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フードエッセイ『アイスクリームが解けぬ前に』 #17 成龍萬寿山 本店(仙台)


町中華は、「初対面」と相性がいい。そう感じるのは、僕だけだろうか。


昨今、「オンラインで顔を合わせているが、対面では会ったことがない」といったことが増えたように思う。オンラインだろうと対面だろうと、個人的にはその人と会っている感覚に浸れるが、実際に会って、しかもご飯を共にするとなると、少し緊張してしまう。

そんなとき、町食堂や町中華は、初対面特有の何を話せばいいのか問題や、お互いにどんなものが好みかわからない問題を、多彩なメニューでカバーしてくれる。


ラーメン、餃子、チャーハンといったザ・中華ばかり味わっていた頃から、
酢豚、カニ玉、八宝菜、中華粥、ニラレバ、エビチリ、回鍋肉といった「中華という商店街」をくぐらなければ辿り着かない"美味しさ"に出会えるまでに。1人1品から、みんなで分け合える料理もあって、みんな違ってみんないいし、みんなと一緒に食べたければ食べられる。中華は、食べる人によってスタイルを変えられる柔軟性に富んでいる。


共通の友人が数十人もいながら出会ってこなかった仙台の友人との初めてのご飯も、地元(仙台)で行きつけの町中華にしてもらった。行きつけの魔力に力を借りて、その人のありのままに飛び込んでみたいと。


「このお店は量が多いので、少し覚悟してくださいね」という言葉を耳にしつつ、大好きな回鍋肉を注文。辛い食べ物は苦手だが、豆板醤・甜麺醤のダブルエースの味付けとキャベツと豚肉が絡み合ったあの味なら、辛さをほとんど感じない。むしろご飯がすすみ、高校時代のようにご飯の箸が止まらなくなるのだ。


予想の何倍も早く、回鍋肉が入場してきた。

この迫力。高校時代、体を大きくするために限界まで食べた頃の記憶が蘇り、自分の中でゴングの鐘を鳴らす。


回鍋肉を山盛りご飯にバウンドさせて、ひたすらに食べる。餅つきの合いの手のように、合間で中華スープをいただく。まるで、ご飯を食べている時にフルーツを食べて、気分転換するかのように。

一人で回鍋肉を食べていたら単調で飽きていたかもしれないが、味に飽きることは決してなかった。それは、ようやく対面で会えた友人との食事、いろんな話をしながらお互いの距離が詰まっていく感覚があったからかもしれない。最近、孤食という言葉もあるが、誰かと同じ卓でご飯を食べることは、幸せでホッとする。


先に完食していた友人に軽く詫びを入れ、最後の一口を運ぶ。うん、最後まで甜麺醤がしっかり効いた、美味しい回鍋肉。でも、それはただの回鍋肉ではなく、これから共に関わり合っていく友人との忘れられない一食だ。


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