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【ほぼ実録失敗談】事故本発生からの30日間、やらかした担当編集(私)が続けた、たったひとつのこと。

前回は、私が過去におかした大失敗(事故本)の発生原因とその後の経緯について書きました。今回は「刷り直し&製本し直し→間違いを正した本の完成」に至るまでの間、私が担当編集者として何ができたのか、について書きます。

マルチーズ竹下といいます。東京のわりあい大きめの出版社で、書籍の編集をしています。

では、復習。

どんな失敗だったか? →「間違い」を掲載した本をつくってしまったのです。
どんな間違いだったのか? →ある著名な写真家の写真を、「逆版(ギャクハン)」(=左右反転。プリントの場合は裏焼きとも言う)で掲載してしまったのです。
どの時点で気付いたのか? →発売の一か月ほど前、見本本が届き、見直しをしていたとき、です。
その後、どういう手立てを取ったのか? →発売日をずらし、その間、該当ページだけ印刷し直して貼り付ける、業界用語で【一丁切り替え】と呼ばれる手法で本を作り直しました。

さて。この【一丁切り替え】、聞いたことはありますでしょうか。ドキッとされた方は、お仲間かもしれませんね。そう、間違いが印刷されたページのみをノドから数ミリのところで切り離し、その数ミリのところに修正して印刷し直したページを貼り付ける方法です。これだと、全ページを製本し直す必要はありません。だから日数も費用も、比較的小さくて済む(こともある)。

――という説明を、同じ年に入社して、一時期は“仲良し同期”としてよく遊び、しかしサクッとエラくなってしまったがためになんとなく話しかけにくくなった制作担当のYさんが淡々としてくれました。

「だいじょうぶ、社内でもたまーにやるケースだから。都内に3つほどこれを的確にやってくれる製本工場があるので、話をしてみますね。ひとつくらいはOKしてもらえるでしょう。前にも頼みに行ったことあるけど、打ち合わせの際中、けっこう頻繁に本を積んだトラックが往き来していたので、業界全体でもよくある事故なんですよ、きっと」

ありがとうYさん、さすがエラくなるだけある。ひたすら頭を垂れる不肖マルチーズが気の毒に思えて仕方なかったのでしょう。あえて“よくあること”として処理しようとしてくれるその気遣いが身に染みるぜ・・・・!

――と、お礼を言おうとしたところにYさん。
「あ、でもそこ工場といってもご家族3人でやってらっしゃるところだから、インフルエンザとかに罹ってしまわれたらヤバいですね!」
え! え! インフルエンザ、大流行中じゃん!! しかもご家族経営って、ひとりでも罹患しちゃったらあっという間に家庭内感染なのでは!!

「それは・・・・それは、ご自愛なさりつつも期日までに作業していただくようにぜひともお願いしたいしだいですね・・・・なんなら、打ち合わせには私も同席させていただき説明とお願いを」(私、マルチーズ竹下)
「あ、それはけっこうです。逆にやめてください。編集者が居ると要らぬ感情が発生して、ビジネスとして交渉しにくくなるので」(Yさん)

まるで、マザー牧場シープショーに登場する牧羊犬のように、鋭い視線で私を制するYさん。いやほんとうに、おっしゃるとおりで。
じゃあシニア期に突入し、1日の大半を寝て過ごすような愛玩犬にできることってなんじゃろ・・・・?と考えて出た答えが、神社仏閣巡りなのでした。

1日に最低1箇所は、お寺や神社に行き、製本工場の方の健康と無事を祈願する。どうか風邪を召しませんように。インフルエンザに罹りませんように。道具で怪我をしませんように・・・・・・・・。

祈りが通じたのでしょうか(?)、指摘されなきゃ気づかない高いレベルで一丁切り替えがなされた見本本は、ちゃんと期日までに完成したのでした。

いやまじで、「一丁切り替えなんて知らんがな」がいちばんよい。でもみなさん、長らく編集者をやっていると、どうしても思わぬ事故を起こしたり、遭遇してしまったりすることもあるんです。そのときに、自分ひとりで解決に向けてできることなんてたいしてないんですよね。

まずは、大きな声で、やらかした! 助けてください!! と事実を伝える。じつはこれがいちばんできないんですけどね・・・・・とくにそこそこ経験を積んだ、つまり年齢のいった編集者にはキツい。頼らざるを得ない部署の担当者が、ふだん、互いに良く思い合っていない場合もありますしね。

そして、できることとできないことがはっきり分かった時点で、できることを真摯にやる。それが神頼みなら、くそまじめに祈る。まいにち祈る。
*もちろん、祈る相手は誰でもいいわけではありません。ふだんから自分が行き慣れているお寺や神社、おうちに神棚があるのならそこでもいいと思います。くれぐれも、過大なお布施とかに心を惑わされないように。私はお賽銭ナシの日もあれば、なんとなくザワつく日は500円玉2個、の日もありました。大好きな雑誌『月刊ムー』のバックナンバーの開運スポット特集を読み返すことも。

もう無理、消えてなくなりたい。

そんな思いに駆られる失敗も、いつかは、こうして記事のネタになる日が来ます。だいじょうぶ。

文/マルチーズ竹下

東京の出版社で、生活全般にまつわるアレコレをテーマにした書籍の編集をしている。ペンネームは、犬が好きすぎるので。

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