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歳をとって読んだ源氏物語4  女性論

源氏物語を読み出して止まってしまった。帚木の巻のいわゆる雨夜の品定めが、なかなか煩雑で、古典の素人には難路が続いた。しかし、ここを読まないと次の巻に進まないようだ。ゆっくりと読んでみた。

1 階級と女性

まず、頭中将の女性の階級分類から始まる。
①上品(じょうほん)の女性は、大事に育てられ、表に出ないので神々しく見える。要するに真の姿が分からないと言っている。
②中品の女性は、それぞれ自分を持っているように見えて、こういう人だと分かる点が多く、要するに個性的だと言っている。
③下品の女性は、聞く耳もない、要するに知ろうとする気持ちが持てないと散々である。
やはり、中流の女性が個性もあり、面白いと言う。

それを聞いた源氏は、では上中下の区別はどこにあるのか、下の者も位が上ることもあるし、上の者も落ちぶれていくてはないか。源氏は、論の弱点に突っ込んでくる。

そこに馬の頭が入ってきて、話をつなげていく。
「下から成り上がった者は、もともと高貴な家柄でない者なので、世間も本来の上流とは違うと考える。もともと上流の者は、高貴な筋なので、落ちぶれても気位は高い。やはり、中品の受領階級には裕福な者がいて、世間のおぼえもよい。お金があるので、よい育て方ができて、立派に育つ。宮仕えして帝の寵愛を受けることもあるだろう」

源氏「なあんだ。結局は財力ではないか」とつっこみする。

それにかまわずに馬の頭は、話を続けた。
上流の女性でも、ふるまいが劣っているとがっかりする。秀でたとしてもそれは家柄相応だし、当たり前だ。やはり、中流の女性で、寂しく荒れた葎の門に、思いのほかに、かわいらしい人が居ると、思い掛けずに、こんな所によい女がいると分かり、面白い。

一般に人は当たり前のものよりも、意外なものに魅力を感じるようだ。日常経験でも、この人にこんな良い面があったのかと分かり、楽しくなることがある。魅力とは未知なるものへのあこがれである。

2  最良の妻とは

では、生涯の伴侶にふさわしい女性をどうやって選ぶべきかと、馬の頭は、話を進める。ここで公私の仕事のあり方が比較される。

①公(朝廷)
朝廷でも世のかためとなるような、真に器のある人は稀にしかいない。普通は一人や二人では政り事はできない、上は下に助けられ、下は上と協力して、広く動いていくと言う。貴族政治の時代に、一人では政治は動かせないということを見抜いた紫式部は、大したものだと思えてくる。まあ、人間社会が相互依存の構造なので、一人ですべてを完徹できる人はいないのだが。
②私(家庭)
そこへ行くと家庭は違う。主婦ひとりが、家を管理していて、過不足が許されない。「狭き家のうちの主とすべき人」は一人主婦である。まさに主婦は要職である。家事が軽んじられはじめたのはいつからだろう。多分、産業社会ができて、均一国民労働者が生まれてからだろう。

議論は、年齢や性格からみた女性論に発展していく。
①若い女性は、色っぽくて風情に流されやすい。要するに見た目がよいというだけで、中身がない。
②しっかり者の家事一点張りの主婦は、夫の公私の悩みを身近な人に語りたいと思っても、そっぽを向かれて、つい独り言の愚痴を言うと「何ですか」と夫を見たりする。素直に悩みが話せない相手はだめだと言う。
③無邪気でおっとりしている柔軟な女性は、教え甲斐があり良い。しかし、頼み事をすると頼りなくて、大事なことに心もとない。要するに従順だが頼りない。

馬の頭は、自身の知る女性を並べ比べながら、妻とすべき女性がどういう人がよいか、考えあぐねている。そして、最良の妻とはこういうのだと語る。

階級や容貌には触れないで言うと、性格が悪く、ねじ曲がっていないのならば、「ものまめやかに、静かなる心の」持ち主が生涯頼りになる女性だ。つまり誠実な(実直な)落ち着いた女性が良い。それ以上に良い点があれば、喜びと思い、少し劣ったところがあっても、それ以上は求めないのがよい。表面の女らしさは、自然に備わるものだ。

見た目や身分に関わらない人間評価をしている点が素晴らしいし、ものまめやかに、静かなる心ならば、それ以上を求めない考えに共感を覚える。

3  浮気する夫の扱い方

男女の縁ということが何度か語られている。夫婦は、育った環境も異なり、他人同士が結ばれる以上、はじめの心持ちとは違うことがおいおいあるものである。例では、
① 必ずしも自分の思いはかなわなくても、夫婦になった縁ということを捨てられず、思いとどまり女と別れない人は、実直な人に見える。
② 夫に文句を言えずに我慢していた女性が、とうとう家出して、山里に隠れている所に夫が迎えに来て、前世の宿縁と連れ帰るが、やはりこれからのことが互いに気がかりであったりする。

夫婦の関係を縁として強く思うか、それでも夫の浮気に不安に思うかで夫婦の心持ちは異なるだろう。さらに浮気した夫の扱い方も語られている。

①ほのめかすように夫に言う
夫が浮気したら、知ってるということをほのめかし、憎いと思っても、そういう素振りは見せないで、さらっと言えば、夫の愛情も増すだろうし、やがて夫の浮気心も収まるだろう。
②放ったらかしにする
夫の浮気を知らぬ顔に放ったらかしておくと、軽く見られていけない。つないでない舟がどこに行くのか分からないのもだめだ。

これを聞いた頭中将は、うなずいて「そういうことがあっても、気長に見て我慢するしかないな」と妹と源氏の間を案じている。源氏は、寝たふりをしている。頭中将と妹葵の上は、左大臣を父とし、桐壺帝と同腹の姫を母としている。葵の上は源氏より年上で、政略により結ばれた間柄なのだが、余りしっくり行っていないのだろう。

4  見た目の風情は信頼できない

木の道の匠(建具造りの名工)や絵師の上手に続き、書においても、点を長く引いて、次の字につながったようなのは、一見才気ばしっているが、本当の書き筋でこまやかに書いた方が、うわべの上手さは見えないが、見比べれば、実直に見える。女性もうわべの風情などは、信頼できないものだと、馬の頭は語る。中身が大切か。

身分でもない、容貌でもない、うわべの女らしさでもない、本当に信頼できる女性とはどういうものなのだろう。物語は、馬の頭や頭中将の具体的な体験談につながっていく。






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