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ゆ 「雪」


18歳で帯広畜産大学獣医学科に入り、北海道に住むことになった。北海道に行くと、道産子(北海道生まれ)も道外出身者(北海道の人は「内地のひと」と呼ぶ)も、一様に「北海道をこよなく愛している」ということに驚く。皆がそれぞれに「北海道のどこが素晴らしくて、自分は北海道のどういうところが好きか」を語り出す。それはナショナリズム的に上から来たものでも同調圧力によるものでもなく、内発的なものだと聞いていて分かる。みんな、本当に、北海道が好きなんだ。

僕も6年後には「語る側」になっていた。北海道は人を「北海道の伝道者」にする。免許を取る前の僕を帯広キリスト福音教会まで送り迎えしてくれた帯広畜産大学の助教授(現教授)の大和田琢二さんも車の中でいつも北海道/十勝への愛を語ってくれた。「陣内兄弟、僕は京都出身なんだけど、もう、帯広がほんとに好きになっちゃってねー」「昔アメリカにいたんだけどね、十勝ってなんかアメリカっぽいんだよね。その雰囲気が僕は好きでねー」。教会へ行く道すがら、大和田さんは神への愛と十勝への愛を僕にいつも聞かせてくれた。

とある冬、マイナス10度にしばれたその朝も下宿から教会に送ってもらった。大和田先生の車のフロントガラスに粉雪が舞う。「陣内兄弟、僕は十勝に来て、雪の結晶にいつも驚くんだよ。ほら、見てごらん。全部、形が違うんだ。100個の雪の結晶があったら、全部、100個とも、それぞれ形が違うんだ」。僕はよく見てみた。確かに、本当に、違うのだ。マイナス10度では雪はずっと結晶のままだから、形が違うのがよく分かる。蜘蛛の巣のような形、ヒトデのような形、十字架のような形、「コロナウイルスの模型」のような形……。全部違う。大和田先生は言った。「神様はね、雪の一粒一粒すら、違うように造られたんだ。僕たち人間もみんな違う。それぞれに素晴らしく造ってくれたんだよ。すごよねー」。本当にそうだなと思った。こんなにも幸せな目をする大人をあまり見たことがなかった。大和田先生、あなたも、素敵ですよ。

僕の人生で最初に出会った「北海道の伝道者」は大和田先生だった。北海道は「北海道の伝道者」を生み出し、北海道の伝道者が魅力的なので、さらに北海道好きは増える。そういう再帰的なポジティブフィードバックを生む力が、北の大地にはあるのだ。大和田先生にはかれこれ20年以上お会いできていない。先生、お元気かなー。


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