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フードエッセイ『アイスクリームが溶けぬ前に』 #13 珈琲西武(新宿)


閉店、改装、リニューアル。

それまで続いてきたものが一度リセットされ、新しいドラマがはじまる。というと響きはカッコいいし、新鮮さが加わるのは良いのかもしれないが、その一方で、オールドな感じだから良かったものとか、文化とか思い出がみたいなのが振り返れなくなってしまう残念さみたいなのがある。


お店自体のリニューアルのように、純喫茶という文化も少しずつぼくたちの街から消えつつあるのかもしれない。まさに、このエッセイのタイトルのように、純喫茶という文化が溶けてなくなってしまう前に、そこで感じたこととか思い出とか、考えてたこととか後世につなげていかねば。勝手にそんな使命感を背負っている。


「今月(2023年8月)で閉店して、新しいビルに移転するみたいです」

別の純喫茶で友人とおしゃべりをしていると、今回の舞台である純喫茶の話題があがる。まさに、今行かないと、その純喫茶がまとっている文化や雰囲気を味わえないかもしれない。会話を交わしてすぐに、足を運んだのは言うまでもない。


珈琲西武。
デパートの西武が一瞬頭をよぎったが、茶色のビルに青の看板。カーテンウォールのガラス越しから、レトロな照明や店内の雰囲気が伝わってくる。

珈琲西武(本店)のビルも雰囲気があって、コーヒーとかココアにピッタリの色。


中に入ると、お馴染みのUCC COFFEEのロゴに負けない、らしさたっぷりの「COFFEE 西武」の字体と、花瓶やシャンデリアたちがあしらわれたデザイン。まるで、宮殿のティータイム会場を彷彿とさせる。


自分と同じように、閉店の知らせを聞いてお店を訪れた人が何人も並んでいたこともあり、自分の順番になり店内に入れた時、ホッとしたと同時に、珈琲西武が人を惹きつけるお店だと納得してしまった。

ステンドグラス、ランプ、壁画、床。
西洋の文化が凝縮された内装、リッチな気分にさせてくれる。

ランプの古い感じ、まるで教科書で見た文明開花のようで。


事前情報なし、何がおすすめかも分からずに来たこともあり、
周りの人を見てアイスコーヒーとパフェをオーダーする。

メニューを表を見たとき、この値段には、このお店にずっといる権利、喫茶店の歴史みたいなのが乗っかっているのだ。と、自分を納得させた。


「遅くなってごめんなさい、アイスコーヒーです」

アイスコーヒーの入場。カメラのファインダー越しに、アイスコーヒー・ソファ、ステンドグラス、ランプ、植栽。アイスコーヒーがアイスコーヒー以上の存在感、お値段以上の雰囲気をまとっていた。

赤いソファに座っているかのように、アイスコーヒーが堂々としていた。


そして、チョコレートパフェの登場。

パフェの迫力に圧倒されると同時に、豪華メンバーがパフェのスターティングラインナップ(スタメン)に連なっていた。チョコレートソースに生クリーム、コーン付きのソフトクリーム、桃、みかん、りんご、パイン、ポッキーにさくらんぼ。カロリーなんぞ気にするな、これはデザートではなく一食だと。

アイスクリームではなくソフトクリームなところ、
この見た目だと入っていそうなコーンフレークが入っていないところ。

パフェ分析をしてみるといろんな発見がある。


向かいの席で同じパフェを召し上がっていた女性の横からのアングルが、テレビドラマで出てくるようで、思わず撮ってしまった。美味しそうに食べる人を見ていると、その人との食事が楽しみになる。


お会計を終えて、階段を降り、またビルを見上げた。
次に新宿に来たときは、もうこの場所にないのか…。と残念な気持ちになったが、閉店してから「あの場所にあるうちに行っておけば」という後悔せずに済んだ。

写真を撮ること、文章に残すことというのは、
自分のためでもあり、後世に伝えていく行動だと思う。

だから、今日も豊かな食に出会ったとき、食日記を書くだろう。


ごちそうさまでした。

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