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通貨価値と経済力② 資本投入

通貨価値の背景には究極的にはその国の経済力、ひいては将来の経済成長があると想定する。そこで分析の枠組みとして成長会計を用いるわけだが、今回は資本投入について米国、中国、EUを比べる。

前回は労働投入を取り上げており、人口については将来推計が発表されているので未来を展望しやすい。一方、資本投入については将来予想はないので近年の動向を追いかける作業に止まることになる。

総固定資本形成を見る

まず、ここ10年ほどの総固定資本形成について傾向を確かめよう。総固定資本形成は、固定資本ストックの増加となる新規耐久財の購入のことである。具体的な対象は建物,構築物,機械設備,船舶,車両などに加えて研究開発やソフトウェアといった知的財財産も含まれる。 

データ出所: FRED、CEIC

上図から分かることを列挙しよう。2020年はパンデミックのために総固定資本形成は中国とEUにおいて停滞した。また、2010年代半ばにおける停滞はチャイナショックが原因である。増勢について各国の傾きを確かめよう。もっとも緩やかなのは欧州であり、急な傾きを示したのは中国である。図の期間中に中国の総固定資本形成は2倍以上に到達した。米国は中国とEUの間に挟まれる位置づけであった。

欧州の弱々しさも気になるところだが、中国に対する懸念が増している。中国は不動産不況のために設備投資を牽引してきた不動産開発投資が前年比で1割減と停滞している。不動産は供給過剰となっていてしばらくは設備投資が弱含みで推移するだろう。

成長会計から

視点を変えて成長会計そのもので資本投入の経済成長への貢献を見よう。米国労働省によると、資本投入の経済成長への貢献はここ10年ほど1%程度で安定的に 推移している。

https://www.bls.gov/productivity/highlights/contributions-of-total-factor-productivity-major-industry-to-output.htm

中国での資本投入は内閣府(2023)を見ると2010年代後半は4%ほどである。経済成長率が低下傾向にある中で成長の中身はほぼ資本投入によって占められている。先ほど見たように不動産不況が日本のように長引くと経済成長はますます低下してしまう恐れがある。

https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh23-01/pdf/s1-23-2-1.pdf

ユーロ圏における資本投入の貢献は藤本(2024)によれば0.5%に満たない。比較対象のなかでもっとも弱い数字である。成長会計における資本投入の動向は総固定資本形成と同じような動きになっている。

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/research/pdf/14737.pdf

このままの傾向が続くのかどうかによって将来の経済成長、ひいては通貨価値は変わってくる。人口減少による成長の足枷がある中国、EUにとって残る希望は生産性の伸びに将来の成長がかかってくる。

参考文献

内閣府(2023)『世界経済の潮流2023年I』
藤本一輝(2024)「欧州で広がる移民規制の強化が成長抑制要因に」、Research Eye、No.2023-074

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