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ヴィクトリアマイル2023 新馬先生はこう見る~陰日向

プロローグ

「親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。」

夏目漱石「坊ちゃん」

初めて夏目漱石の文章を読んだのは、
確か小学校の高学年だった気がする。
国語の授業で、これが漱石か、意外に読みやすいなと偉そうに思っていた。
その小説は「坊ちゃん」だった。

教科書の内容が案外面白かったので、僕は初めて文庫本を買った。
旧仮名づかいの難しさはあったもの、清が死んだあと、坊ちゃんと同じ墓に入りたいという最後には目頭が熱くなったものだ。

年をとって、僕は坊ちゃんのように無鉄砲な大人にはならなかったが、
今はなぜだが、インターネットという空間の中で、
坊ちゃんと同じ「先生」になった。

「先生と呼ぶのと、呼ばれるのは雲泥の差だ。何だか足の裏がむずむずする。」

夏目漱石「坊ちゃん」

本当の僕は、単なる読書好きな、峠は越えた単なる一兵卒。

「成程碌なものにはならない。御覧の通りの始末である。行く先が案じられたのも無理はない。只懲役に行かないで生きているばかりである。」

夏目漱石「坊ちゃん」

けど、馬と人が真剣に走る、この短い熱闘をこの上なく愛してる。
こちらが考えられもしないような、狭い空間をすいすいと攻める騎手の魔術に心躍らせ、
何物にも代えがたい、ただ、まっすぐ前を向く競走馬の真剣さに、
ギャンブルという形で夢を見る。

競技における人馬一体という真摯さと、他人任せの博打という愚鈍。
理性と本能という二律背反。
それはもしかすると、愚かな行為を繰り返す人間そのものを象徴するそれなのかもしれない。

「本当に人間程宛にならないものはない。」

夏目漱石「坊ちゃん」

親から譲られたのは、
斜に構え、強い正統派より、つい穴馬を探してしまうことの性。
だから、僕はメジロマックイーンよりライスシャワーが好きだし、
武豊より、横山典弘を愛してやまない。
そして、父より受けついただもう一つ。
とことんに女心がわかることないこと。
そんな僕に、例年よりハイレベルな牝馬の祭典。
ヴィクトリアマイルというレースを当てることは出来るのだろうか。

さて、今週も予想を始めよう。

調教診断

マイルの調教はそもそも難しい。
スプリントからの距離延長のための調教や、
中距離からスピード対応に必要な調教。

それに加えて、今回、
高松宮組はダメージの有無の確認。
牝馬特有の仕上げすぎない点も加味して、
評価をした。

調教評価第1位

8 ララクリスティーヌ

1週前抜群の動き

上昇度が1番高い馬として、評価を1位にした。
1週前から距離延長のため7FのCWを菅原騎手鞍上で併走馬を突き放し、最終はCWを単走で軽めながらもタイムも良好。
前走の最終追い切りが重馬場だったとはいえタイムをかなり縮めており、間違いなくここをメイチで持ってきたような印象。
余談だが、菅原騎手は若手では抜群に調教が上手いと思っている。

調教評価第2位

12 ナムラクレア

1週前のCW、ここにマイルに挑む覚悟を感じた。

元々は調教駆けする馬で、タイムはもっと出てもおかしくない。
ただ、おそらく重馬場の高松宮記念を走った影響もあり、疲労を加味したのだろう。
1週前のCWでは、直前まで我慢して併走馬を突き放した。若駒の頃は坂路主体だったが、ここで無理なく、鞍上の意図を汲んだ走りと内容に陣営のマイル挑戦という中で最大限の調教過程ではなかったかと考える。
1位との差は、あくまで前走からの上昇度の差のみ。前走と同じくらいの出来で挑めると思う。

調教評価第3位

16 ソダシ

1週前、抜群のタイム

1週前にレーン騎手が追い切りに乗りタイムを出した後、最終の坂路では直線伸びやかに加速。力みを感じさせず、成長を感じさせた。
結果いかんでは安田記念にも挑戦するはずで、その分の余白は残しているが、休み明けに負荷を強めて、臨戦体制充分。
距離に不安がないからこその調教。
それは調教師、笑顔になるはず。

調教評価第4位

6 ソングライン

美浦組らしく、最終もしっかりタイムを出している

戸崎騎手、3週連続追い切り騎乗。
3頭併せの真ん中で実践形式で追い切り、タイムも1週前とほとんど変わらない形で併走馬を突き放した内容。
出来は良い、騎手が追い切ったのもプラス。
こちらもマイルに不安要素がない美浦組らしい好内容だった。

調教評価第5位

11 ナミュール

オレンジのメンコ、坂路でもう高野厩舎という追い切り

高野厩舎はほぼ追い切りが坂路。
力強さを感じた点を評価。
1週前に負荷をかけて最終は輸送もあるので軽め。1週前のタイムは加速ラップで、まっすぐ走れており成長を感じさせた。
東京新聞杯の最終と1週前のタイムは似たようなラップを刻んでおり、上昇度という点で上の4頭との比較で5位とした。

その他

1週前に抜群のタイムを出したサウンドビバーチェ

今週はこれ以外にも良い動きをしていた馬が多いが、1週前に破格のタイムを出した
3 サウンドビバーチェ
最終の坂路で、暴れながら登坂していたので上位5頭から外れたが、この馬はとにかく気持ちよく走らせないといけないタイプ。

距離や牡馬、牝馬の違いはあれど、この馬を見るとキセキという馬を思い出す。
仕上げすぎて緊張を張り詰めるより、とにかくピント張り詰めず、楽しくマイペースに走らせる。その点でこの馬は良い状態と言えると思う。あとは久々に人が沢山いる競馬場でテンションが上がりすぎないか。それだけが肝である。

エピローグ

今回の出馬する馬たちを見ていく。
推し馬、
メイケイエールが出走を取り消した今、
僕の目に煌めいて見えるのは同じノーザンファーム日高で隣り合わせの仲良しな親友だ。

僕は先生と呼ばれても、やっぱり女心はわからない。
けれど、同じ男として、
彼の気持ちなら少しだけわかるかもしれない。
その人にとって、これが最後の大舞台。
6月一杯で彼は長年勤めた厩務員という仕事から解放される。
過去には、自厩舎に初めてのG1という栄冠をもたらせた、芦毛の暴れん坊ゴールドシップという名馬を育て上げた、名参謀。

男女の違いはあるけれど、
どうしてか、彼、今浪隆利と清が僕にはなぜか重なって見えてきた。
デビュー時から期待され続けた、彼女を無事に育て上げる苦労もあっただろう。

「“かわいい”って感情は俺にはないけどな。でも、馬房にいると顔をすり寄せてくるんや。そんなん、いつまでやってくれるんやろなあ。大人になったら、せんやろうしなあ」。

サンスポ  ZBAT 競馬 2021.5.18

孫娘を自慢する、好々爺を連想させる記事だった。

「最後だからね。連覇したい」
と今浪隆利厩務員は、今週語っている。

坊ちゃんの最後、子供心になんと美しい最後だろうと思った。
作家・いのうえひさしは、この一文中の「だから」を、「日本文学史を通して、もっとも美しく、もっとも効果的な接続言」と述べたという。
清の最後の願いだ。

坊っちゃん後生だから清が死んだら、坊っちゃんのお寺へ埋うめて下さい。お墓のなかで坊っちゃんの来るのを楽しみに待っておりますと云った。
だから清の墓は小日向の養源寺にある。

夏目漱石「坊ちゃん」

今浪隆利が、目の前で見るソダシ最後の晴れ舞台。
願うのは、先頭で走る抜ける季節外れの白い稲妻。
雨天になれば、パワーのいる舞台。
もし彼の願いが叶うなら、
老戦士のうれし涙の代わりに、
府中の杜を少し濡らしてほしい。

2人の旅路は終われど、それでも人生は続いていく。

2023 ヴィクトリアマイル
私の本命は
16 ソダシ

ゴールドシップよ、
どうか彼女に大外枠を跳ね返す力を授けてください。

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