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奈良県立医科大学を応援したい理由

始めに

短めのタイトルにしたため、え?っていうような感じですが、結論から言うと、今年の前期試験で画期的な入試方式を取り入れた結果、思ったほど志願者が集まらなかったが、それでも応援していきたい、奈良県立医科大学のお話です。

ちなみに、少しブログ更新間隔が開いたことで、その間書き溜めていた内容盛りだくさんになったので、少し長文になっています。また、あくまで個人的見解ですので、そのあたりご容赦頂き、お読みいただけたら嬉しいです。

今年2024年2月、奈良県立医科大学の前期試験で合格者が定員割れを起こしたことは、多くの方にとって記憶に新しい出来事です。個別試験の見直しという、最先端の取り組みが初年度に期待通りの受験生を集められなかった背景には何があるのでしょうか?次年度やその先でどのような展開が期待できるのか、他に、この先こういった個別試験の抜本見直しを予定しているのはどういった大学か、これからの入試の方向性について、受験生や大学関係者、進路指導に携わる方々と共に考えてみたいと思います。


2024年前期「小論文」+「共通テスト成績」の入試に反響

奈良県立医科大学、2024年入試、前期で募集定員(22名)を上回る志願者57名(実受験者44名)に対し、前期合格(12名)で不足した(10名)を、後期入試(定員53名)の後、追加募集。
前年までは100名以上の志願者がいるくらい人気だったので、「志願者激減」という事態には多くの関係者が驚きました。

ではなぜ、人気の難関国公立大医学部で、志願者が激減する特異な現象が起こったのでしょうか?

医学部受験生や、進路指導に携わる方ならご存じの通り、この奈良県立医科大学では、2024年度から、前期試験の試験科目を、従来の「英・数・理」から、思い切って「小論文・面接」だけに変更したことに起因します。

元々、奈良県立医科大学は、前年まで「トリアージ入試」という独特の入試をすることで注目されていました。

これ自体、トータル180分の中で、各自が数英理の時間配分を判断して答案作成する入試方式であり、医師の素養である「迅速」「的確」「冷静」という判断力を学科試験内で併せて判定するというユニークなものでした。

そんな、奈良県立医科大学ですが、今年もまた、既成概念にとらわれない、前期試験としては珍しい「小論文試験方式」を打ち出しました。

令和6年度(2024年度)奈良県立医科大学(予告)
医学部医学科一般選抜(前期日程)の選抜方法の変更について(予告)
個別学力検査等の学科試験を廃止し、小論文試験を実施 (面接は実施)。」


「共通テストの+(プラス)ー(マイナス)」


あくまで、私の推論ですが、大学側としては以下のような背景から、思い切った改革に踏み切ったのではないかと思うのです。

ご存じの通り、国公立大学入試は、大まかに区分すると
   1月のセンター試験は「基本内容」の試験
   2月25日(26日)の前期2次試験は「応用内容」の試験
という位置づけが長年続き、多くの高校や塾・予備校での指導は、「この2本立ての学力対策」中心でした。

ところが、そのセンター試験に代わって2021年度から始まった「共通テスト」は、当初、記述やTOEICの見送りなど問題だらけの船出だったにもかかわらず、良い意味で予想を裏切って「案外多様な能力を見ることの出来る十分な試験」ととらえらることができるようになってきました。様々あれどとりあえず+(プラス)面として、英語は文法問題が減り、読解やリスニングが本格的に導入され、数学では思考力を問う問題が増え、単なる暗記が通用しない試験になってきました。また来年2025年からは「探究」や「情報」も本格的に含まれることになっています。


ー(マイナス)面としては、以下。

もう忘れがちな、あの・・・「共通テスト開始時のゴタゴタ」

そうです、ともすれば忘れがちなあのゴタゴタについてです。2021年1月からの「共通テスト」で、「数学」「国語」に記述問題が導入される予定であり、英語では「TOEIC・TOEFL」などの民間資格試験が採用される予定でした。しかし、実際にはこれらが導入されることはありませんでした。

細かい経緯は割愛しますが、言いたいのは、もし当時「記述導入」や「英語の民間資格導入」が実行されていたら、「共通テスト」がより多様性のある統一試験に近づいていたかもしれないと今になって思います。

また、現在「総合型選抜」を中心に「小論文」が多用される現象も、当時「共通テスト」で記述問題の導入を逸したことのマイナス面を補っているのだと、感じるのは私だけでしょうか。

そして、今回の奈良県立医科大学の前期試験で、「小論文」が課された動きも、これと無縁ではないと思うわけです。もちろん、あの時、共通テストに記述問題が導入されていたとしても、医師の基本素養までは測れないので、部分的利用ではあったと思いますが。

来年2025年度は、新課程入試初年度を迎えます。科目に「情報」や「探究」も加わるこのタイミングで、より共通テストが難しくなるのは必至。この機会に、日本全体で、前回の「共通テスト」開始期になしえなかった「大学入試一本化」の方向に向けば、大学個別に入試問題を作成する手間が軽減され、その分、受験生の個性や素養、適性を判定することに時間を割けるでしょう。大学、先生、受験生にとって、WIN-WINの効率の良い入試方式に変わっていくチャンスが来たと考えたいところですが、いかがでしょうか?


新たな大学入試改革の始まり「シンプル化」


これは、ひょっとして、「個別2次」をしなくとも、「大学で学ぶために必要な能力を測る学科力」は「共通テストだけで概ね十分」なのではないか・・・もっとほかの、たとえば「各専門学部学科に必要な能力・資質を見る為の試験」に「時間を使える」のではないか?と考える大学が、もっと増えても何ら不思議ではなく、寧ろ潜在的には、案外多くの大学でこのように考えるようにならないかなと、ひそかに期待するところです。

良いと思ったことは率先してやる奈良県立医科大学」のチャレンジは、一見周りがついてこれなくて時期尚早だったように見えますが、やり続けてほしいなと個人的に思うわけです。数年後には、寧ろ、こういう大学がメジャーになっている可能性もあります。なぜなら、適性のある学生を見極めるのに、よりシンプルで、より効率のよいシステムを模索することは、大学、受験生、指導者ともに「WIN-WIN-WIN」なはずだと思うからに他なりません。

初期には、その意図が浸透せず、すぐには思った成果が出ないのは、世の常です。しかし、やり続けることで、着実に、意図は伝わり、広まっていくものかな、と考えています。これが「奈良県立医科大学を応援したい」ことの理由です。

小論文が、学科試験より難しいと思って、小論文試験を敬遠しがちなのは、まだまだ日本の高校の教育では、小論文というものになじみが薄いから不安なだけであって、探究授業が盛んになるにつれ、これからは、中学、高校でも、小論文、というか、論理的な文章による表現が日常になる時代が来ると考えています。

共通テストでは、英語が文法中心からリスニング、読解力中心に移行し、数学の思考力を試される問題が増え、国語で扱われる題材が多岐にわたる様になりました。又、来年度から情報1でPythonのプログラム等も入試対象となり、社会や理科で探究という概念が盛り込まれ、年々難しい試験になりつつある印象です。共通テストの準備だけで、相当大変になる傾向があります。
個別2次試験問題が、今後も残るとしても、その受験者数は、年内入試の受験者増に反して減っていくことは間違いのないところで、どちらがメジャーで、どちらがマイナーになるかは、わかりません。もしかすると、数年後に逆転している可能性も否定できないところですね。

国公立大学で「前期試験」を見直す表明をしている大学3選


①奈良県立医科大学のチャレンジ

大学入学共通テストで、高等学校教育段階においてめざす基礎学力を確認します。・・(中略)・・
一般選抜(前期日程及び後期日程)で、・・・医学科の学修に十分対応できる知識とそれを利活用した思考力、判断力及び表現力を確認します。」
 
🏫 詳しい情報源はこちら→奈良県立医科大のアドミッションポリシー

「共通テストでも十分必要な基礎学力が測れる」ので「個別学力検査では、医師を目指すうえでの基礎素養を確認したい」という「強いメッセージ」を感じます。

「完全ではないにしろ、今の共通テストは、従来のセンター試験とは違い、一筋縄ではいかない、種々の能力を測る試験になってきている」のであるから、必要以上に学科学習ばかりに時間を割くのではなく、それだけの時間があれば、「医師の素養」習得に向けてほしい、という大学からのメッセージなのではないでしょうか?

②筑波大学のチャレンジ

他にも筑波大学も以下のように、将来的には、基本的学力を測るのは共通テストだけにして、2次個別試験では、別の能力を測る試験にしたい、と表明しています。

永田学長は「基本的な学力は共通テストで分かるので、さらに筆記
試験をやっても仕方ない。個別試験を変えて、これまで見つけられていなかった才能を見つけたい」と語りました。
🏫 筑波大学長、2次試験を「面接と小論文中心に」の意向 5年後めど
  (朝日新聞:2023年6月30日)


③東北大学のチャレンジ


選抜試験を全て総合型選抜(現⾏AO入試)へ移⾏」と表明 
🏫 東北大学国際卓越研究大学研究等体制強化計画(第一次案)←P.10


オンライン家庭教師を運営する中で、東北大医学部医学科のAO入試にチャレンジする多くの生徒を指導しました。全員が優秀でしたが、中でも、AO入試(=総合型選抜)に合格したのは、学科力だけでなく、思考力、表現力、判断力、さらに専門的な医学や語学の知識を兼ね備えたトップクラスの生徒でした。この受験準備過程では、彼らが研究者としての素養も基礎も身につけることができました。そういう入試は、誰でもが合格指導できるほど甘くない、総合力を必要とする、これが東北大のAO入試の特色です。東北大学は、AO(総合型選抜)入試で優秀な学生を集められることに自信を深めているのだと思われます。将来的には全ての入試方式を「総合型選抜(旧AO)+共通テスト」に一本化する計画を発表しています。


今回、国公立前期試験のひとつの在り方として、奈良県立医科大学がチャレンジしたのは「共通テスト+小論文、面接」という入試形式でした。この試験方式は、他には「前期学科試験なし」という言い方もできます。
究極は、前期試験の位置づけ、存在意義を見直すきっかけになればいいな、という気持ちです。

指導現場も混乱するのに、そういう改革はもっと、精緻に考えてからすべき~…という声も聞こえてきそうです。ただ、私は今回の奈良県立医科大の「小論文試験志願者数減」は、受験生が慎重になったというより、高校や塾予備校の進路指導の方々が慎重になったことに、より強い要因があったのかなと、元塾予備校にいたものとして、ちょっと思ったりします。

いずれこの方式は広まると思います。県立医科大学の前期入試方式は、今後もぜひ続いていってほしいと思います。

ちなみに、下記の資料は大変興味深いものです。
→ 2024年度 奈良県立医科大学一般選抜結果
  2023年度 奈良県立医科大学一般選抜結果
例えば、今年の大変革にもかかわらず、男子に比べ女子志願者の減少幅が少なかったとか、チャレンジすることで何が変わったのか、根拠や予測が見えてくる良い資料かと思いますので、よければご覧ください。



何事にも、先駆者には反対派が多く出るのは世の常です。ですから、すぐにすべてが変わることはないと思いますが、今は少数派の「前期試験で学科試験なし」方式ですが、うまくいき始めた暁には、この仕組みのメリットに気づいて、取り入れる大学が増える可能性もあるとみています。従来型個別学力試験を維持する大学との2極化が起こる可能性もあるでしょう。今のままでも十分な成果が出ていると考える大学は、現状維持の方向に進むでしょうし、このままでは困るという危機意識を持つ大学は、思い切った変革に取り組むチャンスととらえるかもしれません。

日本の大学受験の方式において、総合型選抜、推薦型選抜、の比重が高まっていることや、IB教育を取り入れる高校が増えている事、なにより、高校生のうちに、しっかり自分の目で見て、自分で考えて、自分の言葉で語れる人材を育てようという、本来の探究学習が、徐々に広がっていることと無縁ではないでしょう。

これからの大学入試の一つの方向性

私は来年度からはこの方式を受け入れる優秀な受験生が増えてくれることを本当に期待しています。

「共通テスト利用」という言葉、なんとなく私立大学が国公立の補完役のようなニュアンスを持っていますよね。私は、共通テストが基本となり、一般試験や総合型選抜でさらに個々の能力が評価されるようになるといいなと思っています。

ヨーロッパを中心に広まる「国際バカロレア」や、アメリカの「SAT」、中国の「高考」、韓国の「修能」のように「国で統一された試験制度」を持つ国は、仮に合格難易度の高い大学がある点では日本と大差なかったとしても、こと受験方式という点では、比較的わかりやすい仕組みとなっています。バカロレアなら、1年2年前から準備するスコアにしても、大変ではあっても内容が明確であったり、入学準備もわかりやすいという特長があると感じます。
これらの国では、国公立では、学科試験が2回もある日本ほど、複雑な試験方式を持ちません。良し悪しは別にして、受験生にとっても、大学関係者にとっても、効率的であるといえるでしょう。研究力で世界のランキング上位を占める大学の多くが、これらの国に属しています。

すぐに大きな変化が見られるわけではないですし、今の共通テストが完璧とも言えないのは承知しています。しかし、国公立大学を中心に、私立大学も含めて、学科試験を共通テストに頼り、個別試験では、より本質的な学びの力を見極める方向に変わっていくのも、もっと大事なものを見極めたり、大学入学準備時間を作るためには、それもありなのじゃないかな、と感じています。


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