フードエッセイ『アイスクリームが溶けぬ前に』 #5|一蘭(静岡)
この日までに食べないと、小さな後悔をする。
期間限定、数量限定とはちょっとちがうし、賞味期限や消費期限の話しとはちがう、有効期限付きの食べ物。
オンラインギフトの一つとして、その飲食店限定で使えるLINEクーポンを贈るという選択がある。有効期限付きの食べ物の正体は、このLINEクーポンを使って食べる料理だ。
以前、別の方からコンビニスイーツのクーポンをもらったのに使いそびれて、もったいないことをした。そのとき、いただいたクーポンだから損はしていないなずなのに、大損した気分になった。今でも忘れることはない、25歳のときの秋の夕暮れ。
27歳の誕生日に、友人から一蘭のラーメンのクーポンをいただいていたことを忘れていた。奇跡的に思い出したので、2年前の二の舞にはなるまいと、忘れないうちに特別な一品を食べるために、静岡市内に行った帰りに一蘭へ向かう。
一蘭は、入店するまでにとにかく待つイメージが強くて、行列覚悟でトートバックに文庫本をしのばせてたが、自分の想像してた入店方法との違いに戸惑いを隠せない。どこが席につながってるのか?店員に誘導されないけど中に進んでいいの?と、恐る恐る店の奥に進んでいく。
すると、今どこの席が空いているか一目でわかるシステムが導入されていて、ここなら隣の人が来ないだろうと席をチョイス。いよいよ、久しぶりの一蘭の味集中カウンターへ。
「最高の一杯」
LINEクーポンに書かれた言葉と、「良く産まれてきた😌」の一言にありがとうの気持ちを込めて、ラーメンを注文。筆巻きのようなすだれが開閉される。
ラーメンが来るまで、目上の方向にある掟(おきて)を目で追う。来る度に忘れてしまうからか、毎回しっかり読んでいる。そして、なるほどなぁって感傷的になるのもお決まりだ。
5分も待たないうちに、とんこつラーメンとのご対面。
とんこつラーメンの好きなところは、豚骨ベースのスープはもちろんだが、細麺でスッと食べれるのと、替え玉とふたつでひとつみたいなところ。一杯だけだと、とんこつラーメンとの時間が短すぎて、まだ離れたくないよ、あなたともう少し時間を共にしたいんですとお腹の中から囁いてきて、替え玉を注文している自分がいる。
デザートは別腹ならぬ、替え玉は別皿。
この一言で体がブルっと寒くなる前に、ごちそうさまでした。
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