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バックパックの中身は「美女と無人島に流された時のため」

ここ数年、通勤途上らしい男性が、自転車に乗り、あるいは徒歩で、角型のバックパックを背負っている姿をよく見かけます。
── 時代は変わりました。

30代で「再勉生活」を送っていた私は、毎日バックパック姿でイリノイ大学に通学し、研究生活を送っていた。

卒業後、日本企業に復職した後も、その流れで通勤はバックパック姿でした。当時のサラリーマンは手提げ黒カバンが標準装備だったので、けっこう奇異の目で見られたものです。
「お、タニくん、山でも登るのか?」
「キミは一体、会社に何しに来てるんだ?」
面倒なので、
「会社で階段を登るのは山登りみたいなモンすよ」
など適当に答えていた。
そのうちに私とバックパックはセットの光景になり、誰にも何も言われなくなった。

しかし、50過ぎたジジイになっても、それこそ山登りのような大きめのバックパックを背負って会社に行くので、たとえば部下の女性から、
「タニさんのリュック、一体何が入ってるんだろう、って食堂で話題になってましたよ」
と言われたこともある。

「これにはねえ ──」とおもむろに答える。
いつ無人島に流れ着いても困らないモノがひと通り入ってるんだよ」
「……へえ」
と呆れ顔にもうひと言。
「特に、美女とふたりで無人島に流れ着いた時に、彼女を退屈させないためのモノが色々、入っているのさ」
「……はあ」
その時、相手は何か具体的な品物をいくつか脳裏に描いている……らしい表情を眺めるのも、また楽しい。

【無人島に流された時に困らないモノ】
この答えは半分ジョークで半分正しい。
要は、
【もしかしたら必要になるかもしれないモノ】
が入っているのだ。

・待ち時間が長い時に読むかもしれない本数冊(でもたいてい読まない)
・自宅で夜読むかもしれない論文コピー数編(でも酒を呑むのでたぶん読まない)
・A5サイズの手帳、名刺入れ(使う機会はほぼなし)
・タオル、ハンカチ、ティッシュの類(ずっと入ったまま)
・着替えが必要な場合に備えての靴下とトランクス(同上)
・栓抜き、コルク抜きの類(同上)
・靴ベラ、充電コード、各種ペン類など(たまに使う)
・のど飴やビスケットの類(ずっとそのまま……やがて食用不可に)
・なぜか、爪楊枝、ワサビ、醤油、箸、小型の石鹸……
・拳銃と銃弾(これは嘘です)
・アンパンマン人形(これも嘘です)

当時のバックパックはナップザック型だったので書類の「肩」の部分が折れてしまったものです。現在流行っている角形のバックパック形状はとても合理的です。

かつて、椎名誠だったか、糸井重里だったか、あるいはそのような年代のサラリーマン作家のような人だったか、どこかのコラムかエッセイで、
── 旅(だったか出張だったか)の荷物が「ひょっとしたら必要かもしれない」品々で大きく重くなってしまうことを嘆き、その品々を自虐的に、
《もしかしてグッズ》
と呼んでいた(たいてい使わないまま持って帰る、とも)。

膨らんだバックパックの中身である
【無人島に流された時に困らないモノ】
とは要するに、私の
《もしかしてグッズ》
なのです。

特に、
《家で読むかもしれない論文ファイル》
の類がどんどん多くなり、家族に時折、
「アンタのリュック、めちゃくちゃ重いけど、結局読まない本や書類ばかりを、会社と家の間をかついで往復しているだけじゃないの?」
グサリ、と刺される。

「いや、これは体を鍛えるためにかついで往復しているんだ。高校のワンゲル部時代にはキスリング(注:巨大な登山用横型リュック)に石を入れて階段を往復したものさ」
ハハハ、と笑うが確かに重い ── 自分で言っておいておかしいが、確かに結果的に鍛えている……かもしれない。

── それにしても、
結局、無人島に(特に美女とふたりで)流れ着くような機会はないまま、サラリーマン生活を終えることになってしまった。

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昨日の記事(↓)を書いているうちに、会社員時代のことを想い出しました……。

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