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山陰ひとり朱色に揺られ

📅:2024.03.27-28
大阪から山陰の方へ向かい、日本海を見ながら米子へ行く経路で18きっぷ旅をしました。
似たようなカットの写真ばっかりなのは許してほしい…🙇‍♂️
どのカメラの色も良くてついつい違うカメラで2回撮る…。
トーンジャンプか雲かわからん写真も多い…


1.出発

朝5時40分の大阪駅は人も多いのか少ないのか中途半端な人数、この時期になればこんな時間でも空が薄明るいから微妙な雰囲気に包まれる。
ここから福知山までを2時間半弱普通列車でゆっくり進む。
ターミナル駅から長距離を一本で行く鈍行というものは、往時の客車列車を思わせるようで何とも奥ゆかしい。
事実、この列車は大阪発出雲市行の長距離鈍行列車の系譜を汲むらしく、電車より先にロマンが頭の中から出発した。
列車は通勤客?と酔っ払いを乗せて、まずは宝塚までの住宅街を進む。
築堤を上って尼崎の工場群が見えてきた。
列車は若干のアルコール臭さとスーツから出るイビキの音を車外に漏らしながらノンビリ郊外を行く。
伊丹あたりの住宅地、懐かしいウォーターランド、すれ違う阪急の平井車庫、幼少期を北摂で送った自分には懐かしい光景が窓を過ぎていく。
今までの自分、これから社会にもまれる自分、二つの姿を同時に見ているようで、ちょうど人生の境の位置に立っている17歳という年齢をモデル化したように思われて、なんだか重苦しく感じた。
人生は一度きりのもので短い、しかしながら(そうではないかもしれないが、)80年という年月が長いのも事実である。
丁度1/5ほどの部分に立っている今、その残り4/5を決めるべく駒をどう打つかに焦っているのだ。対戦相手は自分自身と運で全く読めない勝負だ。
主体的に動くにはまだ若い、目の前で事が進むのに身を任せて自分自身を脳みそが傍観していることが9割な事実がつい最近恐ろしくなってきた。
同年齢で世間で活躍する人もいるのが中々精神をゆさぶってくる。
しかし、自立することがもてはやされるように思われる現代の傾向にしても、周りの人間を見ても将来に対する漠然とした不安にせかされることもなく、何一つ焦っていない姿を見て自分がばかばかしく思われる部分もある。
ともかく列車は宝塚に到着、ちらほら客を減らしつつ、ここで少しづつ車内も田舎の雰囲気を帯びてきた。
宝塚を過ぎると生瀬、西宮名塩と徐々に緑が増えてくる。
山間の武田尾駅あたりで武庫川と線路はぶつかり、線路が負けたのか、列車はトンネルへ引っ込んでいった。
道場あたりからは田んぼも見え始め、列車もいよいよ山陰を目指すぞという気概があふれ始めた。
次の三田、そして新三田あたりで大阪駅で見た乗客はほとんどいなくなった。
と同時にセーラー服やジャージに身を包んだ高校生が乗り込んでくる。
列車はローカル線のあたたかな雰囲気に風変わりした。
霧がちなあたりの天気に負けず、車内から談笑の声が漏れているようで春が来たと肌で感じる。

📷:PENTAX K-7 🎛:SS1/500・f/3.5・ISO200・EV-1.3 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

鬱鬱としているようで、冷涼な空気が快適である。
向かいのシートやあちらこちらに掛ける同年代の人を見て、あぁ部活で登校かなどと思って去年の自分を思い出した。
もうすぐ新年度、今年一年は学ぶこと、苦しむこともたくさんだった。年末から不運続きだっただけにいい思い出も霞んで見える。心身ともにボロボロの中、来年度は良い一年になりますようにと願うばかりである。
さて、列車は相変わらず湿った空気の谷底平野を進んでいく。
少しばかり車内の部活で青春を送る同級生に少し嫉妬心を抱くが、冷涼な雰囲気も7時を回ってシッカリ出てきた日が中和してくれる。
あたたかな日差しの中を列車は進む。

📷:PENTAX K-7 🎛:SS1/5000・f/3.5・ISO200・EV-1.3 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

篠山口より先は単線区間になる。
列車は行き違いで長めに停車することも多くなり、一層のんびり山と山の間を進んでいく。
丹波大山あたり、川代渓谷の流れに乗るように線路が敷かれてある。

📷:PENTAX K-7 🎛:SS1/400・f/3.5・ISO200・EV-1.3 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

川の流れに背中を押されるように列車はぐんぐん進む(と言いたいところだが、丹波大山・谷川ともに列車交換でかなり待った)。
谷川駅で学生の乗り降りと駆け込み乗車(こんなローカル線にも!)を見送って、福知山への丹波路の終盤を駆け抜ける。
福知山は8時19分着、大阪から2時間24分の長距離鈍行であった。
次の電車まで30分ほど時間があったので、駅前を散歩して、お土産屋さんで山陰の方のちくわを買って食べた。

📷:PENTAX K-7 🎛:SS1/4000・f/3.5・ISO200・EV-1.3 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~ 福知山駅前のC12型。転車台と一緒に保存されててカッコヨイ ~


2.うたたね山陰本線

福知山から先、日本海に向けては遂に山陰本線だ。
京都から豊岡までは電化されていて、福知山からは一時間強電車に揺られてたどり着く。
余裕をもって列車に乗り込み窓際をきちんと確保できた。
列車は8時54分、福知山駅を出発だ。
しばらくは北近畿タンゴ鉄道の線路と並走するが、山陰本線の駅にはカウントされないので2駅上川口まで駅を通過する格好になる。
普通列車なのに駅に止まらないのは何だか不思議だなぁと思いながら上川口駅に停車した。
早速この駅で列車は行き違いをする。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/3200・f/3.5・ISO200・-1.3EV  🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:ART

緑色の古い電車が来たので、あっちの方が足元広いじゃんと若干悔しい思いをしながら列車は先に発車した。
にしても駅間距離が長い。
時刻表を見ても一駅5~7分あるように思われる。
川沿いの土手に近づいたり離れたり、ノンビリと海の方へと列車は進む。
まだかまだかとじれったく思われて、下夜久野駅に到着。
次の上夜久野駅もそうだが、夜久野という地名はどうも哀愁漂う寂しさだ。
以前ここを通ったときは夜で朧げに何だか狐のおりそうな恐ろしい地名のように思われたのを覚えているが、いざ昼に通ってみると何だか月を見ているようでずいぶん好い地名じゃないかと感じる。
平安時代には夜久郷という名前が残っているらしく、何だか長いこと夜の明けない不夜城のように思われたが外はお昼でピーカン照り、ずいぶん狐につままれたようにハッとしていると次の梁瀬駅に到着した。
この駅から先は兵庫県に入る。
和田山駅から先はちょうど一年ほど前に播但線からきていたので、お昼の姿も覚えている。
確か播但線で会ったおじいさん(曰く老春81きっぷユーザーらしい)と別れて、引き続き大学生のお兄さんと一緒に餘部まで行ったんだよなぁと思いだした。
このお兄さんは中々粋な人で、ライン交換して撮った写真を送った後に一期一会の考えでお互いブロックしようという妙案を持ちかけてきた。
中々衝撃的なアイデアで、旅の恥は掻き捨て、という古の旅のコツをいかにも具現化した行為だなぁと思う。
それが18きっぷの旅がイイなと思った理由でもあり、未だに自分の旅行観に深く根を張っているし、旅先でいろんな人と喋る原動力にもなっている。
列車は和田山を出て、相変わらず土手と出会って離れて今度は川を渡ったりしながら山並みの隙間で海を目指す。
朝の福知山線とは違って豊岡盆地がもう近いからか、とても晴れていて窓際はぽかぽかしている。
ぼんやりと江原駅、国府駅の駅名標は覚えているが、気づけば豊岡駅に停車していた。
豊岡には10時10分に停車した。
次のディーゼルカーは発車まで3分あるからそれほど急がなくてもいいのだが、18きっぷのシーズンなので席取りで沢山の人が駆け込む。
一人だったので悠々自適に窓際を抑えることができた。
列車は下流になってえらく太くなった円山川沿いを進んで海を目指す。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/8000・f/3.5・ISO200・-1.3EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5  🔬:ART

玄武洞駅を過ぎて、城崎温泉駅に止まると大半の人は下車して車内はまたがら空きになった。
竹野駅より先からはやっと海が顔を見せ始める。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/3200・f/3.5・ISO200・-1.3EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~車内の一部分写してちょっとでも旅行中の視点の再現を試みるんだけども、
これはもうちょっと外側の景色を真ん中に持ってくるべきだったよなぁと~

海が顔をのぞかせては山が横から顔をだし、そのいたちごっこを交わすように線路が伸びていく。
トンネルをくぐっては土手の上の山陰本線から集落越しを見下ろしつつ、少し離れたところには海、またトンネルを出ると川が一瞬線路をくぐって棚田のような谷地田が伸びていくのに手を振る。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/3200・f/3.5・ISO200・-1.3EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

ただ2両のディーゼルカーはゆったりとしたリズムを崩さずに、気づけば佐津、柴山を過ぎている。
香住でやっと二人客をおろして、駅を出た。
ボックスシートの前の家族はお孫さんと亀岡から米子まで18きっぷで旅の途中らしい。今日は米子で鬼太郎列車に乗るみたい。
自分の隣にかけていた人見知りらしいお孫さん、コナンが好きらしく、それで鳥取にとのことで、それにしてもたいそうな長旅だなぁと他人事でその距離に圧倒される。
おじいさんと鉄道の旅行のロマンを賛美して、このタラコ色の気動車がいいという話に感慨を覚えて、ハッと寝耳への水のような「次は鎧です…」のアナウンスが流れる。
海風に待ったをかけられたように、タラコ色のディーゼルカーは緩やかにブレーキをかけた。
11時4分、ついに一つ目の目的地、鎧駅に寂しく到着した。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/8000・f/3.5・ISO200・-1.3EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5  🔬:ART
~日本一の絶景駅とも名高い駅~


3.青が刺さって鎧集落

列車を降りる。
一人ぼっちと思っているともう一人先客がいた、ひとまず声はかけずに待合室の時刻表を確認した。
さて、この駅の2面2線から線路を剥がされて1面2線(!)になっている理由は、ほかでもなく絶景を望めるからである。
「絶景への地下道(ちかみち)」と言っている看板に従って、コンクリートの階段を下る。
地下の通路からは、壁に壁画が描いてあるのと白いコンクリートが何とも夏場の小学校のプールみを覚えて、どうも暦より早くに夏が覗いた。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/6400・f/3.5・ISO200・-1.3EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:確か鮮やかやったはず)

階段を上って出ると、広場が広がっていて、ベンチが並んでいた。
自分がもたもた時刻表を見ている間にもう一人の客は十分にスマホで写真を撮り終えたらしく、退屈そうに足をぶらつかせて散歩していた。
ベンチの前の柵のないところに立ってみると、どうも日本海に飛び込むような大迫力を覚えた。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/6400・f/3.5・ISO200・-1.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

入江の崖に這うように家が広がり、海岸沿いにコンクリートで港が出来上がっている、何とも箱庭的で壺を覗き込むような美しさがある。
家々の瓦の色や、青く照り映える海、無機質なコンクリートと何とも複雑に色が混じり合うのに、春の晴れた光の下で調和している。
波もあまり立たないのが穏やかで春なんだなぁと感じた。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28   🎛:SS1/2300・f/2.8・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D   🔬:CaptureOne
~坂道の入り口から見えた~

集落の方に向かうべく坂道を下っていく。
坂道はとりあえず集落と逆の向きに進んで、途中でヘアピンのように急に逆方向を向いて集落に進む。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/1250・f/2.8・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne
~ヘアピンの曲がるところで撮ったと思う~

勢い良く高度が下がるのに少々驚きつつ、集落に入っていった。
さっき見下ろしてた家々が急に目の前に現れたのであっけにとられた。
集落の中のメインロードのような道があったので、そこを下っていくと海岸沿いに出られた。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/4000・f/3.5・ISO200・-1.3EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

陸に上がった船などを見ていると集落のおばあさんがいたので愛想よく会釈して、目の前の小舟をとるなりしていた。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/5000・f/3.5・ISO200・-1.3EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

そうしてると、どんな入り方かは忘れたが、さっき会釈したおばあさんに喋りかけられた。
確か写真とりにきはったのと話しかけられて、ここの人もそんなやぁやぁいう人もおらんけぇ好きにとっていいとおっしゃってたな。
写真撮りに来たり、堤防で魚釣りに来る人は多いらしい。
後はシーグラス(おばあさんの言葉では、「セトモンやビンの割れてキラキラして綺麗のを家族連れがとりにくるけぇ」)取りによく家族連れがくるけども、海岸沿いなんかはゴミばっかり漂着して掃除せんといかんのでエラい海沿いも困りもんとか、横の船もだれのか知らんが放置してええ迷惑だとか、シーズンの時は家族で香住の方で釣り船やっとるとか色々話を聞かしてもらったなぁ。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/2500・f/3.5・ISO200 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

このワカメはちょっと港を出たら取れるらしい、集落の人でおすそ分けしあったりしてるので、貰ったのを使うらしい。
昔はパック詰めして香住の方に持ってったりしたが、足も悪いしもう自給自足的な活用が多いと。
で、塩干ししてるのは、このまま切って鍋で炒ってアメとゴマ絡めておやつにするらしい。腐らんし美味しいとのこと。
で、この船は自分ので、小屋にあるウィンチで港から引っ張って陸に上げるとのこと。小屋も何軒かあるらしくて、別な小屋のところで洗濯物取り込むの手伝ったりしながら色々話を聞かせてもらった。
この集落は全部海向きに窓があって、夏は涼しいし眺めもええ、あと夜は堤防の上で釣り人のライトがきらめいてるのが見える、知らんけどとのこと。(個人的には日本海側で「知らんけど」を聞けると思ってなかったので感動した。)
逆に風が強いし潮風なので小屋のシャッターも錆びて動かなんくなって、木の引き戸を付けなおしたり、家の窓も二階は殺してるなど苦労もうかがえた。
冬は雪が降ったり、あとハチ北でこっちのほうスキーとか来るという話をしたら、シーズンの時はいつも息子さんが使ってるハイエースとかがバス代わりでスキー場で活躍するらしく、中々驚いた。
あとは結構住民も高齢化していると思いきや、趣味もかねて釣りのためにここで暮らす人も多くて、最近引っ越してきた人も多いと聞いて驚いた。
1時間くらい喋っていたなぁ、おばあさんに教えてもらった綺麗に写真撮れる場所へと向かう。
小さいころは貝殻とかが流れるから取りにいったりしたらしい。
向いしなに別な漁師のおじさんに「そっち行くんけぇ、けがせんようにな」と力強い言葉をいただいて、洞門をくぐって磯浜をスニーカーで進んだ。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/3200・f/3.5・ISO200・-1.0EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~このまま写真の対岸側あたりまで歩いていきます…~
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/8000・f/3.5・ISO200・-1.0EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~わかりやすく円状の入江、ちょっと移動しても真ん中の灯台は見えたまま~
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/1600・f/3.5・ISO200・-1.0EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~鮮やかな海藻がめちゃめちゃエメラルドみたいでした~

どうやら滝があってすぐに海に流れ込む滝とは面白いのに全く名の知れない…ともったいない気持ちになった。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/250・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

もうすぐで上りのディーゼルカーか鎧駅に着くので、飛び石のような磯浜のゴツゴツを踏んで適当に撮れそうな部分を探した。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/720・f/2.8・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/2500・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

ここからもう少し港のうち側にカメラを向けると…

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/2000・f/3.5・ISO200・-1.0EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 
🔬:ART(フィルムシム:Fuji Velvia50)

目の前に舞台が広がって、コンサートホールにいるかのような迫力を覚える。
そして列車の音が響いてきた…

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/290・f/2.8・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne
~この写真逆光からエグい持ち上げ方したのでボロボロ~

ゴロゴロ言わせながら列車は駅を発って香住の方に向かっていった。
さて、もうあと15分でここから駅まで登っていかないといけない。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/5000・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

急ぎ足でコンクリートの道まで出て駅までの坂を駆け上がる。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/5000・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:PS express
~ここのヘアピンカーブの坂がしんどい~
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/1600・f/3.5・ISO200・-1.0EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~どこにピンと来てるんかピンとこんなぁ~

手に取るように集落の家々や景色が見えるのに、高度が上がっていって

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/2000・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

たちまち崖の上の駅に戻ってしまった。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/5000・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~私と一緒でぼっちの鳥さん、でも多分つがいなんだろうなぁ~

殺風景である。
枯れ木の混じる気がいかにも春の怠惰さを表している。
その一方で依然として白いコンクリートの待合室は怠惰に打ち勝つかのように年中無休と言っている。
つい15分前のディーゼルカーでやってきたという隣の夫婦連れと適当な話をして、またディーゼルカーがやってきた。
列車は12時38分、鎧駅をゆったり出発した。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/250・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne


4.あまるべ空中散歩

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/1250・f/2.8・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne

名残惜しいが乗ってしまったものは仕方あるまいと集落に心の中で手を振った。
次に向かうのは隣の餘部駅、たった一駅だが間には余部鉄橋が待ち構えていて普通の一駅分とは重みがまた異なっている。
そうこうしていると列車はトンネルに入った。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/30・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

トンネルを出ると、空中に出てよろけてしまう。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/2000・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/640・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

あっけにとられているうちに列車は餘部駅に停車した。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/2000・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:ART

ともかく時間がないので駅からすぐに目的の場所に向かうことにした。
今回の目的は鉄橋にあらず、御崎集落という集落が気になったのだ。
平家の落人伝説の伝わるこの集落は、断崖絶壁の海上にある。
2時間半の滞在でどこまで行けるか不安になったが、とりあえずは行けるところまで行こうと集落への道を上っていく。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/1600・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:ART

ひなびた漁村のこじんまりしたのをわき目にどんどん登る、なんせ時間が無いのだ。
大体駅から3.7kmあるのだ、往復だと7.4km。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/2000・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

たいそう不安になりながらとにかく山道を登る。
1、2台勢いよく下ってくる車とすれ違ったのも恐ろしい。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/1600・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne
~雲かトーンジャンプかわからん~

ただ右手に日本海が広がっているのが慰めだった。
何分くらい歩いただろうか、大きく曲がっているところから集落が覗いた。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/1150・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne
~空ギリギリ耐えてるけどハイライト落とし過ぎたかな…~

ははぁ、アレがかの…と恐れ多い一方で、もうコレで集落は望めたし、第一1時間ちょっとで7キロも歩くのは無理があると引き返すことにした。
集落を見るという目標だけでもまぁ、満足だなぁと。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/5000・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~ポジフィルムの似合う情景、メチャメチャすき~

妥協して帰ることにしたのでゆったりと歩いているつもりだが、どうも坂道が急なので急ぎ足になる。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/6400・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

君の応援を無碍にすることもないのだが…と相変わらず自分を眺めてる日本海にひとまず手を振って、道の駅あまるべに向かうことにした。
以前も食事をとったことがあって、おいしかった上に安かったのが思い浮かんで、まぁ米子までここから大体4時間くらい飯取れないもんなぁと思いながら何を食べようか迷う。
結局香住カニバーガーを食べた。
650円で香住ガニのほぐし身もどっさり載ってるし、パンも地元のベーカリーので凄い美味しかった。
さて、ここから手持ち無沙汰ですることもないので、まぁ鉄橋見物かぁと橋脚の写真を何枚か撮る。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/400・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/8000・f/3.5・ISO200・-2.3EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

別に橋脚ばっかり撮ってもと思わんでもないのだが、いかんせんコンクリートの、しかもまだ美しいコンクリートの橋を映したところでしょうがない、数枚写真を撮って、あぁ、この赤い鉄橋があらましかば…とやりようもない嫉妬を先人にぶつけた。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/320・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne

エレベーターを使って橋の上に行こうとしたら、何かの拍子でエレベーターに乗ったおじさんと会話が始まった。
おじさんは車で倉敷から来たらしい、倉敷は今月行きましたよ、神社で写真も撮ったりしました、素敵な出会いもあったし温かい街ですね、というと、その神社にもつながる中国地方と鍛冶の話を聞いた。
それで、おじさんは水島で鉄鋼会社で働いてるらしい。
鉄橋に関して鋼材の話を教えてくれた。
H鋼は昭和30年台になってできたから、この時代のはI字鋼を合わせて作ったんだろうねぇ、とか鉄道のレールの話も聞けたな。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/1800・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne
~途中で汽車が一本やってきた~

なんせ、鉄道ではレールの重さが肝心、災害のう回路もレールの重さで貨物列車が動けるかどうか決めるから重要なのだ、と言う。
一人称が僕であったり、何か優しい喋り口に心が安らぐが、一方ではきはきした言い方に鉄に対する誇り、社会のすべてを支える鉄を支えている矜持がはっきりと目に見えた。
自分の将来の話などをして励まされつつ、おじさんとは言ったが何と70なんぼというのを聞いて驚いた。
酒とたばこだけはダメだよ、リタイヤしたら昼間から酒飲むからそれですぐに死んじゃう…というのが健康の秘訣らしい。
気を付けて、をもらって別れて、そのまま15時発のディーゼルカーに乗って餘部駅を出る。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/3200・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)
~知らないおじさんの後ろ姿にバチピン決めてもうた~


5.夕暮れ山陰本線

存外に人を乗せた列車は15時に駅を出る手はずだが、どうも不慣れな客が多くて、整理券の使い方を知らずに車掌の手を煩わせている。
餘部を出ると、久谷駅に止まって浜坂駅に15分足らずで止まった。
このまま椅子に座れないと、鳥取までが面倒だなぁと思いながら横のホームのディーゼルカーに押されるようにして走ったのはイイものの、存外人が少なくて大して急ぐ必要もなかったなと少し馬鹿らしく思えた。
浜坂を15時18分に出て、そこからウトウトしていたな。
駅名も聞こえるし景色も見えるけど、頭が中々働かないまま列車が走る。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/3200・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:ART

東浜駅はあぁ、どこかで聞き覚えがと思ってシャッターを切った。
シャッターを切ったあと、海の近い駅だとどこかで見たような、と自ずとレリーズに伸びた指に感謝する。
窓枠の外から斜めに外を見ても、いかにも孤立感が深まっているようで少し悲しいものがある。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/2500・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:ART

浦富海岸の裏を列車は進む。
実は米子に用はあまりなくて、ここらの民宿に一泊して引き返そうかと計画まで考えていたのだが、色々あって取りやめた。
浦富海岸は小さいころにボーイスカウトの夏の合宿で訪れたことがある。
ビーチじゃなくて磯浜の方で遊んだな、小さい自分には岩肌が少々痛かった。
ただ夕暮れ、磯から引き返して民宿に戻る時の日暮らしの鳴き声と、かすみがかったやぶの木漏れ日がいまだに記憶に残って美しい。
こんなLEDに目が慣れたいまの自分ではもう見えることのない景色なんだなぁと苦しめられるが、一方でその再現のために古いカメラに寄っていってるのかもしれないと、写真を趣味にした理由を再確認する。
第一 過去にすがっても仕方ないのだ。
懐古はあまりものを産まない。
しかし、今の時代が嫌になって、あくせくした令和の時代から逃れたくて、ひたすらに過去を見たくなる自分を少し許してやりたいように思う。
現実逃避には二種類あって、ファンタジーに逃げるのと過去に逃げるのがあると思う。
未来に逃げるのが無いのは、現実逃避するような人間は未来に希望を抱いていないからか。
ファンタジーの世界から物が生まれることはあっても、まぁ過去の自分から得られるものは少ないと思う。
後悔の多い人生ではあるが、どうもやり直して今の年齢まで時間を積もらせていく労力を考えると余りあの時に戻りたい…とは思わない。
だからどちらかというと死んで全て終わらせる方がローコストではあるよなと考えている、別に死にたいわけではないけど。
そこからは寝ていたのか記憶があまりない。
岩美あたりで妙に派手な3人若い女の人が乗ってきて、眠たかったのでいつもの通学列車かと思って驚いたことくらいしか覚えていない。
気が付くともう16時10分くらいで鳥取駅が見えていた。
鳥取駅に着いたら4両編成のキハ40が待っていた。
10分後の16時20分発だったので、まぁいうほど焦らずに列車に乗り込んだ。
確か前の席に何かの競馬新聞が置かれていて、まさか自分が捨てたとは思われるまいと思ってボックス席に一人腰かけた。
都会の駅ならまぁ席代がてら駅のゴミ箱にほうりこむなりしてやったが、あまりローカル線でそんなことしても目立って嫌だなと思ってそのままにしておいた。
言うてる間にそれなりに人が乗ってきて、大体車内を見渡しても1つのボックスに2人詰めか3人詰めのところが多かった。
相変わらず一人分を競馬新聞が占領していて、自分の箱には一人も客は乗ってこなかった。
向いの箱のおばさんが柄にあわないコナンのランチバックを持っているのをみて、そういえば昼の家族は米子に無事についたかしら、思った以上にコナンにゆかりがあるお国柄なんだな、とふと思い出した。
自分は小さいころからアニメも漫画もゲームも禁止されていたから、大体あまり二次元の世界には興味が無かった。
かといって小説も全く読まないから、どちらかというと架空の世界を信用していないのかもしれない。
架空の世界は3次元から触れることはできずに安定している。
本やらアニメやらは恐ろしい、ただインクやら、もしくは液晶のドットやらは初めから固定されているはずなのに、人の手によって動いて一つの世界を成立させてしまっている。
そして世界が生まれた後に変形することはない。
どうも一度心を惹かれれば、メドューサのように石にされてしまう気がする。
もしくは世界に閉じ込められるかもしれない。
しかし、それで言うと、写真においてこの感情を抱かないのはどうも筋が通らない。
人間がシャッターを切ったとたんに、その世界はレンズを通してフィルムや、あるいは0と1の連続に閉じ込められてしまう。
閉じ込められた世界ももちろん固定される(と言いたいが、近年の写りこんだ人やらをAIで消す世の中では…)。
よくよく考えたら、私は絵は描けないし小説も書けないが、シャッターボタンを押すくらいのことはできるというのが答えだ。
人間は結局世界には支配されたくないが、世界を支配はしたいのだ。
シャッターを刻むごとに何かしらの世界を支配して、見返して優越に浸る。
写真を撮ることを目的として撮ったわけではない写真は、ある意味見返す際に自分の感情を思い出させる鍵の役割をしているように思えるが、趣味として写真を挙げた人間が撮った写真なら、それは鍵としての役割以上に収集する部分の役割が重いように思う。
物欲然り収集欲というのも、理性的・知的に見えて、案外羊の皮をかぶっただけの肉食獣なのかもしれない。
我々は他者に頼らないと生きていけないが、他者に左右される不安定さを自分が優位に立つことで解消しているのではないだろうか。
自給自足から世界は物流や情報通信の発達を得て、より進んだ専業化が連鎖することで成り立つ、他者に頼りっきりの世界に進歩している。
近年の所謂 承認欲求などもこういった部分に共通の恐れをなしているから令和という時代の上に浮かび上がってきたのではないだろうか。
仏教でよく言われる、色即是空 ー世の中のすべては無である・諸行無常という考えを大事にしたいものである、だって人間は人間同士でできた網の網目に過ぎないし、いつ破れるか以上に伝線するかはわからないもの。
こだわりを捨てる・執着しない他ないのだ。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/800・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne
~運転士さんの顔はモザイクかけてます~

大体20分くらいで宝木という駅で行き違いがあったのだが、まぁ4両も気動車が連なる光景も中々見れるものでもないな、といったん列車から出て写真を撮っておいた。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28  🎛:SS1/720・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D  🔬:CaptureOne

4両は長いなぁと思ったが、それ以上に残り2時間この列車に揺られることの方が途方もなく感じられた。
引き返すのも面倒だったので、意外とすいていた先頭車のボックスシートに腰掛けた。
このあたりになってくると人が乗ってくるのも少なくて、まぁ米子までは快適に移動できそうなと安心した。
連結部分の方のドアを開けて列車に乗り込むが、ゴミ箱があって、あぁ、さっきの競馬新聞も捨ててやればよかったものをと少し、偽善的な心ではあるが後悔した。
自分の善行をしたいという欲求は、必ずどこかで帰ってくるからという希望的観測から生まれているような気がする。
もちろん直接人にいい事をする分には、そもそもの慈愛的な部分とその人の笑顔と感謝からくると思うのだが、ただその場にいる人のためでもない善行は、周りの人から良い人として見られたいという欲求よりも、情けは人の為ならずという部分から行っているように感じる。
その割にはツイてないことの方が多いので、やはり神もいないのかと思いながら、善行を以てしてもツイてない理由を探して自分のやらかしを当てもなくほじくり返して後悔する。
昔から自分に自信が無いのも、こういう部分からきている気がする。
列車は確かスーパーはくとに追い越されて出発した。
確かにスーパーはくとは倉吉に止まったなぁと2年前の旅行を思い出した。
普段別に極端に喋るわけでもないが、鉄道旅行が好きなのが共通点だけの同級生3人で、大阪→岡山→出雲→玉造温泉→鳥取→大阪の順で日帰り旅行した。
特急使いまくりで後々見返したら結構な額(当時は切符の101キロ以上途中下車可能も知らなかった)になってて、その反省で18きっぷの旅行を始めた面もあったわけだが、2年経つのは思った以上に遅い。
普段は時の流れが早く感じるのに反して、総じて見たときの2年というのは長く感じられた。
2年間色々なことがあって、まぁ高校生らしくありたかったが、実態としては中途半端で何も手についていない。
結局青春を謳歌する高校生にもなれず、かといって若いのに活躍している人にもなれず、よくわからないまま高校生活終盤を迎えている。
SNSなんかを見ていると自分より凄いばかりだし、まぁ周りを見るとキチンと学生生活を楽しんでいる。
まぁ一緒に旅行した二人は相も変わらず…といった感じだから何も言えないが…。
自分は自分である程度趣味を楽しめたし、と思うときも無いでもないが、隣の芝は青く見えるし、自分にそもそも自信が無いからこんな人生のやり方でいいのだろうかと不安になる。そして後悔が溢れてくる…。
何者かになりたい欲求とかよりも、純粋にこれでいいのか、という疑問が大きい。
そんなことを考えているが、列車は進んでいく。
海寄りの内陸部を進む、ちょうど心の目では海が見えているのに、海は目に映らない。
草地を進む、草地の横には木々が生い茂っているが、遠くには山もなくただ空が広がっている。そのただ広がっている空と少し湿った空気が海の存在を予感させる。
何となく西日の気配もする白い日光に、これで夜も近づいたという感じがした。
真昼間の、特に2月や3月の日光は、ちょうど藍白という色のような感じがする。青というほどでもないが、青みと温かみが共存するような。
一方で3時を過ぎると少しクリーム色がかったような、それでも白の範囲の色になる。
で4時、5時になると片方は青み、片方は黄色みがかった夕暮れの香りを醸し出す。
列車は夕暮れの香りを汲んでか、相変わらずのびやかに進んでいく。
4両という、単線には壮大すぎる空間が、より時の流れを緩やかにさせた。
列車はどこかで聞き覚えのある泊駅に止まる。
今年の元日に富山の泊駅に行ったので、ここにきてなるほど、とわけもなく腑に落ちた感覚がある。
列車は遠目に海が見えていたりしたが、ここで内陸に引っ込んでしまった。
内陸に入ると集落が目に入るようになったが、どれもこれも瓦が赤くて、なるほど石州瓦かと異国情緒を覚えた。
鳥取というのは大阪から難しい場所にある。
特急で4時間と中々遠いが、なかなか近いもののように思える。
実際小さいころから何度も行っているので関西人にはなじみがあるんではなかろうか。
大阪から大体今で12時間くらいと思うと、なんだかここに普通列車だけで来たというだけでえらく達成感と異国情緒があるなぁ、この途方もない雰囲気の中に一生もまれていたいというフワフワした感覚を覚えた。
列車は倉吉駅に止まった。
特急の止まる駅というだけでターミナル駅のような印象を抱くが、なるほど普通の駅のようで安心した。
列車はほんの少しだけ客を乗せて駅を出る。
余り外を見ていても退屈してきたので車内に目をやると蛾がのたうち回っている。
通路挟んで向かいのボックスシートには客がいなかったが、斜め後ろのボックスの客が迷惑そうに蛾を見ていた。
車内の蛍光灯に向かうでもなければ、おそらくこの米子までの間に死ぬのかもしれない…。
窓から出ればせめて大地に還れるものを、どうせ清掃でゴミとして埋葬されるのかもしれない。
大地に還れるというのは誰かのために死ねるということだ。
分解されて路傍の花にでも化けれたかもしれない。
自分は最近生きる意味が分からなくなっている。
彼女もいなければ特に親友と言える存在もおらず、他人のために生きるという選択肢が現時点では無い。
文化を紡ぐだとか、そういう人間根本を推進するために生きるというのも、どうも地球は1000億年もたてば爆発しているだろうと思われるとやる気が失せた。
惰性で毎日をつないでいる。
SF小説じみた話なんかでも、人間は80年生きるが、仮に不老不死だとしても途中で嫌になって自殺するだろうという意見をよく見る。
天国という事実上の不老不死というものは本当に実在するんだろうか、80年という節目が人にとってちょうどいいというのであればどうも存在しないような気がしてきた。
80年経ったらブチっと眠るときみたいに意識がなくなる。
想像するにも恐ろしいが、確かに人というのは生きているときはタンパク質で死んだらカルシウムになるだけであるのはれっきとした事実。
結局皆無機物の置物になるのには抗えない。
しかし逆に言えば、死ぬ間際に一生に満足が行ってれば全て良しなのかもしれない。
人には文化というものがあるが、虫や動物にはそれはない。
子孫を残すのが一生で、非常に機械的なようにも見える。
全ての生物は長いDNAの1ピースとして一生を終えるのだ。
人間だけが文化の1ピースとして名を残す可能性を秘めている。
今死に際の彼はどんな気持ちで床を跳ねているのか、彼はその一生に満足しているのだろうか。
中々通路を往復するので気が遠くなる。
多分時計からしたら3分も足らないんだろうが、その時の人間からすれば永遠に近いものに感じられた。
相変わらず往復していた彼は、ついに行ったっきり帰ってこなくなった。
向こう側のボックスの窓を見る、カーテンがかかっている。
名もなき彼はこの列車を墓場にして、私に看取られたんだと思われた。
自分は彼の死に際しか見れなかった。
黄緑い蛍光灯の光に反してただ白く、床を乱して彼自身のただ生気によってのみ叩きつけられていた姿がまぶたから離れない。
自分からは見えない彼の死体を撫でるように、生温い海風がカーテンの隙間、空いている窓から流れ込んできた。
向かい側の窓には遠く平らに続く田んぼ越しに海が見えていた。
そこからぼーっとただ見えてきた大山を眺めていた。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/3200・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:Art

彼の死を弔うように虹が差していた。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28   🎛:SS1/900・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D   🔬:CaptureOne
~窓のサッシを映しこむのが好きなんです~

列車は由良駅、浦安駅と来て赤碕駅を出た。
山側ばかり見ていて気付かなかったが、海側ではいよいよ海に近づいていた。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28   🎛:SS1/100・f/3.2・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D   🔬:CaptureOne

割とすぐに海はまた引っ込んでいった。
窓を見ていると砂地の傾斜した畑がよく見られる、ラッキョウ畑なのかなと思いながらボーっとしている。
海をよく見ようと思って斜めの席に移動したら、振り向きがしらに大山が絵画のように思えた。
海の方ばかりに気を取られていたので棚ぼただった。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28   🎛:SS1/2300・f/2.8・ISO50
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D   🔬:CaptureOne
~「列車の窓は額縁」~

海に山に存分に美しい鳥取の景色を楽しんだ。
列車というのは美術館のように、窓という額縁を通して東西南北の様々な景色を一挙に見ることができる。
在来線の旅の旨みというのはここにある。
防音壁も大抵ないし、新幹線のように額縁も無機質で小さいただの枠ではない。
観光列車のいかにも豪華な額縁も良ければ、普通の列車の質素な額縁も景色が引き立って良い。
ボックスシートというのは、クロスシートと違って窓を見ても視界が邪魔されないから一番鑑賞に向いているのだろう…。
親不知と言い、ずいぶん短い間に色々な名画を鑑賞したなぁと先シーズン・今シーズンの18きっぷ旅を思い出した。
外はずいぶん白けだしていている。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/40・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:Art

確か御来屋あたりまでは強いて耐えていたが、そこからしっかり寝てしまった。
大山を見やりながらぼーっとしているのがどうもフワフワして心地が良かったのだ。
結局起きたのは確か伯耆大山につくちょっと前だった。
急に終点の米子が目前に見えてきたので少々たじろいだ。
伯耆大山で久しぶりに黄色い電車を見て、何か現に戻った気がした。
電化されているというのは、ディーゼルカーがひとりフラフラ当てもなくさまよっているような感じがするのと異なって、確かに町と線路がつながっているような感じがする。
もうずいぶん暗くて夜になっていたから余計安堵の感じが深まった。
そこから東山公園でやけにうるさい地元のイケイケの集団を乗せて、時間通りに18時42分に米子についた。
米子駅の駅名標が見えるやいなや涙がこぼれそうになった。
丁度、昼から夜に代わる時間を2時間半走ってきたわけだが、普通の2時間半とはわけが違ってえらく長く感じた。
迷宮のような感じがするが、焦燥感や嫌な感じ、徒然な感じもない。
まぁ愉しくというか、趣を味わったわけだが、それでも旅につけての不安感というのは払拭しきれないらしい。
安堵からの涙である。


6.夜行列車は暗闇を裂いて

わざわざ観光するでもなく米子に来たのはそれはそれで目的があった。
サンライズ出雲に乗るにはこの駅がちょうどよかったのだ。
サンライズは19時53分発なので、大体一時間くらいある。
シャワーはどうせ使えないだろうから、駅から5分の銭湯・米子湯に向かうことにした。
番頭さんが若くて気さくな人だった。
学生料金で250円、安い!
ぎっくり腰で辛そうにしてはったので、お大事に…。
大阪にいると銭湯というのは慣れ親しんだものだが、中々新しい内装とポップな壁の絵が新鮮だった。
湯加減もちょうどよかった。
2,30分くらい十二分に浸かれた。
入れ違いでちょうど風呂から上がったときに入ってきた子連れの人も大阪から来たらしくてこれまた…と少しほっとする。
少し余裕をもって駅に向かった。
今日の晩御飯はせっかくだし駅弁・吾左衛門弁当を食べようかと売店を見たが、残念なことに売り切れていた。
吾左衛門弁当は吾左衛門寿司が2切れと大山おこわやらが入っていて、まぁいいとこどりだし手も汚れんしいいなぁと思っていたのだが…。
第二候補の5切れ入りの鯖の吾左衛門寿司も売り切れていた。
仕方ないので、だいぶ値段は高いが吾左衛門寿司の境港銀鮭を買って、あとはちくわとかジュースも買って改札を通った。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/30・f/3.5・ISO800・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

高揚感と言い、今夜は眠れなさそうだ。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/10・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

昔から雑誌でも見たし、4歳か3歳ごろ、米子に行ったときの記憶にも残っている階段のねずみ男の絵、これを普通列車で来て見た感慨もひとしおである。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/4・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

昼間米子に行くと言っていた家族はどうしているんだろうか、というより夜行列車に乗る心の高まりか、きっと楽しくしているだろうと決めつけてしまう。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/5・f/3.5・ISO200・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

東京行きという果てしない行先は、小さいころ大阪駅で見た、札幌行きなどの長距離列車の香りをただ一人だけ纏っていた。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/40・f/3.5・ISO800・-0.7EV  🔭:smc PENTAX 28mm f3.5  🔬:ART

ドとレの低音高音が交互に鳴るチャイムが流れて列車は滑り込んできた。
11時間の長い夜の始まりだ…。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/50・f/3.5・ISO800・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサルフィルム)

乗り込んで自分の寝台に向かった。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/13・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:不明)
~おじゃましまーす~
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/13・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:不明)
~ホテルのエレベーターのドアが開いて部屋の階に着いたときの感じ~

ノビノビ座席なので、まぁカーペットが一畳用意されているだけなんだが…。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/13・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:ART
~吾左衛門寿司の紙袋、お土産袋も旅のいいアクセサリ~

隣は大体自分より少し上くらいの家族連れ、逆側は小学生と思しきスポーツクラブの集団だった。
家族連れのお父さん曰く、自分の乗ってる席は一駅前の宍道駅まで別な客が出雲市からたった1区間だけ部分利用していたらしい(!)。
やけにシーツやらにも触らないし、他人行儀なので怪訝に思っていたらなるほど、とおっしゃった。
どうしても乗りたい人もいるもんですねという話をして、人の良さそうな方で安心した。
とりあえず荷物の盗難もまぁ上下左右あまり心配せんで良さそうだから、身軽になってラウンジで晩飯にすることにした。
まぁこんなこと言ってると盗られそうで嫌だが。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/40・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:Art
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/30・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:Art

こう細い通路をそろり通っていくのが夜行列車という感じがする。
飛行機やバスと違って部屋然として閉鎖的、でも船と違って狭苦しい。
これは朝の電車で缶詰になるのとはまた違った密閉感がする。
ラウンジに行くと鉄道少年が数人集まっていた。
鉄道研究部の合宿ということでみんなで来ているらしい、なるほどなぁと思う。
寿司なので少々匂いがキツイかなと不安だったが、全然匂わなかったのが意外だった。
駅弁ということできちんと考えてあるんだろう。
鮭もずいぶん味が濃くておいしかったなぁ。
鱒ずしとかそういう系統の旨味になるのだが、富山で食べた鱒ずしとは違って酢があまり強くないので自分の好みだった。
流石の値段なりに肉厚だからずいぶん噛みしめて美味しかった。
ともなくゾロゾロ中学生の集団がやってきた。
鉄道談義してらっしゃったが、横のお父さんと一緒の小さい子はウェストエクスプレス銀河にも乗ったことがあるらしくて少しうらやましかった。
国鉄色やくもと行き違うようなので、カメラで車内からとっておきの一枚を…と思ったが、食べ終わらずに逃がしてしまった。
流石にカメラがお酢臭くなるのは避けたかった。
シャワーの順番待ちでラウンジの中学生の数が増えたのでずらかることにする。
大体生山あたりで自分の畳に戻った。
そこからゴロゴロ窓の外を見ていた。
伯備線を乗りとおすと考えれば岡山までもすでにかなりの距離がある。
列車は川面の暗黒の先のトラックと追いかけっこしながら谷を進んでいく。
根雨駅に止まったりして、備中高梁についた。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28   🎛:SS1/2・f/3.2・ISO400
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D   🔬:CaptureOne
~さすがに手振れまで愛するのはむずい~

たまたま横にウェストエクスプレス銀河が止まっていたので撮っておいた。
夜行列車同士のすれ違いというのも、近頃ではもう見れるもんじゃあないだろう。
こういう小さいころには何かしら、強いて漢字を読み解いていた雑誌なんかや、たまにテレビで流れるところを見た風景が、今になってみれば消えていくのが腹だたしい。
憧憬だけ与えておいて叶わずじまいというのは何とも酷いのではないかと誰かに当たりたいが、その誰かというのは誰でもない時間である。
ここ10年20年で時代は大きく進んだが、それが持ち込んだものもあればそぎ落としたものもあった。
社会は効率を選んだ。
結果として採算に合わない夜行列車の類は消滅したし、採算の取れないローカル線も廃止された。
その一方で効率のためにインターネットは著しく発展した。
効率化された世間話システムのツイッター然り…井戸端は拡張されて、井の中の蛙が大海を知るにまでなった。
少子化の影響もあるだろう、輝かしかった日本・効率化が進む前の日本を知る世代の交代が進むのも今の令和の時代が最後だ。
コンパクトシティ化も進められようとする今の風潮では余りにも伝統という糸は細い。
私はその糸の根本を手繰るべく大学で文化地理学を研究したい。
そのためにはキチンと学びたいことを学べるような大学で…そのためには入試をパスして…頭が痛くなってきた。
冬に美袋までは行ったことがあったので、予想通りすぐに倉敷に到着してあっけなく列車は伯備線を走りとおした。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/40・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:Art
~こう、上段からの眺めは普段身長低い自分からすると巨人の感じさえする~

勿論倉敷から岡山にもすぐだった。
岡山では瀬戸号の方を併結する大イベントがあるのだが、面倒というか大して面白くもないのに混雑するので一人この一畳に籠っておくことにした。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/25・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:不明)
~ターミナル駅で却って涼しいこの寂しさが夜行に似合う~

新幹線の案内が目に見えたのに優越感を感じる。
ある種、逆な時間的アドバンテージをサンライズ含め在来線は持っているのだ。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/160・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:ART
~窓はピッカピカではないけど、ブラックミストみたいなハイライトにじみが出ていい🦆~
📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/25・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:Art
~寝台車の中から列車を眺めるのがどうも憧憬の景色に似てロマンのある~

さて、列車は岡山駅を出た。
次は姫路だな、姫路までの山陽本線は一通り山の中だから、まぁ姫路より先の太平洋沿いの区間で海と夜景を楽しみたいもの…と一眠りすることにする。
とりあえず窓のカーテンをおろすが、なんだか勿体なく思われて開けっ放しにしていたが、列車が駅を通過するたびにホームの明かりがまぶしく思われて結局カーテンを閉じてしまった。
大誤算で、結局大阪駅を過ぎて、東淀川駅を過ぎたところでやっと起きた。
はじめ青と白の看板に東という字だけが見えて、はて、これは東草津(寝起きで南草津駅からありもしない駅を作り出した)…しまったとたいそう焦ったが、吹田の駅が見えたので何とか落ち着きを取り戻した。
尤も、大阪住みの私としては普段東京行きに使ったこともあるこの区間で起きても感動というものが…と大変歯がゆい思いになったが、恨むべきは自分であるし、その自分でさえ今日一日の18きっぷの苦行を鑑みるに仕方がなく思われた。
夜は12時をとうに回ってシャッターを切るのも憚られる。
というか夜中はダウンジャケットにくるまって写真を撮るのだ。
試してみたが殆ど音も聞こえない。
ラウンジに行くのも億劫に思ったので進行方向に頭を向けて三角座り、車窓を横目に見ることにした。
名古屋あたりまではそれなりに興味があるので眺めて、名古屋に着いたら静岡あたりまで寝ようかなどと思った。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/6・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:不明)

列車は時折貨物列車とすれ違いながら一人夜を駆け抜ける。
こうしてみると夜って長いんだなぁ、人の一生ともなれば…と気が遠くなる。
ボーっとしてるのがさみしい。
ここで目を閉じると意識が飛んで眠りに落ちるわけだが、実際人間が死ぬときもフッと意識が飛んで睡眠中みたいに何もなくなってしまうのだろうか。
そんなことを考えてると生きる意味をかなり失うので、考えないようにする。
にしても孤独だ。
人間が孤独を感じるときは、一人でいるときではなく、周りに人がいるのに実際一人であるときだと思う。
孤独を作るのは、その周りに人がいて自分自身はがらんとしてる、密と疎のコントラストなのだ。
寂しい夜に物思いに耽ることが美味しく感じられる年齢ではまだない…。
夜景にアルコールが似合うように、まだ自分に寂しさを以てして酔うというのにはもう少し時間がかかるのかもしれない。
そんなことを考えながら目をパッと閉じてみた。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/60・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5 🔬:Art

何故かアラームなしに毎度静岡あたりでパッと起きることができる。
今回も起きることができた、4時40分、ちょうど朝と夜の境目のように感じる。
静岡から先は海沿いも通るので寝ぼけ頭で景色を眺める。
東海道本線というのは、東海道メガロポリスというぐらいの人口地帯だからドコもカシコも人がいて何というか面白くない。
山陰やら北陸やらの道や、山陽などはどれも鄙びたところと都びたところがいいバランスでまじりあっているのが面白いというか、いかにも旅情にあふれる。
東海道本線というのはどこまで行っても通勤路線が続くというか、何とも趣が無い。
妙に長い静岡県も、中々縁がない大阪からすれば結局静岡でひとくくりの認識だから、イライラさせられる。
直線距離で測ってみても、静岡の東端から西端は大阪の能勢から岬の2倍弱もある。
熱海と浜松が一緒の県というのは中々納得がいかない。
この横長い国に辟易とさせられながら、少しづつ空は明るさを得ている。
だいたい5時過ぎの空気というのも何か余り知らないものがある。
東田子の浦の駅名標がハッキリ見えたので、あぁ、目が覚めて、頭も覚めたとシャキッとする。寝足りない気もするけど今更寝れない。
仕方ないので窓を見ながらボーっとする。
通路側はカーテンがかかってて富士山は見えなかった。
沼津に列車はついても、余り変化はなかった。
そのまま平然と熱海に着くのがあっけなかった。
丹那トンネルだって、案外長いように見えてすぐなのが、何とも東京の淡泊な感じを帯びたようにさえ感じた。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28   🎛:SS1/140・f/3.2・ISO400
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D   🔬:CaptureOne
~薄明の熱海を駆ける。左の黒は部屋の窓~

時刻はまだ5時45分ごろなのにも関わらず、周りの客は皆日の出を拝むためか起きていた。
自分もダウンジャケットにカメラを包むので画角はメチャメチャだったが、薄闇の町が写せてよかった。
小田原とか国府津あたりでちょうど朝焼けの海を見ることができた。

📷:PENTAX K-7  🎛:SS1/250・f/3.5・ISO1600・-0.7EV 🔭:smc PENTAX 28mm f3.5
🔬:撮って出し(CI:リバーサル・WB:CTE)
~架線柱写りこんだけどコレはコレで鉄道風景の一枚っぽくて良いかも~

さて、そこから先はまさに近郊路線、スーツで埋め尽くされたホームを後目に少し背徳感があったが、一方で見知らぬ街のただの通勤風景を見せられているようで退屈してしまった。
下車まで一時間を切ったのもあって名残惜しさが勝ち、自然と車内の方に目を向け始める。
平塚やら茅ヶ崎やら聞き覚えだけある駅を通過していく。
普段大阪にいると、茅ヶ崎なんかも東京の一部と誤認している節がある。
案外遠いんだ…と少々意外にも思えるが、まぁ大体30分もすれば横浜についた。
横浜というのは何だか妙な場所にあるなぁ、首都の東京の横でも人口2位で大都市なんだから、関東というのは恐ろしいし一極集中というか、何だか息苦しくないのかなと思う。
横浜が6時43分だから、もう東京まであと25分なのだ。
最後の最後で寂しくなった気もして、何枚か写真を撮った。

📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28   🎛:SS1/125・f/3.2・ISO400
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D   🔬:CaptureOne
📷:PHASEONE 645AF + Mamiya DM28   🎛:SS1/800・f/3.2・ISO400
🔭:Mamiya Sekor AF 80mm D   🔬:CaptureOne

橋を渡る時に河川敷の公園でサンライズに手を振っている人がいたので振替しておいた。それくらいしか覚えていない。
ただ人の生活が網目のように組み合わさって社会になっているんだな、と思わせられた沿線景色だが、一方で壮大な東京大都市圏に人一人の大きさが大変小さく見えて、少し寂しかった。
東京はネオンとガラスの町というよりも、何だか乾いた砂漠のような感じだと思う。
結局特に考えることもなしに、定刻通り7時8分に東京駅に着いた。
意外とあっけないというよりも、普段見ないような通勤電車と行き違い始めたのが、また知らない世界に落ちてきたような感じがして、たった25分も驚きで殆どしめられていたから。
山陰から東京までの長い道のりに達成感が出たというよりは、この一畳に一晩隔絶された後急に放り出されたのにポカンとしていた。 
              ー終ー

📑:編集後記
旅行が長かったのもあるし、今までになく割とスケジュール建てしていたので却って事実性を考えるのに時間がかかって、ひと月くらいたってからの公開になった。
旅行記書き始めてから一番長い文章になったのと、noteで書くということもあったのでカメラ周りの設定とかレンズとかいちいち書いてると時間がかかって仕方がない…。
ただ実戦配備初のK2835は凄くいいレンズだし、ボディのK-7も撮って出しで凄いイイ写真を出してくれるので、ツイッターで教えていただいて購入してよかったと思っている。
東京駅に着いてからは横川まで普通列車で行って、最終的に軽井沢まで行って帰ってきたのだが、その旅行記もまた公開するつもり…。

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