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冷めた私の熱い指南書~「覚悟の磨き方」~

 吉田松陰という人物をご存知だろうか。
 私が語るべくもないだろう。かの有名な「松下村塾」を開いた人だ。教育にあたった年月は僅か1年あまりだったが、その後の日本を率いる傑物を何人も輩出している。清く立派な性格をしていたと同時に、どこか向こう見ずなところもあったらしく、世界を知るべくあの黒船に乗り込もうとして捕まり、投獄された先で囚人たちと学問をしていたという逸話もある。
 そんな師の生き様やお言葉を記した本は数多く存在する。その中の一冊を今回は紹介しようと思う。


「覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰」(編訳:池田貴将、サンクチュアリ出版)

この本を読もうと思ったきっかけ


 定番のAudibleでこの本を聴いて面白いと思い、実際に目で見て読んでみたかったというのが理由だ。
 どうでもいいが、Audibleで流れを知る→実際に本を購入して読んでみる、が定番の流れになっている気がする。

どんな内容か


 最初に吉田松陰がどういう人物で何をしたかが簡単に書かれており、その後「心」や「士」、「友」など、いくつかのテーマに沿った師の発言を、池田氏が現代風に訳した文章が掲載されている。
 あくまで「超訳」なので、本当の師の発言はどういうものだったかは各文献をあたる必要があるので、そこは注意されたい。
 とにかく心に響く発言が多く掲載されているので、生き方に迷っている方や、このままでいいのか悩みを抱えている方は一度手に取ってみることをお勧めする。

私の感想


 恐らく師はMBTIでいうところのENFPないしINFPだったのではないかと推測する。
 とにかく内なる心に従うというか、湧き上がる善性を大切にするとか、そういう印象を受けた。少なくとも感情機能が優位だったのは間違いないだろう。
 私はINTJなので、感情機能の活用は苦手な方だ。自分の感情は大体思考機能が踏み潰して押さえつけているので、師の生き方はとても新鮮だった。
 最初のうちは読んでいて「こういう考え方もあるのか」という学びと興味深さの方が強かったが、段々と読み進むにつれ、読むのが辛くなった。
 超訳というのが私には合わなかったのかもしれない。当時は無かったはずの横文字が飛び交っているのを見て「原文はなんだったんだ?」というのが気になって仕方なかった。
 あとは、やはり根本的な考え方が違うからだろう。自分が受け入れられない、或いは異を唱えたくなる言葉も半分以上あった。人の上に立つ人間じゃないのは重々理解しているが、ここまで考え方が合わないともはや笑えてくる。そういう部分も感情機能が優位なところを感じられる。
 特に思想とか生き方とかの面で、こうしなさいああしなさいと言われるのがあまり得意では無いので、そういう意味では私に向いている本ではなかったのかもしれない。逆に、本来の言葉はどうだったのか気になったので、師を知ろうと思うきっかけには良い本だと思った。
 なんだか批判的な感想になってしまったが、総合的に良い本だと思う。先程苦手な言葉が半分以上と述べたが、好きな言葉も勿論ある。体感6:4くらいの比率だろうか。私は感情的な考えを踏みにじって日々を生きているので、そうではなくてもう少し自分の感情にも素直になってみようと思うきっかけにもなった。
 本書では「やむにやまれずいいことをしたいと思う心」を性善と呼び、誰もがそういった心は持っていると説いていた。所謂性善説だ。私は性悪説を信じているから、根本的には相容れないはずだ。けれど、立ち返ってみれば、損得以前に「こうしたい」と善い行いをしたい心は確かに存在する。そこに間髪入れずに変に理屈を捏ねまわして損だの得だの、善だの悪だの考えているだけな気もしてくるのだ。
 この辺りは恐らく、気の持ちよう、思い込みなのだろう。私が人間というのは生来邪悪なものだと思っているからそういう考えが湧いてくるのかもしれない。こういう風に凝り固まった視点を「こういう見方もあるんじゃない?」と移動させてくれるから、本は楽しい。この本でもそういう一文に出会えて良かったと思う。

まとめ


 合うところもあれば合わないところもある。反論したくなる箇所もあれば言葉が出ない程に肯定しか出来ない部分もある。そんな一冊だった。
 最後に私と対極に位置するなと思った部分を紹介させて欲しい。

私は人を疑い続けて、うまくやるよりも、人を信じ続けて、馬鹿を見る男になりたい。

覚悟の磨き方

 人でもものでもなんでもかんでも疑ってかかるのが私だ。信じることは出来ても、信じ続けることはあまりにも難しい。
 最初この部分を読んだときは単純に合わないなと思っただけだが、何度も反芻している内に、こんな考えが浮かんだ。
 人を信じたい人が信じ切った末に馬鹿を見ることにならぬよう、疑いの心を持った人間がとことんまで疑い続けて信じたい人を守ればいいんじゃないか。
 私は師のような人にはなれない。私はこんな直感を抱いたが、これは諦めでも絶望でもない。この本が説くことは、「こういう人になりなさい」というただの道しるべではなくて、「こういう人の横に立つために自分が出来ることはなんだろう」と、自分に問い掛けさせ、成長を促すための指南書だと思う。そういう風に自分に都合の良い解釈をすることにした。これが私なりの、師の言葉の超訳だ。


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