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【絵本】「チリンのすず」 やなせたかし

「ぼくは おかあさんの かたきを
とった。 しかし ぼくの むねは
ちっとも はれない。」



「チリンのすず」 やなせたかし


妻が幼稚園で「絵本の読み聞かせ」をするというので、何冊か絵本を選んできました。


その中の1冊が、やなせたかしさんの「チリンのすず」です。


「あんぱんまん 」

「やさしいライオン 」


と読んできて、この絵本もまた深いものでした。


友情、復讐、憎しみ、愛情、空しさ、がぐるぐる絡み合い、どうすることもできないせつなさに、胸の奥深くで「おおかみ・ウォー」の哀しい遠吠えが聞こえてきました。


チリンは、生まれたばかりの子羊です。


チリンの首には、谷底に落ちてもすぐわかるように、鈴がついているんです。


その鈴は、風にゆれて「チリン、チリン」となります。


そして


おかあさんが、チリンにこう言います。

「あんまり とおくへ いっては だめよ。
おおかみに たべられますよ。」


チリンは、おかあさんの言っていることがよくわかりませんでしたが、まきばの北のほうには、おそろしい形をした山があり、そこからおおかみの吠える声をよく聞いていたのです。


その声の主のおおかみ。
名前は、ウォー。


ある夜


チリンのまきばが、このおおかみ・ウォーに襲撃されてしまうのです。


悲しいことに


チリンのおかあさんは、ウォーに殺されてしまいます。チリンを自分のおなかの下にかばって。


チリンは泣きながら、泣きながら、ウォーのすんでいる岩山へ登って行くのでした。


チリンは、ウォーを見つけてこう言います。


「ぼくも あなたの ような つよい おおかみになりたい。

ぼくを あなたの でしに してください。」


嫌われ者のウォーは、チリンの言葉にあたたかさを感じて弟子にします。


ウォーは、チリンに訓練をしました。


毎日、毎日、はげしい訓練が続きました。


そうして


3年目、チリンは羊には見えない、けだもののようになっていました。(絵の変化が物語っています。)


ウォーは、言います。


「いいか チリン。 こんやは あの ひつじの まきばを おそう。」


ウォーとチリンは、まきばをおそいました。


すると


まきばをおそっていたとき、チリンは突如、ウォーに襲いかかったのでした!


「ぼくの おかあさんは おまえに ころされた。

おまえは おかあさんのかたきだ。」

「なんだと!」


チリンのするどくなったつのが、ウォーの胸に突き刺さります!


「ずっと まえから いつか こういう ときが くると かくごしていた。

おまえに やられて よかった。 おれは よろこんでいる。」


う~ん、読んでいるうちに、これは何かの縮図のように思えてなりませんでした。


「はじめの原因がなければ、このようなことにはならなかったのに…」と感じながら読んでいると、最後にチリンの言葉が語られます。


最後のチリンの言葉には、復讐の空しさとウォーへの愛情がありました。


「ぼくは おかあさんの かたきを とった。

しかし ぼくの むねは ちっとも はれない。

ゆるして くれ ウォー。

おまえが しんで はじめて わかった。

おまえは ぼくの せんせいで おとうさんだった。

ぼくは いつのまにか おまえを すきになっていたのだ。

もう ぼくは ひつじには かえることが できない。」


ウォーもなぜかチリンの勇壮な姿に喜びを感じているような、師と弟子、父と子のような関係に変化している。


時間と親密な関係が心を変化させ、しかし、復讐心や恨みといった気持ちは消えることがなく、たとえ復讐したとしてもけっして心は癒されない。


人間の心をえぐりだすかのように、考えさせられる絵本でした。


子どもから大人まで、読む時・年齢によって新たな発見をするでしょうし、また、断ち切れない連鎖、哀しい連鎖が、「いかに空しいことなのか」と感じるのではないでしょうか。



【出典】

「チリンのすず」 やなせたかし フレーベル館


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