のもとしゅうへい

Poet・言葉の移動/本『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』(2023)/執筆…

のもとしゅうへい

Poet・言葉の移動/本『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』(2023)/執筆、イラストレーション、デザインなど/ご連絡shuunomo@gmail.com

マガジン

  • エッセイ集『海のまちに暮らす』(2024年6月中旬、刊行)

    2022年に大学を休学し、真鶴町へ移り住んだ時の生活のことを書き残しているエッセイ集『海のまちに暮らす』。ここでは現在制作中の原稿を公開しています。2024年6月に出版、発売予定です。

  • 週報『海のまちにくらす』(2022-2023)

    2022年春から大学を休学して東京を離れ、新しい土地で生活をしています。相模湾に面した小さな半島です。ここではじぶんは土地を通過していく観光的旅行者でも、しっかり根をおろした恒久的生活者でもなく、わずかに宙へ浮いたような位置にあります。 生活をしているといろいろなことを考えます。できごとも起こります。そのつど生まれる心象をスケッチのように書き留めておくことで、形あるものに置き換えておくことで、じぶん自身が今どのあたりにいるのかを立体的にわかってゆけるような気がしています。感じたことを書くだけなので、あまり努力もせず、その時書けることをただ書いています。不定期発行の週報のような連載です。

  • エッセイ『カタツムリと悪癖』初稿

    文庫本エッセイ『カタツムリと悪癖』の原稿を掲載しています。 「喫茶店で他人の会話に聞き耳を立ててしまう」という自分の悪癖をもとに書いたノンフィクションエッセイ。全210頁の文庫本です(発行:2021年)

ストア

  • 商品の画像

    道ばたでみつけた草花の絵と短い言葉が記録されたイラスト集です。実物は120mm×120mmのCDサイズと呼ばれる判型で、手のひらで持つことのできる控えめなサイズの中綴じ本に仕上がりました。画用紙にも似たラフな紙に、草花をめぐる絵と言葉をおさめています。フルカラー24ページ。(2024年・セルフパブリッシング)
    ¥1,000
    のもとしゅうへい
  • 商品の画像

    どこかへ行けなくてもどこかへ行けるといい

    どこへも行けなくてもどこかへ行けるといい、と弱々しく願っていた2020年の秋に、小さな部屋で食器を洗いながら、衣服をたたみながら、いつも目に入っていたのは一枚の透明な窓だった。コロナ禍である2020年に制作された〈窓〉のドローイング作品群を、一冊のアートブックに編集しました。Google ストリートビューという架空の窓によってもたらされた移動の記憶を、色彩と線で再構成するアーカイブです。(2024年・セルフパブリッシング)
    ¥1,540
    のもとしゅうへい

記事一覧

固定された記事

[profile] / 2024.04.

Biography / CV のもとしゅうへい / Shuhei Nomoto 詩人。1999年高知県生まれ、2024年神奈川県在住。2022年より『ユリイカ』(青土社)や『現代詩手帖』(思潮社)に新人…

『海のまちに暮らす』 その6 畑をはじめる

 目覚めると顔を洗い、風通しの良い服に着替える。つばの広い帽子と長靴、軍手、麻紐。玄関を開け、背の低い自転車の荷台にそれらを放り込む。これから畑に向かうのである…

コミティア148に参加します

 タイトルの通りのお知らせなのですが、5/26(日)に開催されるコミティア148にサークルで参加します。コミティアのことを知ったのはとても最近です。  今年の1月に雑誌…

『海のまちに暮らす』 その5 掃除をする

 海上を移動する雲の様子がなんとなく湿っぽいので、洗濯物は干さないことにした。こういう時の勘はよく当たる。昼食を食べに出る前にひとまず掃除機をかける。  掃除機…

『海のまちに暮らす』 その4 泊まれる出版社、まち歩き

 真鶴には背戸道(せとみち)という、住宅の隙間を縫うような細い通りがあちこちに存在する。石垣や植え込みに沿って伸びるこれらの小道は家々を結び、人々が行き交う生活…

『海のまちに暮らす』 その3 海のみえる図書館で働く

 朝、まだ暗いうちに目が覚めた。昨晩眠りについた時間はそれほど早くなかったが、こういう時は起きてしまったほうがいい。  湯が沸くのを待つあいだに雨戸を開ける。太…

44

『海のまちに暮らす』 その2 19歳と東京と生活の記憶

 真鶴に来て、東京のことをより多く考えるようになった。不思議なことに東京で暮らすあいだはほとんど東京のことを考えなかった。東京がどんな町であるかということの前に…

27

『海のまちに暮らす』 その1 大学を休学する、東京を離れる

 細かな順番は忘れてしまったが、大学を休学することを決めたのは二〇二一年の秋口だった。その頃は上野にある学生共同のアトリエとアルバイト先である池袋の美術予備校へ…

99

春の下北沢からのお知らせ

電車に乗りながら文章を書いていると電車みたいな文章になってしまいます。 下北沢へは、2019年冬から2021冬にかけて最もよく足を運んでいて、その目的の大半はとりあえず…

28

【2024/04/26更新】『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』お取り扱い店一覧

2023年11月に刊行した小説『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』は三刷で累計発行部数が1,000部になりました。一人でつくった本にもかかわらず、さまざまな場所で…

17

冬が旬のきもちたち

 _途方もなく飽き性なので、今やっていることを脇に放り投げて新たな何かを始めてしまうことが多い。このあいだ家に置いてあるDSを久しぶりにやりたくなってソファへ座り…

19

公園

大学へ行くときは朝なので、朝に電車に乗る。北鎌倉を抜けた電車が大船駅に侵入するときの、線路内に群生しているススキのあいだを浮かぶように低速していく瞬間があって、…

20

12/25の詩

匂いのいい獣のようなクリスマスが横浜へ到来して、恵比寿を覆い、六本木で死んだ。24日だった。僕は意味もなく年明けのことを考えていて、夜景のようなグレープジュースを…

26

ひとりで本をつくることについて

1)  本の話をする前に自分のことを少しだけ書きます。  僕は今、神奈川県の西端にある港町にいて、そこで暮らしながら詩やエッセイなどの文章を書いています。同時に…

106

新刊案内|のもとしゅうへい『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』

小説『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』を2023年11月25日(金)より発売します。 いっせいになにかがはじまる予感だけがする 著者 のもとしゅうへい 価格 1…

16

上手さについて

 最近、何かが上手くなることって結局どういうことなんだっけ、と思うことが多くなって、この文章を書いています。  10代半ばくらいまでは上手いというのはほとんど速い…

49
[profile] / 2024.04.

[profile] / 2024.04.

Biography / CV

のもとしゅうへい / Shuhei Nomoto
詩人。1999年高知県生まれ、2024年神奈川県在住。2022年より『ユリイカ』(青土社)や『現代詩手帖』(思潮社)に新人作品として詩が掲載され、2024年「ユリイカの新人」に選出される。同年4月より東京藝術大学大学院美術研究科修士課程に在籍。企画、執筆、編集、装幀までのすべてを個人で手がけるセルフパブリッシングの活

もっとみる
『海のまちに暮らす』 その6 畑をはじめる

『海のまちに暮らす』 その6 畑をはじめる

 目覚めると顔を洗い、風通しの良い服に着替える。つばの広い帽子と長靴、軍手、麻紐。玄関を開け、背の低い自転車の荷台にそれらを放り込む。これから畑に向かうのである。五時半。そのまま勢いをつけて坂を下り、駅前を過ぎて、まだ一面に青い道路を海側へ滑りながら背戸道へ入る。

 真鶴出版の裏戸口に音を立てずに自転車を停め、細い路地の先へ抜ければ、一段高くなった三角地に出る。開けた頭上には丸みのある雲が浮かび

もっとみる
コミティア148に参加します

コミティア148に参加します

 タイトルの通りのお知らせなのですが、5/26(日)に開催されるコミティア148にサークルで参加します。コミティアのことを知ったのはとても最近です。
 今年の1月に雑誌『ユリイカ』(特集=panpanya)を読んでいて、panpanyaさんがデビュー前に手製本の冊子をコミティアで売られていたという記事を目にしました。その後インターネットでコミティアのことを調べて、コミケや文学フリマ等のいくつかの即

もっとみる
『海のまちに暮らす』 その5 掃除をする

『海のまちに暮らす』 その5 掃除をする

 海上を移動する雲の様子がなんとなく湿っぽいので、洗濯物は干さないことにした。こういう時の勘はよく当たる。昼食を食べに出る前にひとまず掃除機をかける。

 掃除機の順路はアトリエとして使っている作業部屋から始まり、次いで寝室、それから台所、浴室、玄関となる。作業部屋は床板の色が暗いため汚れが目立たないが、ここでは絵を描いたり紙を切ったりと細かい作業を行うので、なるべくこまめに掃除をする。

 つい

もっとみる
『海のまちに暮らす』 その4 泊まれる出版社、まち歩き

『海のまちに暮らす』 その4 泊まれる出版社、まち歩き

 真鶴には背戸道(せとみち)という、住宅の隙間を縫うような細い通りがあちこちに存在する。石垣や植え込みに沿って伸びるこれらの小道は家々を結び、人々が行き交う生活導線である。
 高低のある地形の必然から生まれた背戸道をはじめ、この町には都市の余白とも呼ぶべき公私の溶け合う空間やオブジェが、至る所に積極的に残されたままのようだ。

 例えば高台の開けた路地の途中にぽつんと一台のベンチが置かれている場所

もっとみる
『海のまちに暮らす』 その3 海のみえる図書館で働く

『海のまちに暮らす』 その3 海のみえる図書館で働く

 朝、まだ暗いうちに目が覚めた。昨晩眠りについた時間はそれほど早くなかったが、こういう時は起きてしまったほうがいい。

 湯が沸くのを待つあいだに雨戸を開ける。太陽はまだ薄紫の水面の裏へ沈んでいて、その輪郭からほとばしる熱のようなものが既に大気中にあふれている。マットレスを窓の桟から外側へ干す。

 薄暗い机に戻って、MacBookを立ち上げる。この時刻の部屋に漂う淡い印象が好きだ。日がのぼる前、

もっとみる
『海のまちに暮らす』 その2 19歳と東京と生活の記憶

『海のまちに暮らす』 その2 19歳と東京と生活の記憶

 真鶴に来て、東京のことをより多く考えるようになった。不思議なことに東京で暮らすあいだはほとんど東京のことを考えなかった。東京がどんな町であるかということの前に、自分はもう東京という場所に含まれていて不可分で、忙しくやらなければならないことや出来事が数多くあった。自分が今どのような町に住んでいるのかという問題はあまり重要でないように思えたし、誰もそんなことを訊ねなかった。それよりも誰とどんなことを

もっとみる
『海のまちに暮らす』 その1 大学を休学する、東京を離れる

『海のまちに暮らす』 その1 大学を休学する、東京を離れる

 細かな順番は忘れてしまったが、大学を休学することを決めたのは二〇二一年の秋口だった。その頃は上野にある学生共同のアトリエとアルバイト先である池袋の美術予備校へ通うために豊島区の端のワンルームで暮らしていた。ほとんど眠るために帰っていくような場所だったから、そのアパートについて書くべきことは少ない。覚えているのは部屋へ入るために狭い階段を三階まで上がらなくてはならなかったことと、周りを下町らしい住

もっとみる
春の下北沢からのお知らせ

春の下北沢からのお知らせ

電車に乗りながら文章を書いていると電車みたいな文章になってしまいます。

下北沢へは、2019年冬から2021冬にかけて最もよく足を運んでいて、その目的の大半はとりあえず喫茶店に入ることだったり服を選んで着てみることだったりしました。どこの路地だったかは忘れてしまったのですが、マイナーな野菜がこれでもかと放り込まれたカレーを提供してくれるちょうどよい個人経営のお店があったような気がします。とにかく

もっとみる
【2024/04/26更新】『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』お取り扱い店一覧

【2024/04/26更新】『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』お取り扱い店一覧

2023年11月に刊行した小説『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』は三刷で累計発行部数が1,000部になりました。一人でつくった本にもかかわらず、さまざまな場所でお届けできる機会をいただきました。手に取っていただいた方、展覧会にご来場いただいた方、興味を持ってくださったお店の皆さま、ほんとうにありがとうございます。

これからも自分にできることを試しながら、活動を続けていきます(三刷の在庫

もっとみる
冬が旬のきもちたち

冬が旬のきもちたち

 _途方もなく飽き性なので、今やっていることを脇に放り投げて新たな何かを始めてしまうことが多い。このあいだ家に置いてあるDSを久しぶりにやりたくなってソファへ座り、電源を入れるところまではよかったものの、メニュー選択を経てローディングの暗転画面に入るや否や先ほどまでの期待感はたちまち霧散、〈自分は果たして本当にそのゲームを今やりたかったのか〉という早急な問いの導かれるまま、すぐさま電源を落としてし

もっとみる
公園

公園

大学へ行くときは朝なので、朝に電車に乗る。北鎌倉を抜けた電車が大船駅に侵入するときの、線路内に群生しているススキのあいだを浮かぶように低速していく瞬間があって、そこだけどこか遠くの土地を移動しているような、白い車窓から数秒のあいだ目が離せなかった。

戸塚へ着くと電車を降りて、同じホームの反対側まで短く歩く。そこへ次の電車が流れ込んできて、それに乗る。電車にはさっきと同じくらいのたくさんの人がいて

もっとみる
12/25の詩

12/25の詩

匂いのいい獣のようなクリスマスが横浜へ到来して、恵比寿を覆い、六本木で死んだ。24日だった。僕は意味もなく年明けのことを考えていて、夜景のようなグレープジュースを握りしめたままいくつかの川を越える。越えようというところだった。それからきみのことを少しだけ忘れた、5分、10秒、20年、

隣の上着に包まれた2人が、さっきから才能の話をしている。おわりのない、音楽のような光のなかで、今ここにいるすべて

もっとみる
ひとりで本をつくることについて

ひとりで本をつくることについて

1)

 本の話をする前に自分のことを少しだけ書きます。

 僕は今、神奈川県の西端にある港町にいて、そこで暮らしながら詩やエッセイなどの文章を書いています。同時に雑誌のために挿絵を描いたり、グラフィックデザインの制作依頼を受けたりするような、一人でできる仕事もやっています。住んでいる家は高台にある賃貸で、天気のよい日は真っ青な相模湾と初島がみえます。春夏の暖かい時期は軒先で野菜を育てています。学

もっとみる
新刊案内|のもとしゅうへい『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』

新刊案内|のもとしゅうへい『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』

小説『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』を2023年11月25日(金)より発売します。

いっせいになにかがはじまる予感だけがする

著者 のもとしゅうへい
価格 1,800円+税
ジャンル 小説
ISBN 978-4-9913347-0-2
Cコード C0093
判型 A5変形判
(縦194mm 横112mm 厚さ23mm)
頁数・製本 238ページ/上製本
初版年月日 2023年11月

もっとみる
上手さについて

上手さについて

 最近、何かが上手くなることって結局どういうことなんだっけ、と思うことが多くなって、この文章を書いています。
 10代半ばくらいまでは上手いというのはほとんど速いという意味で、自分が速いかどうかを確かめるために他人のスピードに敏感になる必要があった。でも速い=上手いだとしたら、上手さという言葉はもれなく速さに置き換えられてしまうから、この2つの言葉が持つ意味にはそれぞれに固有の範囲がないとおかしい

もっとみる