを振り落とし、私とアスミは次の温泉へと逃げ込みます。

次の湯は「猛獣の湯」。よし。これなら勝ち確定だ。やっとのことで湯にたどり着いた我々は勢いよく湯に飛び込みます。
ざぶん。ざばっ。湯から上がったアスミはベンガルトラに変身していました。やった!つよい!豪快な吠え声をあげて女のテロリストを怯ませたアスミが、その爪と牙で威嚇して距離を取ります。「心労!早く湯から上がったらこっちに来て戦うの手伝ってくれ!」
ざばり、と鼻息荒く私も湯から出ます。何だかやけに咥えた銃が重いのですが……
「アスミ!いま助けるぞ!」
湯から上がった私の姿を見てその場の全員が脱力するのを感じました。あれ……ひょっとして……と、私は洗い場の姿見に目を向けます。

オコジョでした。しかもすっごくかわいいやつ。

「いやその、猛獣的な性格かもしれないけどさあ!」
と泣き言を漏らして私は速攻で逃げ出しました。こんな可愛い姿で勝てるわけがない。私はベンガルトラのアスミの背にちょこんと飛び乗ると、にげて!はやくにげて!!とトラにしがみついて泣き叫びました。

次の湯までは少し距離があります。必死で逃げる我々を、テロリストたちは追ってきます……あれ、なんか様子がおかしいぞ……。
「心労、ヤバいぞ、あいつら湯に浸かって変身して来やがった!」
我々を狙う二体の影はいずれも四つ足の走り方で追ってきます。まずい。あの姿は百獣の王、ライオンだ。たてがみをなびかせて追ってくる雄ライオンと、力強く駆けてくる雌ライオンは次第に距離を縮めてきます。急いで次の湯に逃げ込まないとこのままではジリ貧です。我々は必死の思いで次の温泉に飛び込みました。立て看板には「御伽噺の湯」。いやそれざっくりし過ぎだろうが、というツッコミを入れる間も無く身体が変化していくのを感じます……

「グルル……どこへ消えやがった!?」
雄ライオンのテロリストが吠え声を上げます。雌ライオンの一頭は湯の周囲をガサゴソと調べ始めました。ヤバい。この姿がバレたらひとたまりもない……そうです。私が変身したのは……

亀でした。浜でいじめられてるあの御伽噺のやつ。

まだ首を引っ込めて岩陰に隠れてるからマシなものの、銃を抱えてあちこち逃げ回れる身体でもなく、私は次第に近づくライオンの足音に怯えて自らの最期を覚悟しました。
「見つけたぁぁガォォ!」
あ、終わった。もうだめだ。長生きできると思ったのにな。亀だけに。そう観念した私の目の前に雌ライオンが猛り狂っています。と、その姿が次第に宙に浮き、目の前から遠ざかっていきます……そして空を覆う黒い影……これは……
「待たせたな心労!虎の後は龍だぜ!」
雌ライオンの首根っこに噛み付いたアスミは、空駆ける龍の姿でした。
上昇を続ける東洋タイプのアスミ龍が、咥えた雌ライオンをぽーいと投げ捨てて急降下し、最後のテロリストの前に立ちはだかります。
「さあ、もう諦めるんだね。空から見たらこっちに警察が到着してるのを確認した。あんたらがどんな過激な主張をしようが、これで終わりだよ」
ゆらゆらと浮かびそう語りかけるアスミ龍。悔しさでギリギリと歯軋りする雄ライオンは、その龍の向こう側に何かを見つけて不敵な笑み(?)を浮かべました。
「グルル……まあいい。ここまで連れてきてくれて感謝しなければな……我々の目的が、ついに達成できる時が来たのだ!」
と、一瞬の隙を突いてアスミ龍の横をすり抜けると、雄ライオンは一目散に奥の建物に向かいました。見ると、看板には『注意!源泉ポンプ場につき関係者以外立ち入り禁止!』の文字が。
いけない!と私はのろい足を必死で動かして駆け寄りライオンの前に立ちはだかります。ここは一歩も通さないぞ、と意気込んだのですが、いかんせんそこは亀、全く覇気が無いどころか、岩に似た色の亀の甲羅が災いして気付かれもしていません。だめだこりゃ、と目を瞑ったその時、私の甲羅に強い衝撃が加わりました。
「んぎゃぁぁ!!」
ライオンが甲羅に蹴つまずいて転んですっ飛んで行きました……。そして勢いよく源泉の小屋の壁をぶち破り、もの凄い音を立てて源泉に飛び込見ました。立ち昇る蒸気、あぢぢぢぢという悲鳴……
「なあ心労、この温泉、『源泉を薄めてる』って事だったよな?源泉にそのまま浸かった奴って一体どうなっちまうんだ……?」
アスミがゆらゆらと私の近くに寄りその惨劇(?)を眺めます。
「あー……そうだよね……。たぶん、その、かなりの時間、もしくは永久に変身した姿のままになっちゃうんだろうけど……」
『御伽噺の湯』の源泉ポンプ場から、のそり、と影が這い出てきました。最悪、神話級の怪物が襲いかかってくるかもしれません。我々は緊張で身を固くしました……と、出てきたのは湯気のせいで大きく見えていた、ちいさな影がひとつ。
「たすけて!陸の上だと身動きできない!!」
泣き声と共に姿を現したのは、ぴちぴちと尾鰭を動かしてもがく男の人魚でした。

・おわりに

というわけで散々な顛末に終わりました新婚旅行でしたが、アスミは意外と楽しんでいたらしく「今度行ったら『海生の湯』とか『昆虫の湯』なんてのにも入ってみよーぜ⭐︎」と言うくらいにはエンジョイしてもらえたものと喜んでおります。あ、ちなみに件の人魚になったテロリストは、処分が決まるまで温泉地併設の水族館でしばらく監禁されているそうです。関係者に聞きますと戻れるのは十数年後ということで……おっかねぇ。
観光に行かれる皆様におきましては、こういった非常事態に巻き込まれることは稀と捉えていただくと共に、何かあった場合のため動物園などで動物や水族館などで魚類の生態をつぶさに観察しておかれることをお勧めしておきます。普段からも咄嗟の転生があっても大丈夫な動きができるはずです。
あとは、あまり長風呂されませんように……身体を壊すばかりか、極端な長風呂は元の姿に戻る術を忘れてしまうかもしれませんので。私は忠告しましたからね。……と、最近新入りがやけに増えた気がする併設の動物園を、妻と手を繋いで見て回る日比野心労がお伝えしました。

(第二十一回 おわり)

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