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【Archive 2012】「呼吸する影―Shadow of Bombed Trees―」展 @KAPL

本記事は 2012-10/26に書かれたものを再編集してアップしています。


去る、2012年10月20日、21日

「呼吸する影―Shadow of Bombed Trees―」浅見俊哉作品展がKAPL(コシガヤアートポイント・ラボ)で開催されました。

『呼吸する影―シダレヤナギ(Weeping willow)』
(size:297mm×420mm-30枚構成)

富士フィルムの感光紙、コピアート(Copiart)を使用

―1945年8月6日の原爆にも耐え、生き残った樹木。
被爆により、もとの樹木は倒れ、残った根元から芽を吹き返しました。現存する被爆樹木の中では、最も爆心地に近いものです。(樹木にかけられている表示より抜粋)

『呼吸する影―アオギリ(Chinese parasol trees)』
(size:297mm×420mm-20枚構成)
富士フィルムの感光紙、コピアート(Copiart)を使用

―1945年8月6日に広島市内東白島町の中国郵政局(旧広島通信局)の中庭で被爆し、爆心地側の幹半分が熱線と爆風により焼けてえぐられましたが、その傷跡を包むようにして成長を続けています。1973年5月に平和記念公園へ移植されました。アオギリのうた(作詞・作曲/森光七彩)のモデルの木として有名。(樹木前の表示より抜粋)

『呼吸する影―シダレヤナギ(Weeping willow)』
(size:880mm×1700mm-4枚構成)
富士フィルムの感光紙、コピアート(Copiart)を使用

両日ともに秋晴れの爽やかな天候に恵まれ、約70名の来場者がありました。

20日17:30~開かれたレセプションでは、被爆樹木との出会いや、様々な木々の影を撮影するようになったルーツ等をお話しさせて頂き、作品の感想を頂きました。

被爆樹木との出会いは、平和記念公園内にあるレストハウスでのパンフレットがきっかけです。

「原爆に耐え、再び芽吹いた命」とあり、その樹木たちに会いたくなり訪ねました。

一番近いシダレヤナギを目指し歩いていると、幼い頃、祖母がしてくれた戦争の話を再び思い出しました。
祖母は東京で戦争を体験し、東京大空襲の中、炎をかき分けながら走り生き残った経験、直接は体験する事はなかったけれども、原爆への恐ろしさを、静かに語ってくれました。
終戦後、焼け野原となった街で、何もない中から貧しいながらもたくましく生きて来た。そして、8月6日、9日、15日に必ず黙祷をすることも祖母から教えられた事でした。

祖母の話は、2011年3月11日以降、私の頭の中になぜか色濃く存在してきて、2012年の8月に広島に初めて訪れ、原爆ドームの前に立った時にも思い出されました。その建物の前に立ちつくし、言葉を失い、「何か」が頭の中にガツンと入ってくるようでした。

しばらくベンチに座り、冷静さを取り戻し、写真に撮ると「そこに何も写っていないような」不思議な感覚を感じました。柵の向こうにあるそれはあの時の時間をその身に吸い込んで現在を生きていないような感じがしました。ただ柵の向こうに行きかう鳥と、吹き抜ける風のみが、その場所を通り抜けることができる存在の様です。

旅の情報を得ようと観光案内所に行ったときに、被爆樹木のパンフレットと出会いました。原爆で焦土となった土地に再び芽吹いた木がある事を私ははじめて知り、その木を尋ねる事にしました。

一番爆心地から近い樹木は原爆ドームから徒歩数分のところにありました。
木をひとまわりし、幹を撫でてみると深い感謝の感情が湧いてきました。生きていてくれて本当にうれしいと思いました。多くの人の希望となり、大切にされ、今なおヒロシマの土地の養分を吸い成長している樹木を見て「生きる」ことへの大きなエネルギーを感じました。そしてこの木の木漏れ日を撮影したいと思いました。

私の木々の影のフォトグラムのルーツは、実家の和室の障子に映る庭の影です。

実家の庭は祖母が毎日手入れをし、四季色とりどりの草花が風にそよいでいます。
私は、その障子のスクリーンにうつる影を小さい頃からぼーっと眺めるのが好きでした。
朝と夕、夜の時間で、色の違いや影の大きさが異なることが面白かったのです。

今回の作品で、私の家の庭と、被爆樹木が繋がったことがとても大きい事でした。

何故なら、「戦争」や「平和」といったものがある種リアリティを持って感じる事が出来なかった私に、自ら触れる事が出来る庭の草花と被爆樹木が繋がったことで、「戦争」や「平和」がある種特別なものではなく、日常の一部として感じる事が出来たからです。

自分の庭に種を植え、花が咲くのを待つように、被爆樹木のこれからの成長を楽しみになる。

それは生きることそのものの楽しみに繋がると感じています。

以前は「戦争」や「平和」について語ろうとした時、そこから先の言葉を出す事が出来ない自分がいました。

成長を楽しみに待つことが出来る喜びや、未来を想像できる事が「平和」そのものなのではないかと。

展覧会に来てくれた方々と一緒に考える事が出来た時間になりました。

今後も、撮影を通して多くの方に被爆樹木を知ってもらいたいと考えています。

中国新聞掲載記事(2012年10月8日)


展覧会の概要は以下の通りです。

ヒロシマには「被爆樹木(Bombed Tree)」が170本あります。
「被爆樹木」とは1945年8月6日、爆心地から概ね2km以内で被爆し、再び芽吹いた木を指します。75年間は草木も生えないと言われた街に芽吹いた「被爆樹木」。

今年の8月、私は、その木々の存在を知り、その木々を訪ねました。
風に揺れ、青々と茂る葉、木漏れ日に大きな生命力を感じました。

今回の展覧会では、そんなうつりゆく木々の「影」をそっと採取したフォトグラムを展示いたします。フォトグラムとは、カメラを用いず、モチーフを感光紙の上に直接置き撮影する技法のことです。今回、建築図面のトレースに用いられる感光紙を使い、被爆樹木のこもれびを直接撮影しました。この感光紙は感度が低く、晴れた日の野外でも15秒から30秒程の露光時間が必要になります。その間、風が吹くと木々は揺れその影は残像として感光紙に定着します。撮影時、自らの呼吸と呼応するかのように、こもれびの揺らぎをじっと見つめながら採取した作品をお時間の許す限り感じていただければ幸いです。

2012年10月20日 浅見俊哉

「呼吸する影―Shadow of Bombed Trees―」

浅見俊哉作品展

■日時:2012年10月20日(土)・21日(日) 11:00-19:00

■場所:KAPL(コシガヤアートポイント・ラボ)
東武スカイツリーライン「北越谷駅」徒歩5分

〒343-0026 埼玉県越谷市北越谷5-9-27

■レセプション:2012年10月20日(土) 17:30-18:30

■入場無料


⚫︎写真作家・造形ワークショップデザイナー ・キュレーター・「時間」と「記憶」をテーマに制作。2012年〜ヒロシマの被爆樹木をフォトグラムで作品制作 ●中之条ビエンナーレ2019参加アーティスト ●さいたま国際芸術祭2020 市民プロジェクトコーディネーター