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有馬記念 新馬先生はこう見る〜さよならの代わりに

プロローグ

『パパ、もう競馬やめなよ〜。』

と、言われたのは12月のとある日。

先週、8歳になったばかりの娘から言われた言葉が耳に残って離れない。

そうか、もう辞めてほしいのか。
もしかしたら、嫁の入れ知恵かもしれないが、
思っていないことを言う子ではないからなと寝顔見ながら
僕はこの後のことを考えていた。

2023年。
7月に転職してからの半年で、
僕の人生は劇的に変わっている。

少し思考を競馬に戻す。

『有馬記念は自分が好きな馬を買えばいいんだよ』
と、僕の競馬の師匠は言っていた。
有馬記念が迫っていく中で、どこかダービーとも違う
映画のクライマックスに近づいていく様な、
歌の大サビがやってきたような、この感覚が好きだ。

演者は全員主演級、
引退間近のベテランから、新進気鋭の若手にいぶし銀が揃った有馬記念。
確かに今年の有馬記念こそ、好きな馬を買えばいい。
皆が笑顔ではないだろう、何かを背負って賭ける人もいるだろう。
人には人の生き方がある、3分に満たないドラマを私利私欲のために
富を肥やすために賭けるのなら悔いのない何かに投じた方がいいよ。

だって、こうやって
競馬を不意に辞めなきゃいけない瞬間が出てくるんだから。
有馬記念は毎年やってくるけれど、
貴方が必ずこうやって賭けれるとは限らないのだ。

今年の僕は、
仕事を通して得たものも多かったが、
同時に身近な人も失った。
競馬界でも、アスクビクターモアが酷暑で天に召されるなんて誰が思っただろう。
どちらの一報も、いまだに僕の心に深い棘を刺し、そしてそれでも日々は進んでいく。

何かを得るということは、何かを失うということでもある。
何かを失うということは、逆に何かを得れる可能性もある。

毎年これを言っている気もするが、
このnoteを読む貴方の1年はどんな1年だっただろう。
聞く文字は一緒でも、そのニュアンスは少しずつ意味が変わってくる。

2023年、僕には人がコロナ禍で失われた時間を取り戻すように元気になっているように見えた。
そのエネルギーは時に幾つかの諍いを生んでいて、それらのぶつかり合いを見るのもエネルギーがいった。そんなのを見る余裕も体力もない。
だからSNSから僕は目を背ける時間が増えた。

そんな僕にとって、この1年、1番のニュースは
今横で寝ている娘が、運動会の徒競走で、初めて最下位を脱して人より早く走ったことだ。
僕にとって2023年は何が大事かを確認していた1年だった。
仕事、家庭、日常。
僕はそういうことを「ちゃんと」過ごしていることに重きを置いている。
心穏やかな時間を大事にしたい。
今あるものを大事にしたい。
それは他人にとっては何にも面白くない人生だろう。

だからこそ、有馬記念は非日常の集大成として楽しもうと思うのだ。
だって僕は、来年、有馬記念を見れないかもしれないから。
競馬をやっていないかもしれないから。

さあ、みんな、有馬記念の時間だ。
競馬予想を始めよう。

調教診断

調教評価第1位

15スルーセブンシーズ

最終も好タイムで負荷をかけてきた。

調教内容はいつもと同じ。ただよく言えば元気すぎるのが気になった1周前追い切り。
馬体は尻まわりから少し大きくなった印象。
海外帰りの疲労かと思ったが、この馬はキャロット所有馬。6歳3月までの引退が通例。
最終でも元気であれば、引退の前の仕上げと見た。

調教評価第2位

1 ソールオリエンス

1週前の8F、ウィンマリリンを突き放す。

1週前は同じ有馬記念出走のウィンマリリンを追っかけて、最終は川田騎手を乗せて調整。
目を引いたのがGOを出した後のスムーズな加速と、コーナリング。
この馬は春先コーナリングに課題があったが、菊花賞から劇的に良くなって見えている。
内枠が最大限に活かせる騎手で1発。この人気であれば狙いたい。

調教評価第3位

8 ライラック

1週前の動きが出色

オークス前からこの馬の走るフォームが好きだったが、体幹に追いついておらず時々片鱗を感じさせたが、今年の調教では最も良い動きに感じさせた。
加速するまでに時間はかかるタイプだが体が沈み込んで伸びていく様子は坂を苦にしない。先行勢が潰れる展開なら積極的に狙っていきたい一頭だ。

調教評価第4位

16 スターズオンアース

1週前3頭併せで好調をアピール

ジャパンCとの比較で、ということになればこの馬の出来がよく見える。
元々JCではお釣り残しという印象だったが、1週前で3頭併せの内回しで優々先着。
写真の通り、四肢を広く使えている。
大外が良いタイプではないがルメール騎手な点も含めて軽視不可。

調教評価第5位

10 ジャスティンパレス

最終坂路は天皇賞秋と同じ。

天皇賞秋と同じ調整で向かってきたがタイムはいずれも天皇賞より良いタイム。
秋2戦目で好調をキープ。元々調教を駆けるタイプ。長く脚を使うので位置取りが気になるが実力は発揮できる状態にある。

エピローグ

もし、これが最後の有馬記念だとしたら。買って後悔のない馬券とはなんだろう。僕はきっとみんなに聞かれる。

「有馬記念どうだったの?」

当たるにしろ、外れるにしろ、
人に笑って話せる自分の答えを探しながら枠番発表を見ていた。

先週、誕生日を迎えた娘に
今一度聞いてみた。

『この1年の目標って、なんかあるの?』

夜ご飯を頬張りながら、彼女はこう言った。

『(家族)3人で、幸せに暮らせたらいいね。』

笑った。娘も僕も。
達観してるな。
人生何周目だよ、と心の中で呟いた。

「あの子ね………」

とそのやりとりを見ていた、妻が娘が寝入った後にポツリと教えてくれた。

最近あまり聴いてなかったプレイリストの中から、懐かしい曲を探して耳にあてる。
競馬を始めた年にヒットした、あの曲を。

今年に起きたことを反芻しながら、その歌詞を噛み締めた。
何かが浄化されていくような気がする。

君を忘れない。曲がりくねった道をゆく。

スピッツ 『チェリー』

二度と戻れない、くすぐり合って転げた日。
きっと想像した以上に、騒がしい未来が僕を待ってる。

スピッツ 『チェリー』

"愛してる”の響きだけで 強くなれる気がしたよ
ささやかな喜びを つぶれるほど抱きしめて
ズルしても真面目にも生きてゆける気がしたよ
いつかまた この場所で 君とめぐり会いたい。

スピッツ 『チェリー』

「あの子はね、今年の夏に貴方とスタンプラリー行けたのが今年1番楽しかったんだって。だから、今は競馬より遊んでもらいたいんじやないかな。」

競馬は、たぶんまだ来週もやってくる。
けど、7歳の思い出は、その年にしかやってこない。

スピッツのチェリーが半世紀を経ても古びないように、良いものは残る。
楽しいものとは続いていれば、
またそこで出会える。

競馬はまたいつでも出来るかもな。
そこに有馬記念がある限り。

有馬記念は自分が賭けたい馬に賭ければいい。

12月15日、8歳になった娘。
少しだけ人より苦労しながら過ごすその1年、1年は大海原を過ごすような日々だっただろう。

もしかしたら、これが最後の大きいレースかもしれないのかな。

今年の気分はジャジャ馬を応援しよう。
娘の誕生日をつけた馬番を見たら改めて思う。

7回目の大海原を無事に過ごした娘と共に応援する
今年の有馬記念。

例えこれが最後の有馬記念だとしても、
後悔しない本命を選ぶとしたら。

2023年有馬記念
僕の本命は
15 スルーセブンシーズ

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