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ドミトリー登山

メルボルンにきて1か月弱、早くも4つのゲストハウスを経験しております。4人から12人部屋、眠りにつくのはいつも、2段ベッドの上か下です。早いところ自分の部屋を見つけたいのですが、これがなかなかうまくいかず、おまけに仕事探しも難航中。今はそういう運命なんだと思って、共同生活で起こる良いこと悪いことを、自分の中で均しながら過ごしています。

こちらにいる人の多くは、目が合えばにこっとしてくれて、軽く挨拶もしてくれます。現地での出会いを楽しみたいという、旅好きな人が多いからでしょうか。初日はそんなノリに少し緊張していましたが、いつの間にか私も、目が合った時用の笑顔を習得し、挨拶やスモールトークも勇気なくできるようになってきました。

そしてある時気づきます。この感覚は山登りに似ている。登山中にすれちがう見知らぬ人と、挨拶をするあの文化。たしかあの文化は、ただの挨拶だけにとどまらず、遭難に備えて目撃者になってもらう「証明」と、自分がこれから行く道について状況を報告をする「情報交換」の役割を持っていたはず。ゲストハウスに暮らす人は、話を聞く限り大体がワーキングホリデーです。そして大体、私と同じように仕事と家探しに苦戦しています。そうか、ワーホリはひとつの山なのか。

今日も一日、仕事探しをしてきました。感触はゼロ。半ベソでゲストハウスに戻り、ベッド下段で一人空しく小さくなっていたところ、上段のジョーダンが帰ってきました。爽やかなフランス人で、南フランスで生まれ、パリで育ったといいます。たたずまいも境遇も、絵に描いたよう。目が合うと笑顔どころか、自然なウインクを返してくれました。「How‘s your day today?」から始まったスモールトークは、いつのまにか1時間が経っていました。それまで自分の中でうごうごしていた重々しい気持ちは、数日前まで赤の他人だったフレンチとのおしゃべりのおかげで、軽くなっていました。面倒に感じる時もあるけど、登山の文化はやっぱりありがたい。見知らぬ人に癒されるのはとっても不思議です。もう一生会うことがない刹那的なものに対して親切にするという感情は行為は、全然合理的じゃないのに、どうして生まれるんでしょうか。

何はともあれジョーダン、私がメルボルンに遭難したら、誰かによろしく伝えてください。
(記 2023年11月17日)

※12月14日追加。仕事も家も見つかったよ!イエイイエイ!


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