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Interview14/ほんと、人生って。

Tさん(Kさんの奥さん・語学学校のクラスメイト)
Kさん(Tさんの旦那さん・同じ学校の生徒)

語学学校入学当初、同じクラスになった日本人女性のTさん。
消極的な私はいつも同じ席・同じクラスでこじんまりとしていましたが、
彼女はどんどん席を変え、クラスを変え、
いろんな人と交流を楽しんでいました。
その姿のなんとかっこいいことか。

さて私は学校内で、彼女が日本人らしき男性と一緒にいる姿をよく見かけていました。
聞けば旦那さんで、日本から一緒に留学に来たとのこと。
夫婦旅行ならぬ夫婦留学。
そういうやり方があるのかと、びっくりしたことを覚えています。
何がきっかけで留学を思い立ったのか、
今どんな思いで過ごしているのかが気になって、
こじんまりとしていた私はようやく重い腰を持ち上げました。
カナダで初めてのインタビューは、このお2人です。



Life is LONG

――日本にいたとき、なんの仕事をしていたの?

Tさん(奥さん)
2人とも、薬剤師です。

――ええそうだったの! かっこいい! 同僚だったの?

Tさん
いや、同僚ではなくて大学が同じだったの。卒業後は別々のところに就職して。お互い入社2年目の頃、それぞれの職場でそれぞれの先輩からワーホリを勧められたんだよね。その時は結婚どころか付き合ってもなかったかな。

Kさん(旦那さん)
うん。同じタイミングで同じことを考えてたからほんとびっくりした。たしかワーホリの話を切り出した時も、ハンバーガー食べてたよね。

Tさん
そうだった。懐かしいね(笑)。

――その業界って、海外志向の人が多いの?

Tさん
いや、あんまり聞いたことないかな。だからほんとにたまたま。
私は当時英語がしゃべれる先輩と一緒に働いてたの。その人がワーホリ経験者で、「絶対行った方がいい!」って勧められて。その時、あまり仕事を楽しめてなかったのね。もともと違う国の文化にも興味があったから、先輩の話を聞いて、なおさら海外での経験を積むのもいいなあって。大学卒業後もよく会ってた彼に、「お金貯めて時期が来たらワーホリに行こうと思ってる」って言ったのが始まり。

Kさん
僕も会社の先輩から「お前若いんだから、会社1、2年休んだところで人生にそんなに大した影響でないからさ。先は長いし今のうちワーホリとか海外行っておけ~」って言われてたんだよね。

――素敵な先輩だね。

Tさん
その後付き合うようになったんだけど、私すごい計画立てたがりで、人生設計も結構考えてたからさ。付き合ってる時に、 結婚するか、しないなら1人で海外に行きたいって気持ちを伝えたの。年齢的にもワーホリのリミットが迫ってたから焦ってた。そしたら「一緒に行く」って。すごいびっくりした。「僕は行けない」って言われると思ってたから。

Kさん
え? そうだったの? そんなに迷う理由はなかったけどなあ。

Tさん
「えっ?」って思ったよ。しかも結構即答だったしさ。それで、「行く前に籍入れよう」って話になって。それも「ええっ」って。

Kさん
決断に迷いはなかったよ。ただ決断してから頭の中ぐるぐるでしたけどね。仕事のこと、家族のこと、将来のこと、自分のことについて真剣に考えました。
一緒に行くことを決めた翌月に留学エージェントに相談して、次の月には籍を入れて、その約半年後に出発することが決まりました。

――すごいスピード。Tさんが考えてなかった新しい選択肢が決まったんだ。Kさんはなんで海外に行きたいって思ったの?

Kさん
先輩から「海外行ってみろ」って言われて、自分のわがままというか、やりたいことをやってみようと思ったから、かな。
父親が医療従事者なんだけど、小さい頃から薬剤師になれば将来安泰だって言われてたのね。幼稚園の時からずっと、将来の夢を聞かれたら「薬剤師です」って疑問も持たずに答えてました。だからなんの迷いもなく、大学も薬学部に入学したんだけど、実務実習をしてはじめて「これって本当に自分がやりたいこと?」って疑問を抱くようになって。それで父親に頼み込んで、急遽イギリスに2週間留学したんです。そこで何か見つけられないかなと思って。それで、やっぱり自分の意思を持つことって大事だなって学んだ。帰国後もう一度将来のことを考えて「ここまできたし薬剤師の免許は取るけど、やっぱり薬剤師ではない仕事を考えてみよう」と思って、視野を広げて就職先を選びました。

――初めての大きなわがままというか。自分の意思を通したんだ。

Kさん
そう。会社ではいろんな経験をさせてもらって、一通り仕事をこなせるようになってきた時に、また壁にぶつかったんです。『本当は何がやりたいんだっけ?』って。悩みつつ4年目になった時、母親にガンが見つかりまして。それで、もし今自分が同じように病気になってしまったら、人生絶対後悔するなって。

――うんうん。今までの人生とか最期を身近に考える機会があったんだね。

Kさん
そうなんです。自分の興味は、この業界以外にもあるのかもしれないと思いました。だけどその時点で、次どんな仕事をしたいのかは思いつかない。思いつかない時点で仕事を変えたとしても、結局同じ悩みにぶち当たりそうで、それは嫌だなと思いました。
だったら一回、仕事とか関係なく、やりたいことだけをやってみようって。その時に自分の中にあったやりたいことが「もう一回海外に行くこと」でした。明確な目的はなかったんですけど、行ってみたら何か発見があるかもしれないって淡い期待で。その時、先輩からワーホリの話を聞いたことを思い出したんです。

Tさん
私も、海外に行きたいと思った理由ってちょっと似てるんだ。実は私は、薬剤師は夢だったわけではなくてさ。学生時代、理系に進んだものの将来何がしたいか決まらなくて、”とりあえず”薬剤師の免許を取ったんだ。取っておけば人生苦しまないで生きられるんじゃないかなって気持ちがあったから。だからいざ薬剤師になって、やりがいとか持てなくなっちゃったんだと思う。薬剤師の仕事の楽しさを、あんまり人に話せないんだよね。

“やりたいこと”よりも“できること”ばかり選んで生きてきたから、今度は“やりたいこと”をひたすら掴んで生きてみようかなって。カナダに来ることもそのひとつだし、今後何をやりたいか、海外で探すのもいいなって思ったの。

――2人とも“自分にできること”じゃなくて“自分がやりたいこと”に従ってみようって想いでここに来たんだね。

出発前に見つけてしまった

――あれ、当初の予定では1年間滞在するつもりだったんだよね?

Tさん
そうなの。コロナの影響で1年半延期して、結局2か月間の滞在になりました。その間日本で待機していたんだけど、結果的にすごいよかったよね。

Kさん
うん。個人的には大きな出会いもあったし。

――大きな出会い?

Tさん
そう。なんで1年滞在の予定が2か月に縮んだかっていうと、Kがやりたいことを見つけたからなの。日本で待機してる間、Kが漢方薬に興味を持ち出して。

――へええ!また新しい展開があったんだ。

Tさん
ほんと、人生って予定通りに進まないよね。

Kさん
進まないけど、得たものは大きい! 漢方薬ってさ、薬剤師の中でも考え方が二分するのね。本当に信じてる人と、胡散臭いって思ってる人。Tは前者で、僕は後者だったんです。「こんなん飲んでも効かねえだろ」って思ってました。

Tさん
私は風邪をひきそうな時によく漢方薬を飲んでて、Kは体調が悪くなってから、いつもパブロンを飲んでたの。

Kさん
それがうちの家訓だったんだよ。「何か違和感があったらパブロン飲め」っていう。でもある時Tに葛根湯っていう有名な漢方薬を勧められて、飲んでみたら翌朝「あれ?調子いいな」って。

Kさん
その後、歯の痛みで高熱が出た時に、近くの病院の先生に漢方を処方してもらったんだけど、それがすごいよく効いたんだよね。発汗させて治す治療というか。
あとはうちの親戚にあたる人が、慢性膵炎だったんです。検査値的にとんでもなく悪くて、命の危険もあるくらいどうしようもない状況だったんだけど、漢方を飲んだら、すっかりよくなったって実例を聞いたんです。

Tさん
漢方のおかげで、今はもうお酒も油物も食べられるくらい元気になった。値も正常の範囲内に収まったんだよね。本当はどちらも控えた方がいいんだけどね(笑)。

Kさん
「漢方、ここまですごいのか」ってびっくりしました。そこから本とかセミナーで自学するようになりました。
これまではTから漢方のすごさを聞いてたのに、いつの間にか自分が漢方を熱く語るようなった(笑)。それでTが、「それ次の仕事にしてもいいんじゃない?」って。

Tさん
そしたらこれも偶然で、その、慢性膵炎を治すために漢方を処方した先生が薬剤師を募集してたの。Kは最初すごい躊躇してたんだけど、「絶対応募した方がいいよ!」って。

Kさん
背中を押してくれました。でも当初断られてしまって。でもまたTが、「熱意だけは伝えろ!」ってまた背中を押してくれて、その後手紙も送りました。「週に一日だけでもいいので、どうしてもあなたのところで働きたいんです、勉強したいんです」って。そしたら電話がかかってきて、「熱意は分かりました。本当は定員なんですが採用したいと思います」って。

――おおお!!  行動したKさんも、背中を押したTさんもかっこいい!

Tさん
帰国も待ってくれるってことで、だから留学期間が伸ばせなかったんだ。

――なるほど、だから2か月。

Kさん
そうなんです。カナダで見つけようと思ってたことが、延期期間に見つかっちゃった。

Tさん
人生って本当にわかんないよね。予定通りにはいかないけど、それは悪いことではないし、なんか、面白いなって。

留学2週間目の収穫

――実際にカナダに来て、どう?

Tさん
来てよかったなってすごい思う。たくさんの人たちに出会って、日本で暮らしているだけだったら知ることもなかったような人生や文化について知ることができたから。

ルームメイトがメキシコの子なんだけど、その子が話してたことが結構衝撃的だった。彼女が住む町では、女の人が一人で道を歩けないしタクシーにも乗れないんだって。誘拐されたり殺されたりしてしまうから。だから彼女は将来、治安のいいアメリカかカナダで暮らしたいから英語を勉強してるんだって。英語ができれば、いい仕事に就けるし生活ができるから。

フィリピン人のホストマザーも、イラン人のホストファザーも、安心できるところで暮らしたいと思ってそれぞれ単身でカナダに来たらしくて。そういう国もあるんだな、そうやって生きるために必死に英語を勉強してる人がいるんだって思った。英語に対する必死さが、どう考えても日本人とは違う。自分がどれだけ恵まれてて、能天気に生きてきたか。そういうことを知った上で日本に帰ったら、生き方も変わってくると思う。

――日本人からはなかなか聞けないような話を聞いたんだね。そういう話、確かに自分の生活を考えさせられるなあ。

Tさん
あと、休み時間とかにちょっと会話をするときも、国によって出てくる話題が違って面白いよ。南米の人はよく「これからどう生きてくの? どこで生活していくの?」みたいな話とか、自分の国がなぜこうなったのか、歴史について話題に上がることが多いんだよね。逆にヨーロッパの人は、どっちかっていうと日本人に感覚が近くて、海外旅行の話とか、娯楽の話になることが多い気がする。

――2週間ちょっとでそれだけの気づきがあったってすごいね。

Tさん
私はいろいろクラスを変えてみてるんだけど、クラスによって人種や国籍の比率が変わってくるから面白いよ。2か月だけだし、日本ではできないことがしたい。カナダにいる間にできるだけ英語力を伸ばしたいし、私は他の国のことについてすごい興味があるから、いろんな国の人から直接生の声を聞こうって思いながら動いてるかな。

Kさん
本当にすごいと思う。Tは目的を決めたら躊躇しない人だよね。

Tさん
いやでもKと一緒に来ていることが救いになってると思う。辛い時、すごいフォローしてくれるし。このクラスに居場所がなくても、私には居場所があるって思えるから躊躇せず頑張れているんだよ。

Kさん
Tからは背中を押されてばかりだし、お互い様。僕も2人で来て良かったって思います。

2人でつくる薬局

――ああ素敵な関係性だ……。Kさんは帰国後漢方の道に進むということだけど、Tさんは現時点、今後をどう考えているの?

Tさん
私はねえ……。クリエイティブな仕事がしたいなって思ってる。ルーチンワークより、何もないところから何か考えるような仕事。例えばプロモーションとか経営に関してアイデアを出すとか。医療以外の業界でもいいんじゃないかとも思ってて。プランを立てるのも好きだから、旅行会社で働くのもいいな。

あとこれはビッグドリームかもしれないんだけど、Kが漢方の会社で一人前になったら、2人で薬局をつくろうっていう話もしてる。

――えええ! すごい!! かっこいい!!

Tさん
そうなったとき私は、経営の面で力になりたいなと思ってて。同じゴールを目指すパートナーになりたい。それが結局クリエイティブっていう私のやりたいことにつながってるしね。だから今後は仕事をする上でも、いろいろな視点で物事を見ながら今まで以上に有意義に働けるんじゃないかなって思ってる。

ほんとはね、こっちの薬剤師にも話を聞いてみたいんだ。ネットの情報だけど、海外の薬剤師って、調剤が主な仕事とは限らないみたい。患者さんに話を聞いて症状に合う市販薬を選んで説明してあげることも主な役割になってるらしいの。ちょっと具合が悪くなった時、日本だったら「お医者さん行ってみよう」となりがちだけど、医療費が高額な国だと、「まずは薬剤師さんのところに行ってみよう」になるんだって 。それでも治らなかったときにようやく病院に行くみたい。

私が将来的につくりたい薬局って、体調が悪くなった時も、悪くなる前でも相談できるような、新しいスタイルの薬局。それって、海外の薬局に近しいものがあるんだよね。

Kさん
今の日本は保険制度が手厚いから簡単に病院に行けるけど、少子高齢化が進むとその体制も崩壊していくかもしれない。崩壊すればみんな高額な費用を払わなきゃいけなくなるから、病気になりたくないって予防のために薬局に来る回数が増えると思う。まずは薬剤師に相談する、みたいな薬局は必要になってくるんじゃないかな。

Tさん
そう。だから話聞きに行きたいんだけどさあ。近いうちに患者のふりして行ってみる(笑)? 薬剤師さんはまず何を聞いてくるのかな。

Kさん
カナダにはいろんな人がいるから、人種によって勧める薬も違ったりして。「アジア人だったらこの薬の方がいいよ」みたいな。そういう勧め方って日本にはないから、聞けたら面白そう。でも、「頭痛?じゃあこれ」。みたいな感じで結構さっぱりしてたりして。

Tさん
たしかに(笑)。それはそれで経験だよね。やりたいこと、どんどんやっていこう。

(おわり)



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