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小さな冒険で感じたこと

夕方、フレンチクォーターにあるスペイン料理店で同僚達と待ち合わせている。一緒に渡米した同僚は、コンベンションセンターで開催されている大規模な学会に参加しており、終日取材活動に没頭している。もう1人は、1年半前からボストンに転勤になった開発担当の男だ。奇遇にも同じ高校の15歳年下の後輩で超イケメン君だ。彼もまたこの学会に参加している内のひとりだ。


僕は内勤処理があると言う理由で、郊外に予約しているホテルから向かうことになっている。本当はホテルで昼寝していたなんて彼らは知る由もない。「何かあれば連絡してね」と伝えてあり、今のところ連絡が無いところをみると、大きなトラブルはないと言うことだろう。


この後スマホで呼んだUberに乗り込み、待ち合わせ場所のスペイン料理店に向かうことにしている。Uberは本当に使い勝手が良く、スマホひとつあれば細かい説明も要らず、確実に目的地まで連れて行ってくれる。ただ、運転手はプロのドライバーではなく、普段は何をしているのか分からない輩が多い。まぁ、そこが面白く日本ではまず味わえない。


ホテルのロータリーに真っ白なシボレーのピックアップトラックが、R &Bのリズミカルな爆音と共に滑り込んできた。日本では見かけないかなりデカい代物だ。


「名前は」
「ゆーじです、今さっきスマホで呼びました。」
「OK! じゃぁ乗って!」
「行き先はフレンチクォータだよな!」
「そう」


運転手は20代前半の黒人の若者。僕の息子と同じくらいだろうか。今風のドレッドヘヤで黒人独特の香水をつけている。英語はスラングだらけで、おまけに容赦なく早口。ただでさえ車内はR &Bの爆音が轟き、彼の言葉が聞きとにくい。


彼の大きめなスマホには僕の行き先がしっかり記されている。リズミカルに何かを口ずさみながら車を走らせた。高速に入るとウインカーも点けずにクイっと車線変更をして、あっという間に前の車との車間を詰めてしまう。メーターを見ると100マイルと表示されているので、時速に直すと160kmくらいだろうか。日本では確実にパトカーがお出ましになる状況だと考えると震えと震えてしまう。


「どっから来たの」
「日本」
「日本ってアジアなんだろ」
「まぁそう言うことになるかな」
「中国の一部?」
「はぁ?」
「コロナは酷いの」
「あぁ、酷いね、ここではマスクしている人見かけないけど」
「マスク? そんなの要らねーよ、カッコ悪いし」
「そーか、まぁ、そんなことより、この辺りでお気に入りの店ってある?」
「店? そーだなぁ、ご機嫌なライブハウスがあるぜ!トニーの店だ。今から行くスペイン料理店から近いぜ、歩いて直ぐだ」
「なんて名前の店なの」
Blue Nileブルーナイルってんだ、連れのトニーがドラムしてる、最高なんだ」


道が少し混んでいて、案の定待ち合わせ時刻に遅れてしまった。店に着いたら同僚らは既に注文を済ませており適度にアルコールが入って上機嫌。


「遅っそいっすよ」
「すまないねぇ」
「ショートメールしましたけどレスがなかったんで先に始めちゃいました、仕事全部お願いしちゃって申し訳ございませんでした」
「いいよ、気にするなよ」


そう言って、自分の行いを恥じた。
彼らこそ朝6時前から会場へ出かけ、今の今まで活動を続けていたのですから。「ゴメンな」とひとつ心の中で呟いた。


信じられないくらい美味いパエリアと、ワインのフルボトルを数本空けながら、久しぶりに会った後輩との会話を楽しんだ。物価が高くて生活が追い付かないこと、家賃が月に60万もすること、小3の娘の英語上達が凄いこと、日本に戻りたくないことなど、目をキラキラ輝かせながら話す姿を見ていると不思議と安心してしまう。



めっちゃ美味かったパエリア


僕たちのテーブルを担当する少し大柄の黒人女性が追加のオーダーを取りに来た。胸の名札にはマーガレットと記載してある。これは本名なのだろうかと疑問を抱き、質問しかけましたが思い留めました。そこで、先ほどUberの運転手から聞いた「Blue Nile」のことを店員に尋ねてみた。


「Blue Nile、、、あー知ってる。行ったことないけど有名な店よ。ちょっとトラブルがおいみたいだけどね。行くんだったら歩いて15分だね」
15分、、、ちょっと遠いな。運転手の野郎、ここから直ぐって言ってたのに、盛りやがったな。


お会計を済ませ、同僚達と「Blue Nile」へ向かうことにしました。フレンチクォーターの少し外れた場所にその店はありましたが、ちょっと治安が悪い。流石に深夜にひとりでは歩きにくい。


「兄ちゃん、コカイン要るかい」と中年の男が声をかけてくる。隣を歩く同僚の横顔をチラ見すると、真っ直ぐ前を向いて視線を動かさないでいる。怖いのかな。そう思うと、まるで震える小鳥みたいに可愛らしく感じてしまう。先程までワインを飲みながら饒舌に語っていた面影は既にない。


着いた。「Blue Nile」だ。
入場料はかからず飲み物をひとつ注文すればOKだ。安い!
店の中は独特な雰囲気で人種も様々。でも、どうやらアジア人は僕らだけの様だ。これは楽しそう。色んな輩が飲みながらリズムに合わせて踊っている。



記憶が曖昧な店内


どのくらい滞在していたのか分からない。店を出た記憶がおぼろげだ。中年が飲んで踊ればそれなりに酔いも回る。複数の方と会話したのを覚えているが、何を話したのかとんと記憶がない。ただ、楽しかった感覚と二日酔いの後悔だけはヒシヒシと実感している。


盛り上がった、、、らしい


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
1年間ありがとうございました。良いお年をお迎えください。


🍵 僕の居場所







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