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【小説】被創 #3

 キッチンの端、いつもと変わらない椅子に座って新聞を読むマスターを尻目に、僕はキッチンに立つ。喫茶店には眠たさを誘う朝八時の空気が漂っていて、そこに四月上旬の陽気が外から流れ込んでいる。朝の眠たさと春の眠たさのダブルパンチ。目玉焼きトーストみたいだな、とかくだらないことを思いながら食パンをレンジに突っ込む。モーニングセットを自分が作るようになってから約半年。時間設定を間違えてパンを焦がすこともなくなったし、常連さんの好みに合わせて目玉焼きの焼き加減を調整することもできるようになってきた。

 「伏見くん、もう目玉焼きいいかも。」

 まぁ、この人がいるおかげってだけかもしれないけれど。

 
 新都さんが県外へ転勤してから丸一年が経った。八分咲きの桜が小さな窓の外から覗いている。この街の風景は、一年前と驚くほどに変わらない。もちろんこの喫茶店もで、変わったことといえば3月まではランチタイムにお決まりのTシャツで現れていた若い男の子が、スーツ姿でモーニングを食べに来るようになったくらい。
「ふ、し、み、くんっ」
「いたっ」
 振り向くと、そこには人の頭を小突いておいて満面の笑みを向ける凪咲がいた。
「ボーッとしてないで、洗い物しなよー」
「うん」
 そういえば凪咲が来たのも変わったことだったっけ。僕は目をこすりながらシンクに溜まった白い食器と向き合った。


                 *


 日、長くなったな。本当に、ただ純粋にそう思った。
 時刻は十九時前。太陽が沈みきるほんの少し前、街の輪郭がぼやけている時間。数年前に流行ったアニメ映画で「黄昏時」とか「かたわれ時」とか言っていたあの時間。
「野菜ってまだあったっけ。」
 横から凪咲の声がした。柔らかい、声。
「まだ結構残ってたと思う」
「じゃ、スーパーは寄らなくていっか。」
「うん」
 仕事帰り。桜並木を二人で歩いていくこの時間が好きだ。街の風景みたいに、心の輪郭までぼやけて溶け出してしまいそうになる。帰宅ラッシュの車の音も、下校中の高校生達の笑い声も、凪咲といるとその全てが僕たちの背景になっていく気がした。


 




#3  あとがき。

こんにちはこんばんは、みざです。
突然#3が投稿されたので「???」となっている方もいらっしゃると思います。
約一年半前、当時中学生の僕が初めてnoteに投稿したのが、この小説の#1でした。一年半の時を越え、連載が再開したわけです。おめでたい。
この前自分の投稿した文を見返していて、一番下に埋もれていたこの小説を発見しました。うわぁ〜黒歴史出てきたぁ〜、、っていうのが第一印象だったんですが、いざ読んでみると
あれ?意外と良い文書いてやがるなこの小僧。
って感じで。じゃあ折角だし成長した高校生の僕が引き継いでやりますよ!!ってノリで書きました。これから#4までどれだけの間が空くのかは分かりません。来週かもしれないし来年かもしれません。
#1と#2も見に行っていただけると嬉しいけど恥ずかしいです。中学生の僕が書いた小説が当時のまま残っています。

よければスキとフォロー、していただけると嬉しいです。
それではみなさん、良い一日、良い夜を〜。

 


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