北アルプス・ソロ縦走旅のきろく①
DAY1(8月23日)
・折立から太郎平
新宿でバスに乗ってから7時間以上が経過、ようやく折立に近づいてきた。久しぶりの夜行バスということで、ほとんど眠れなかった。午前6時40分にバス停に降り立ち、諸々整えて7時ちょうどに登山スタート。これから始まる縦走旅に期待と若干の不安を抱えながら、一人で北アルプスの森の中へ飛び込んでいった。
今日のコースタイムは4時間20分。昼前に薬師峠テント場に着き、余裕があったら薬師岳を往復しようと考えていた。ただ、午後から天気が崩れそうなので、そこは無理せず臨機応変にいくこととする。
幸い、朝は天気が良く、、というか、良すぎて暑い。ただでさえ僕は汗っかきなのに、猛烈な暑さでのっけから滝汗状態。割と早い段階で、帽子のツバから汗が滴り落ちる始末。おまけに、まだ身体が山に慣れていないことと、初日で荷物が重い(多分20kgほど)せいもありいきなりバテ気味…我ながら情けないスタートとなってしまった。
樹林帯を抜けると風が出てくれたので助かった。やはり、夏山の風は心地よい。時間は9時半を回る頃で、振り返ると有峰湖が綺麗に見えている。しかし、既に西からはモクモクと雲が湧いてきていた。果たして天気はもってくれるだろうか。雨が降るなら、俺がテントを張ってからにしてくれ…と願いつつ、太郎平へ向かう広大な尾根を進んだ。
この辺りは良く覚えている。前回来た時は3年前、お世話になっている師匠のプランで赤木沢という沢を遡行した。薬師岳を仰ぎ見ながら太郎平めがけて登る、非常に良く整備されて歩きやすい登山道だ。雲が出てきたおかげで暑さは多少和らいだが、既に全身が汗に濡れ、靴の中はまるで渡渉でもしたようにぐしょ濡れで気持ち悪かった。一刻も早くテントを張り、靴を脱ぎたかった。
10時20分、太郎平に到着。いつもながら、別に急いだわけじゃないのに早い…太郎平小屋でテントの受付を済ませて、歩いて20分ほどの薬師峠テント場へと向かう。既に周囲はガスに覆われて展望は効かず、明日向かうであろう雲ノ平方面は見えなかった。
・薬師峠テント場
テントを張って一息つく。僕が着いた時点で張られたテントは4張だけだったので場所は選び放題!少し風が出てきていたので、藪を背にして、雲ノ平方面が開けた場所に陣取った。
服を着替えて靴と靴下を脱ぐ。靴下からは、この世のものとは思えぬ恐ろしい匂いが漂っていた。
そうこうしている間に雨がぱらつき出した。テント張った後で良かった〜!今日の薬師岳登頂は諦め、明日のご来光狙いで登ることにする。とはえ、まだ昼過ぎ…有り余った時間をどう過ごそうか。最近ハマっている小説を読んだりしてボーッとしていると雨が止んできた。お腹も空いてきたので、初日でバテた自分へのご褒美として、太郎平小屋で名物の太郎ラーメンとコカ・コーラを腹に収めて英気を養った。
夕食を食べようと食器を出してみると、百均で新調した箸が真っ二つに折れていた。変わったケース(箸の半分だけがケースに入っているやつ)だったことが災いしたのか、荷物の重みで折れたようだ。折れても使えるかと持ってみたが、流石に短すぎて使えず、フォークスプーンにバトンタッチ。ちなみに、縦走中の食事、夜はラーメンとパスタ、朝はお茶漬けを用意していたので箸がなくてもどうにかなった。
明日は2時半には薬師岳に向かって出発したいので早めにおやすみ。コースタイムが短いからとたかを括っていたが、暑さで予想以上に疲れて初日を終えた。
DAY2(8月24日)
・薬師岳ピストン
あまり眠れないまま、深夜2時過ぎにテントを出発した。さすがに半袖だと寒く、ソフトシェルを羽織って薬師平へと登っていく。頭上は満天の星、眼下には富山の街明かりが瞬く。そして、振り向くと西の空に広がる雲に稲妻が光って見えた。音は聞こえないから、相当遠いはず。この時、真っ暗な北アルプスを一人、こんな景色を見ながら歩く自分の異常さがなんだか誇らしく思えて嬉しかった。
まだ真っ暗い薬師岳に登頂して日の出を待つ。僕のすぐ後に登ってきた大学生のパーティは、雲ノ平から黒部五郎を周回して今日が最終日。この後テントを撤収して折立に下山とのこと。こういう若い学生がいてくれるというのは、登山界の将来を考えると非常に頼もしく思える。その後も続々とご来光目当てに登山者がやってきて、5時10分、雲海の彼方から太陽が顔を出すと一斉に歓声があがった。
すっかり明るくなった薬師の尾根を駆け下る。何せ今日は雲ノ平まで行くのだ。はやる気持ちはあるものの、「そんなに急ぐなよ」と言わんばかりの絶景に幾度となく足を止めて見入った。富山平野と富山湾、太郎山から連なる黒部源流の山並み…朝の優しい光を浴びて輝く絶景に心が躍る。
・薬師峠から薬師沢
テントを撤収してザックを背負うと、その重さに愕然とした。確実に昨日より重くなっている(25kgくらいか)。きっと、雨と朝露に濡れたテントのせいだ。これを背負って雲ノ平の急登を上るのか?ひっくり返って、そのまま黒部川に転がり落ちる自分を想像してゾッとした。だけど、行くしかない。憧れの雲ノ平へ!
黒部五郎との分岐を左に折れて、急斜面を薬師沢へ向けて一気に下る。薬師沢といえば、大きなイワナ。渡渉の時に橋から沢を見下ろすと、やはりいた。悠然と気持ちよさそうに漂っている。
薬師沢からカベッケが原にかけては、基本的に木道が整備されているが、朽ちて穴が空いていたり、シーソーみたいにグラグラする場所があったりで気の抜けない木道歩きだった。ちなみに、僕は一度足を取られて盛大にひっくり返り肝を冷やした。行く人は本当に気をつけて。
・薬師沢から雲ノ平
薬師沢小屋で急登を前にしっかりと休憩。ここから先は完全に未知の世界。雲ノ平の急登、一体どれほどのものなのだろうか。意を決して頑丈そうな橋で黒部川を渡る。
一度沢沿いに降りて歩き、雲ノ平を示す看板の前に立つと立ちはだかる急登が現れた。あまりの急な斜度に思わず笑ってしまった。アルプス三大急登にここを加えて「アルプス急登四天王」とするべきだろう、そんなつまらないことを思いながら登りに取り掛かる。
いつも自分で山を歩く時は、1時間に1回を目安にして休憩するようにしているが、ここの登りでは30分に1回休憩しようと決めて登った。休憩の度に大量に持ち込んだアミノバイタルをここぞとばかりにキメる。途中で3パーティ程を追い越して、徐々に傾斜が落ちてくると視界が展けてきた。そこから雲ノ平山荘に着くまでが異様に長く感じられた。通り雨にも降られて、この旅で唯一レインウエアとザックカバーを出した。
ようやく山荘の姿が見えてきた時は、「助かった…」と心の底からホッとした。山荘からテント場までの長い道のりを歩いていた時、今回の旅で絶対に見たかった景色が目に飛び込んできた。雲ノ平の中に佇む大きな山荘。頑張って辿り着いてよかった…写真で見る何倍も美しい景色のおかげで疲れも吹き飛んだ。
・雲ノ平テント場
テント場は水不足の影響でメインの水場が枯れていた。臨時で用意された水場は、チョロチョロとしか水が出ていなかった。ししおどしにはちょうど良いかなって感じ。でも、無いよりはマシ。ありがたく汲ませていただく。テントを黒部五郎がよく見える場所に張って缶ビールで乾杯。明日に備えて体を休める。
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