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鳩模様

晴れやかな午前中。窓辺でバーレッスンをしていると、おや、向いのマンションのベランダに鳩が二羽、くちばしを咬み合わせて左右左右と頭を振っている。あきらかに喧嘩ではない。まるでダンスのよう。
眺めていたら、体格の良い方が小さい方の背中に、2秒ほど乗る。

あら、そういうことだったのね。

その後どうなるのか気になり、バーレッスンそっちのけでじろじろ見続ける。
雄はあっけらかんとし、雌から50センチほど離れたところに着地。
雌の意識のベクトルは私の目にもわかるほど雄に向かっているのだが、雄のベクトルはベランダの外の中空に向いている。泣

ああ、生物。

二羽はその後もそれぞれのベクトルを保ったまま、空間的距離も50センチ程度に保って動いている。

と、その時、ほっそりした別の二羽が飛来。ほっそりした体格から考えて、二羽とも雌だと思われる。
あああ。こともあろうに、雄が新しい二羽のうちの一羽に近づき、水たまりに流れた機械オイルのような虹色の首を膨らませ、尾羽を引きずるほど下げて、ぐるぐる回りはじめたではないか!
そこで元雌は、雄に「あーた、どういうつもり?」と迫るのではなく、新雌に「あっちいけ、あっちいけ」と始めるではないか!号泣

バーを握りしめながら「悪いのはその雌じゃない!雄だよ!」と向かいのビルから心の中で叫ぶ私。

…女房の妬くほど亭主もてもせず。

新雌はしばし徒歩でよけ続けたのち、飛び去る。
雄はショックをうけるほどでもない。(その程度なのか…)
元雌はふたたび50センチぐらいの距離を保ち雄の近くに居続ける。

雄が一階下のベランダに移動すると、元雌も移動。
雄が電信柱に移動すると、雌は電線へ。
このへんで切なくなったので、バーレッスンに戻る。

しばらくして外を見たらもう、二羽ともいなかった。

さらにしばらくしてもう一度見て見ると、おそらく例の雌雄が例のベランダに戻っている。
でも今回は、室外機の周りを調べている様子。
ああ、新居をかまえ、卵を産み子を育てる算段なのだろう。
一階下の室外機周りも調べている。
家族を結成するというのは、切ないものである。

寿命の短い生物は人生の回転が速くて、いろいろわかりやすい。

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