「あしたから出版社」島田潤一郎
「本は情報を伝える媒体というよりも、こころを伝える「もの」であるように思えるのだった。」
「あしたから出版社」島田潤一郎
僕は、本屋で自分が好きな装丁があると手にしてみます。
結構な頻度で手にした本は、島田潤一郎さんのひとり出版社「夏葉社」さんが多いんです。
何故、手にしてしまうのか?
その答えがこの本「あしたから出版社」にありました。
ひとりで出版社を営んでいる島田潤一郎さん。「こんなに思いをこめて本をつくっているのか!」とこの本を読んでいてひしひしと伝わってきました。本への愛情が半端ないんですね。
本が好きな人ならきっと「夏葉社」の本が好きになるのではないでしょうか。
僕がもしも本をつくるとするならば、絶対に夏葉社さんの本の装丁のようにしたいと思うのです。
島田さんは、はじめから出版社の経営をしたかったわけではありませんでした。
自分の出版社をつくるきっかけとなったのは、とても仲の良かった従兄を事故で亡くしたからなんです。
島田さんは子どもの頃から、辛いとき、困ったときは、本屋へ行きました。
従兄が亡くなったとき、島田さんはグリーフケア関連の本ばかり読んでいたそうです。
その中で、ある一遍の詩に出会います。
詩の作者は、聞いたことのない100年前のイギリスの神学者でした。
島田さんはこの詩を読んでいるときだけ、悲しみから抜け出せたといいます。
島田さんは自分と同じ気持ち、いや、それ以上の悲しみを抱いている叔父さん、叔母さんのために、なにかできることはないか、もしなにかできるとするなら、自分には本をつくるしかない。そう考えました。
いい本をつくるなら、自分が思うような出版社が必要だと「夏葉社」を立ち上げました。
島田さんの思いは
島田さんの気持ちは、多くの読者を意識したものではなく、ひとり対ひとり、ひとりの心に寄り添いたいという気持ちだったのです。
だから
初版でつくった部数を何十年かけてでも、読者に届いたらいいという考えなんですよね。
僕はこの本を読んでいて、夏葉社でつくられたすべての本を、今すぐにでも読んでみたい気持ちに駆られました。
島田さんの語りは、純粋な気持ちがそのまま文章に変換されているので、読んでいる自分の気持ちと知らず知らずに同期してしまいます。
それを一番に感じた島田さんの思いがこれです!
島田さんの文章を読んでいると、島田さんが目の前にいて語りかけてくれているような、そんな感じがするんですよね。飾らない文章で、本や本屋のことが好きで、共感することが多かった本でした。
最後にもうひとつ、これも前からそう感じていて、あらためて共感できた言葉でありました。
【出典】
「あしたから出版社」島田潤一郎 ちくま文庫
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。それだけで十分ありがたいです。