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カチカチカチでおはよう

渡米中に喰らった新型の贈り物のお陰で、ご丁寧に自宅隔離と言う素敵なオプションを堪能する羽目になりました。孤独で素敵な年末だ。単身赴任先のマンションで味わうボッチ生活。いつもと違うのは、1歩も外に出れないこと。楽しみと言えば、Uber Eartsのメニューを片っ端から物色することだけでした。


そんな長いトンネルを抜けて、久しぶりに帰る我が家。何日も前から胸を躍らせていました。
「えーっ、もう帰ってくるのぉ?」と電話越しに応える妻の声。期待とは裏腹に、全く歓迎されていないようです。何なんだろうな、このギャップ。
ふぅっ、とため息が漏れる。


厳重に重ねたマスクと伊達メガネをかけて、まるで汚物を取り扱うかのようなお出迎えの妻。僕の帰省よりも、手荷物が気になるようだ。
「只今、、、」
「ねえ、ちゃんと買えたの?」
孤独な戦地から無事に帰還したと言うのに、気持ちは僕のカバンの中。
渡米前に懇願された訳の分からない化粧水だ。出国前の羽田空港で購入したので、移動距離にして少なくとも3週間、距離にして2万5千kmは一緒にいる。


大きなタイプを2本も頼まれたせいで酷い目にあった。
重い、円高、それだけならまだ良かったのですが、ニューオリンズの空港職員にスーツケースの重量オーバーを指摘された。ぎゅうぎゅうに詰め込んだことが裏目に出てしまい、超混雑している早朝の手続きカウンターで、泣く泣く$219の追徴金を支払った。全く馬鹿げた化粧水だ。蹴っ飛ばして川に流してしまおうかと思いましたが、そんなことは口が裂けても言えない。


「はい、これだろ」
「あーーーそうそう、これこれ、ありがとーーう」



ようやく出た感謝の言葉。
もうひとつ、ふぅっ、とため息が漏れる。


僕の帰省を心待ちにしていた存在がいる。
本当に奴に救われた気がするんです。駄犬のポンだ。


ポンはペットとして長い間我が家に住み着いているポメラニアンだ。ウチに来た時からいつも息子と一緒にいた、言ってみればウチの次男坊ってところかな。彼らはへんてこりんな兄弟みたいなもので、食事時だけではなく、寝る時だっていつも一緒でした。でも、昨年の4月に息子はひとり立ちして自宅を離れてしまいました。


尻尾がちぎれてしまいそうなくらい、フリフリフリフリして大歓迎。12歳になる中年犬ですが、甘ったるい声を出して擦り寄ってくるので、父性本能っぽいものがくすぐられてしまう。


息子が去った後は、必然的に妻と過ごす時間が圧倒的に多くなる。お散歩も食事も、もちろん寝る時だって一緒にいる。全く羨ましい限りですが、妻曰く、最近はポンと喧嘩中だという。母親と次男坊の親子喧嘩みたいなもので、くだらな過ぎて呆れてしまう。


プンプンしている妻から理由を聞くと、安眠妨害がその理由らしい。
カチカチカチカチ、、、毎朝5時20分になると、和室で寝ている妻の頭の周りで爪の音を立てるのです。早く起きろー、カチカチカチカチ。って具合に。叱られるので決して吠えない。だから、カチカチカチカチ、散歩連れて行けーって。


どれだけ寝返りを打っても、正面に回り込み、カチカチカチカチ。無視し続けても、カチカチカチカチとタップダンス。薄目をチラッと開けると、じっとガン見して来る。そして起きたと知ったら「ワン!」とひと吠え。行くぞーって感じだろうね。だから目を開けられないんだって。


よくやった!ポン。
僕の仇を取ってくれてありがとう。あとでこっそりおやつをあげるね。
今夜は寝る時までずっと一緒に居ような。眠くなったら和室に行きなよ。


明日の朝もタップダンスで挨拶しよう。



FUJIFILM X-E4 Voigtlander NOKTON 35mm F1.2


最後まで読み進めて頂き、ありがとうございました。🌱





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