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デザインチームの情報交換会でHMDとVRについて考えてみた

シフカのデザイナーたちのチーム、通称「デザインチーム」では定期的に情報交換会を開催しています。そこでは最新のニュースや各自が興味を持っている分野の情報を共有し、キャッチアップとコミュニケーションを兼ねて気づいたことなどをざっくばらんに語っています。

今回の情報交換会では、参加しているデザイナーのうち二人が「Meta Quest 3」(以下Quest 3)を購入したということで、その話題で盛り上がっていました。そんな情報交換会でのやり取りを覗いてみましょう。


Quest 3とは

「Quest 3」はMeta(旧Facebook)が2023年10月10日に発売した最新のヘッドマウンドディスプレイ(以下HMD)です。MetaはこれまでもHMDを発売しており、Quest 3は2020年に発売されたQuest 2に続く三代目モデルとなります。

Quest 3では目の前に配置されたディスプレイ解像度が4128×2208pxといわゆる4K(3840×2160px)を超える高画質となり、周囲の風景をレンズ越しに表示するパススルー性能もQuest 2に比べて大幅に向上しているそうです。

そんな最新のHMDについて参加フタッフの興味が集中し、その使い勝手からVRを取り巻く現在の状況、そしてVRがもたらす未来とその影響にまで話が広がりました。


Quest 3の使い勝手

最初に気になるのは、やはりQuest 3の使い勝手です。Quest 3を紹介する記事では、非常に軽くて装着しやすく、別途のヘッドホンも不要なので耳への圧迫感もないといった話が多く出ていました。

これについてQuest 3を購入したスタッフの一人からは、確かに装着しやすいものの、メガネをかけたままでの使用は厳しいとのコメントが。装着時にゴーグル部分の位置を調整することは可能とはいえ、それでもメガネの形状によってはゴーグルと接触してしまうため、鼻やこめかみなどに不要なテンションが掛かるそうです。

長時間使うものなので、軽い度合いでも身体的なストレスがあるとコンテンツに没入できず気持ちが萎えてしまうとのこと。Amazonのレビューでもメガネをかけての着用がQuest 2以上にきついとの意見がありました。そのスタッフはオプションの視力矯正用レンズを装着すれば改善される可能性があるので購入を検討しているとのことです。

実際に使った感想としては、HMDとしてしっかり作り込まれており「ちゃんとMRになった」という印象を持ったそうです。これは購入した二人とも同意見でした。

例を挙げると、部屋の中でVRコンテンツを楽しむためには利用者が安全に動ける範囲を事前に測定し、そこから利用者が逸脱しないように制御する「ガーディアン」を設定するのですが、Quest 3ではそのガーディアンから抜けそうになると、コンテンツと入れ替わるように「リアルがスーッと見えてくる」そうです。急に壁が出現するのではなく自然に現れるその見せ方、アラートの出し方が非常にうまいと感じたのでした。

売りとなっているパススルーについては、部屋を見回す分には気にならないものの、モニタなどの文字を読むにはまだ画質不足だそうです。以前よりは良くなっているとは言え、シームレスが実用レベルとなるには更なる画質改善が必要との評価でした。

コントローラーを使わなくても手のジェスチャーで操作できるのは便利との意見も。ただし最初はうまく行かないことも多く、ある程度の慣れが必要だったとのこと。上手く使いこなしている人の中には、空中に浮かせた動画を鑑賞しながら炊事をするという人もいるそうです。たしかにそんな場面ならジェスチャー操作は有用ですね。

一方、Netflixにログインする際に表示されているQRコードを読み取るよう指示され、HMDでは対応のしようがなくて困惑するという場面もあったそうで、まだサービス側の対応が追いついていない面もあるのかもしれません。


HMDでのゲーム

やっぱり気になるゲームはどうでしょうか。Quest 3付属のゲーム「First Encounters」は良くできていたそうです。

そのスタッフ曰く「カラフルなマックロクロスケみたいなキャラ」がテーブルの裏に隠れるなど、しっかりオクルージョンできていたとのこと。オクルージョンが少しズレてしまう時もありますが、それも動いていれば気にならないレベルだったそうです。

HMDでのゲームはどうしても一人称視点のものが多くなりがちなので、それをどう打開するかが今後の発展に影響しそうとの意見も出ました。

また、MRを活かしたリアル世界との融合もポイントになりそうです。例えば箱庭系のゲームは面白そうですね。リビングの床に街を作ってシムシティみたいに遊べたら楽しいはずです。遊戯王みたいなカードゲームも手元のカードから派手なエフェクトとともにキャラを召喚できれば大興奮でしょう。もうあるのでしょうか。

MRを活かしたボードゲームは既にあるそうです。

ただ、家族や友達とゲームで対戦しても、相手の顔が見られないのが難点との意見が出ました。たしかに、ボードゲームでは相手のドヤ顔や悔しがっている顔を見るのも楽しさの一つですね。

その意味ではMetaのアバターが残念過ぎるとのコメントも。アバターがもう少しリアルで感情表現まで上手く出せるようになれば、対戦している相手の表情までわかるようになるかもしれません。ちなみにMetaのアバターは登場時に「思っていたのと違う」と酷評されましたが、これはニュースがミスリードしていた面もあるのではという意見も。

Metaが社運をかけてメタバースにリソースを投入していると盛んに報道されていた中でのアバター登場だったため、実際にはハードやソフトにも注力していたはずなのに、アバターだけが成果のように取り上げられてしまい、メタバースへの投資に見合っていないという印象が広がったのではないかという考察でした。なるほど。


HMDが浸透するには

Quest 3のようなHMDは実際のところ世の中に浸透するのでしょうか。

購入したスタッフ自身も、手元のHMDを思い立ったらパッと使う感じにはなっていないとのことで、その理由としていくつかの障壁があることを指摘します。まず、ゴーグルを被るという一手間があるという障壁。装着時の重さ、肌に当たる不快感や化粧が落ちるという身体的な障壁。こういった障壁があることで、使うときは「Quest 3を使うぞ」と軽く意気込まないとダメなのだとか。

まだHMDを購入してない層から見ると、被った姿があまりカッコ良く無いというファッション面の障壁や、そもそも高価であるという入手時の障壁もあります。あるスタッフは、「女子高生に流行ったら世間でも流行る」という流行のバロメーターを例に挙げ、今のHMDを女子高生が被るとは思えないと否定的でした。やはり普通のメガネくらい気軽にかけられるレベルにならないと難しそうですね。

このあたりはVision Proでも同じ状況になると考えられ、Appleがどのような手を打つのかが気になるところです。

障壁そのものを飛び越えられる可能性として、嫌でも使わざるを得なくなるようなキラーコンテンツの出現が考えられます。例えばポケベルはアイテムとしては決してスタイリッシュでなかったのかもしれませんが、その機能の有用性で多くの人が使いました。iPhoneもLINEのコミュニケーションツールとして広まった側面もあることは否定できません。コミュニケーションへの渇望はときに大きな障壁を軽々超える原動力になるようです。

最近の円安と海外の強烈なインフレが相まって、海外旅行の費用が激しく高騰しているとのニュースもよく聞かれます。バーチャルならどの国にも行けますし、遠く離れた土地の人とも交流できます。翻訳機能が常時動作することで誰とでも気軽に話せる日も遠くないでしょう。HMDもそういったコミュニケーションツールとして手放せなくなる日がくるのではないかとのコメントがありました。


HMDが浸透した世界

では、Quest 3のようなHMDが当たり前に普及した世界はどうなるのか、全員に思考実験してもらいましょう。

生成AIによって静止画だけでなく動画でも不要なものを消せる機能が登場しつつあるので、それが更に進んでリアルタイム処理が可能になれば、ゴーグルを通して見ている周囲の映像にも適用できるはずです。

たとえば満員電車に乗ったとき、周りの乗客を犬の姿にすることも出来そうです。逆に自分を他人のゴーグルにどんな姿で表示させるのか指定できるようにもできますよね。フォロワーにだけ表示される特別な姿を設定することもあるかもしれません。車内やビル看板の広告も全部パーソナライズされて表示されるようになるのでしょう。

MRではなく完全にバーチャルな世界だけを表示しながら歩く人も出てくるので、「歩きVRはやめましょう」という危険防止の啓蒙が必要になるかもしれません。決められたルールだけでなく、旧Twitterで見られた「FF外から失礼します」のような自然発生するマナーもありそうです。根拠の薄い謎のマナーを指南する「HMDマナー講師」が闊歩するかもしれませんね。


VRと現実との乖離

実際にHMDを利用しているスタッフのコメントの中で、かなり重要な指摘だと感じたのが「VRと現実との落差」問題です。

VRコンテンツを楽しんだ後、HMDを外して現実へ戻るとテンションが下がることがあるそうです。言ってみれば「魅力的なファンタジー世界を抜けたら狭い我が家の壁が目に入った」というションボリ感ですね。

これには「友達が帰ったあとの部屋で一人ポツンとなる感覚に近いかも」「日曜日の夕方みたいな切ないイメージではないか」と、スタッフの各々が楽しかった時間が終わってしまったときの寂しさを表現していました。

現実のことを一時的に忘れゲームなどに没頭するというのはVR以外でも同じですし、娯楽の役割でもあります。しかしVRは仮想とはいえ一種の現実として認識されることを目的としている上に、高機能なHMDがその体験を更にリアルなものに昇華させることで、今までのどの娯楽よりも現実との乖離が大きくなっている可能性があります。

今でこそ「現実へ戻るとテンションが下がる」という程度で済んでいますが、体験するVRコンテンツの完成度が高く没入感が強いほど現実に戻ったときの落差が大きくなることを踏まえれば、今後のVRの発展とともにこの問題も真剣に捉えていく必要があるのではないかと考えされられる内容でした。


業務への導入

HMDをデザイン業務で活用することについてはどうでしょうか。

シフカではまだ事例がありませんが、既にデザインの現場では制作物が利用される場面をシミュレートするといった用途でHMDが活用されています。例えば、施設内や車両内に設置されるインフォメーションが、立ち止まった位置や座った席からどんな状態で見えるのかを確認することができます。正確な見え方を把握するための実物大モックは今後も必要ですが、その前検討では充分役に立ちます。

こういった使い方は、デザインの上流工程に関わるほど必要性が増してくるはずです。クライアントからの指示通りに作る案件でも、「ざっとVRで確認はしています」と言えることがデザイン会社として大きな強みになるに違いありません。

実際に活用するとなれば、ゴーグルの視界内でリアルタイムに調整できる仕組みが必要になってきます。スタッフの中にはそれを見越してUnityやUnreal Engineの勉強を始めている者もおり、とても心強く感じました。

あとはもっと強力なGPUがあれば更に心強いのに…というコメントに一同笑いつつ、今回のは情報交換会お開きとなったのでした。

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