へびぐらたん{web版・日日の灯 2023.10.26}
最近は忙しくなると町中華屋の映像をみてしまう。銀色の古い厨房を見下げるように画角へ収まる煙たい動画を、YouTubeで延々流しながら部屋でご飯とかを食べてしまう。そのせいで今まさに自分が味わっている慎ましい夕食が、画面に映る回鍋肉や大盛りチャーハンの迫力満点のビジュアルとおかしな接続の仕方をして、舌の上でよくわからない欲望が満たされつつも混乱するみたいな状況になる。そのあいだ脳では本物のチャーハンが食べたい、大きいラーメンが食べたい、などとぼんやり思っている。でも自分の口へ入れた正体不明の夕食が食べ終わるともうそんなに食欲は残っていない。だから本物の町中華と対峙したとき果たして自分がどこまで戦えるかはわからない。胃がそんなに丈夫ではないから。
「へびぐらたん」という言葉がいきなり別の日に、中央線に乗っているとき後ろから強く聞こえてきて、そのあとの話を最後まで聞くとたぶんエビグラタンだった。町中華屋はぜひ、へびぐらたんを提供してみてください。
名前のよく知らない太った鳥が夜の寝床をうちの家の屋根に決めたらしく、人間でいういびきのような、眠りながら間違えて出されたような鳴き声がする。そのせいで2週間ぐらいうまく眠れなかった。頼むから静かに寝てほしいとはじめのうちは思っていたが、あまり気にならなくなってきた。そばを走り抜ける列車のほうがずっとうるさい。いろいろなものは慣れてしまう。慣れてしまうものが多すぎて怖い。怖いものを一回一回しっかり怖がるのも体力がいるので、忙しくても食事はちゃんととろうと思う。最近は忙しくなると町中華屋の映像をみてしまう。
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