【ゲーム企画 BOOT CAMP!!】Part2 コンセプトは迷える開発者の指針!
クリエイターの皆さん、こんにちは。CAMP隊員ほりきりです。
集英社ゲームクリエイターズCAMPをご利用いただきありがとうございます。
本日は、先週から始まりました「ゲーム企画 BOOT CAMP!!」の第2回をお届けいたします。
この連載では「GAME BBQ Vol.2に応募してみたいけれど、企画書ってどう書いたら良いのかわからない」という方に向けて、CAMP隊員ほりきりがプロの現場でゲームプランナーとして培ってきた経験を元に、ゲーム企画の考え方から企画書の書き方までを、なるべくわかりやすく解説していきます。
連載は全5回を予定しており、各回で取り上げるテーマは以下を予定しております。
企画書は何のために書く?
コンセプトは迷える開発者の指針!(今回)
ゲームシステムとゲーム性
長く遊ばせるための「ゲームサイクル」
頭に入ってくるプレゼン方法
本連載や「GAME BBQ」の主旨については、第1回の記事で解説しておりますので、まだご覧になっていない方は、ぜひ先にそちらをご覧ください。
それでは今回の解説に入りましょう。
「コンセプト」って何? なぜ必要なの?
ゲームに限らず何らかの企画立案について勉強したことがある方なら、おそらく「企画はコンセプトが大事」という認識は持たれているのではないでしょうか。
「コンセプト」という単語自体は耳慣れたものだと思いますが、では「コンセプトを書け」と言われたとき、具体的には何を書けば良いのでしょうか?
実は、プロの開発者の間でも「コンセプト」の解釈は分かれるところで、人によって少しずつ認識が違います。
したがって画一的な定義はできないのですが、本連載は「王道的な部分をわかりやすく」というスタンスなので、多くの方が「コンセプトに必要不可欠」と考えるであろう要素に絞って解説します。
さて、コンセプトの定義は一旦置いておいて、「コンセプトがなぜ必要か?」というお話をしたいと思います。
それは、作っている(あるいは作った)ものが「どんなゲームか?」を端的に伝えるためです。
皆さんも一度は、市場で売られているゲームを人にオススメするときなどに、「どんなゲームか?」を説明したことがあると思います。
「オーソドックスなRPGで……」
「バトルはコマンド式で……」
「こういうキャラクターがいて……」
などなど。
しかし言葉を尽くして語ってみても、どうにも説明的になってしまい、なかなか「面白そう!」と思ってもらえず、歯がゆい思いをしたのではないでしょうか?
まさにそういうとき、ズバッと「どんなゲームか?」を伝えるために、コンセプトは必要なのです。
上記のようにゲームシステムやシナリオなどを一生懸命に説明しても、「面白さ」が伝わりにくいのはなぜでしょう?
それは「結局、どういう風に面白かったの?」という情報が抜けているためです。
プロのゲームデザイナーでも、言葉だけでゲームシステムを説明されて、得られる体験を100%イメージできる人はそういません。なので「自分がどう感じたのか」も併せて話さないと、伝えたかった「面白さ」はなかなか伝わりません。
そこで本記事では、コンセプトを
「どんなゲームだから、どう面白い」を一言で表したもの
と定義してみます。
例えば以下のような感じです。
敵地に単独潜入するステルスアクションゲームだから、「隠れて進むスリル」が面白い。
アイテムありギミックありのバラエティレースゲームだから、初心者から上級者まで「抜きつ抜かれつのデッドヒート」が面白い。
弁護士となって証言の矛盾を突きつけるアドベンチャーゲームだから、「嘘つきを論破して倒す快感」が面白い。
※上記は個人的な想像であり、実在するタイトルのコンセプトと必ずしも一致するものではありません。
ちなみに「どう面白い」という部分は、ユーザー体験(User experience)の略で「UX」と呼ばれたりします。今後もよく使う単語なので、ぜひ覚えておいてください。
ゲーム開発では、人に「どんなゲームか?」を説明する場面はたくさんあります。例えば以下のような場面です。
一緒に開発するメンバーに企画を説明する。
パブリッシャーに開発中のタイトルを売り込む。
イベントでお客さんに説明する。
しっかりコンセプトが定まっていれば、こういったときに一言で重要な部分を伝えられるのです。
また、あとで詳しく解説しますが、開発中に「どんな仕様が必要か?」を考える上でも、コンセプトは非常に重要な役割を担います。
どうやって考えればいいの?
さて、「コンセプトとはどんなもので、なぜ必要なのか」をお話してきましたが、ではどうやって考えれば良いのでしょうか?
シンプルなカジュアルゲームならともかく、ほとんどのゲームにはたくさんの機能がありますので、「どんなゲーム」も「どう面白い」も、たくさん挙げられると思います。
しかし、思いつく限りの要素を詰め込んでも「『どんなゲームか?』を端的に伝える」という役割は果たせないため、最も重要な部分のみにフォーカスする必要があります。
最も重要な部分、つまり「最もやりたいこと」です。
それを見極めるべく、まずは思いつく限りの「やりたいこと」を書き出してみましょう。例えば以下のような感じです。
小さくてかわいいキャラクターが、たくさん出てくる。
みんなで協力する(マルチプレイ)。
童話のような世界。
世界観は平和でも、ゲーム性では「ハラハラドキドキ」させたい。
協力はあっても、「ギスギス」した感じにはしたくない。
ワンプレイは短く、気軽に遊べるようにしたい。
初心者も上級者も、気兼ねなく遊べるようにしたい。
キャラクターを着飾ってオリジナリティを出したい。
このときの注意ですが、あくまで「作りたいゲームの構成要素」を挙げるのであって、「作った結果」のことは書かないようにしましょう。例えば「老若男女に人気」とか「有名な賞を取る」とか、そういったことは目標として掲げるのは良いことだと思いますが、コンセプトとは別の話になります。
ひと通り書き出したら、今度は重要な部分に絞っていきます。
まずは一番大事な「どう面白い(UX)」を探し出しましょう。書き出した要素から、体験にまつわる部分を切り出してみます。
「ギスギス」しない協力
ハラハラドキドキ
気軽に遊べる
他者に気兼ねなく遊べる
オリジナリティ
他の項目に似ている部分や、サブ的な要素だと思う部分は省いていき、絶対に欠かせないと思う部分にしぼりましょう。今回は上記で太字にした3要素をメインと考え、UXを以下のようにまとめてみました。
気軽に協力しながら「ハラハラドキドキ」できて面白い。
UXが決まったところで、今度は「どんなゲーム」の方を考えていきます。
こちらはUXと合わせたときに「どんなゲームだから、どう面白い」という一文に繋がらないといけないので、逆に「UXを実現するには、何が必要か」と考えていきましょう。
まず「気軽に協力」について考えてみましょう。このままだと曖昧なので、もう少し具体化してみましょう。
協力、つまり複数人でひとつの目的の達成を目指す。
ミスしても怒られない。
短時間で遊べる。
まずは簡単なところから。「短時間で遊べる」は単純に時間制限があれば良さそうです。できれば、単なるシステムではなく世界観としての理由付けがあるとベストです。
「協力しつつもミスは怒られない」というのは、一見すると相反しており、なかなか両立が難しそうです。
こういう場合は発想を逆転させてみましょう。例えば「協力といいつつ、裏で競争もしている」としたらどうでしょう。同じ目的に向かいつつも、その貢献度に応じて順位が付くシステムであれば、誰かがミスをしても「しめしめ、今のうちに貢献度を稼ぐぞ……」と思えるのではないでしょうか?
「ハラハラドキドキ」はいろんな方向性がありそうですが、最初に挙げた項目に「かわいいキャラクター」「童話のような世界」とあるので、少なくともホラーゲームのような「恐怖のドキドキ」ではなさそうです。
そういえば、さきほど「時間制限が必要」という話が出てきましたので、「時間が迫るハラハラ」という方向性は相性が良さそうです。
さて、だいぶ作るべきものが見えてきました。ここまでで見えてきた要件をまとめると、以下のようになります。
制限時間が迫る焦りで、ハラハラドキドキする。
協力といいつつ、裏で競争もしている。
ここに、UXとは別の部分で挙げていた「やりたいこと」の中で、特に重要そうな要素も混ぜ込んでいきましょう。
小さくてかわいいキャラクターが、たくさん出てくる。
童話のような世界。
ここまで来たら、最後はひらめきの勝負です。
童話のような世界のかわいいキャラクターたちが、制限時間の中で、協力といいつつ競争もしているゲームとは……?
最終的には、以下のようにまとめてみました。
妖精たちが人間にバレないよう夜明けまでに靴を作りあげ、一番の靴職人を決める協力&競争ゲーム。
「靴を作る妖精」というのは、アイルランドのおとぎ話に出てくる「レプラコーン」をモチーフにしています。童話的で、かつ協力や競争のゲーム性にも合わせられたので、なかなか悪くないのではないでしょうか。
UXとつなげると、コンセプトは以下のようになりました。
妖精たちが人間にバレないよう夜明けまでに靴を作りあげ、一番の靴職人を決める協力&競争ゲームだから、気軽に協力しながら「ハラハラドキドキ」できて面白い。
……ちょっと長いですが、許容範囲ということにします。
まとまっても終わりじゃない!
コンセプトもまとまり一件落着……ではありません。一度まとまったところで、冷静かつ客観的に見直してみましょう。
「それって○○(既存のゲーム)と同じじゃない?」
とはなりませんでしたか?
そうなってしまった場合、既存のゲームとの違いを考えて、要素の追加や変更を行いましょう。
何の違いも見いだせなかった場合、お客さんやパブリッシャーも同じように感じるはずなので、商品として売り出すのは難しくなってしまいます。
もちろん趣味として作るのであれば、問題はないのかもしれません。しかしそうであっても、どうせなら多くの人に遊んでもらいたいのではないかと思いますので、もうひと粘り、考えてみることをオススメします。
コンセプトは開発においても重要!
コンセプトは「どんなゲームか?」を人に説明する上で重要というお話をしましたが、実はそれだけではなく、ゲームの開発自体においても重要な役割を担います。
開発におけるコンセプトの役割とは「判断軸」です。
ゲームを開発していると、様々なアイデアが浮かんでくると思います。
「こんなアイテムがあったら面白そう」
「こんな機能があったら便利」
「こんなモードで遊ぶのも楽しそう」
などなど。
しかし、それらを思いつく先から実装していては、いつまで経ってもゲームが完成しません。それどころか「いろんな機能が入り混じった、よくわからないゲーム」になる危険性すらあります。
そんなときは「コンセプトの実現に必要か?」を判断基準にしましょう。
思いついたアイデアに対して「コンセプトの実現のために、このアイデアは必要である」ということが説明できるか、自問自答してみてください。
さきほど作り上げた、以下のコンセプトを例に考えてみましょう。
妖精たちが人間にバレないよう夜明けまでに靴を作りあげ、一番の靴職人を決める協力&競争ゲームだから、気軽に協力しながら「ハラハラドキドキ」できて面白い。
さて、このゲームを開発している途中で、以下のようなアイデアが浮かんできたとします。
途中で寝ていた人間が起きてくることがあり、バレないように急いで隠れないといけないギミック。
チームで一つずつ靴を作り、速度や品質を競うモード。
ひとつ目のアイデアは、コンセプトの実現に必要そうでしょうか?
目指すUXには「ハラハラドキドキ」というのがありますので、人間にバレないように隠れるというのは合っていそうです。「靴作りだけに集中しすぎてしまうと、隠れるのが間に合わない」みたいなジレンマがあれば、良いスパイスになりそうですね。
では、ふたつ目のアイデアはどうでしょう。
一見すると悪くないようにも思えますが、このゲームは「気軽に協力」をコンセプトにしているので、チームでの密な連携が必要になったり、自分のミスがチームメイトの損失になるような仕様は、コンセプトに反しています。
このように取捨選択をすることで、コンセプト通りのゲームを作り上げることができます。
ひとつ重要な注意点として「コンセプトを開発途中で変えてはいけない」というのがあります。
先述の通り、ゲームのさまざまなアイデアは、コンセプトに沿って取捨選択されていきます。そうして進んできた中、途中でコンセプトを変えてしまうと、前のコンセプトでは必要だったはずのアイデアが、新しいコンセプトでは必要無くなってしまうかもしれません。
一度立てたコンセプトは、完成まで首尾一貫して掲げ続けるのが大切です。
最後にまとめと補足
今回は、以下のようなことを解説してきました。
コンセプトは「どんなゲームか?」を端的に説明できる。
コンセプトは「どんなゲームだから、どう面白い」で表す。
コンセプトは「アイデアが本当に必要か」の判断軸になる。
ただし、冒頭でも説明した通り「コンセプト」の解釈は人によって異なるもので、絶対的な正解はありません。
例えば、「どう面白い?」というゲーム的コンセプトと、「なぜ売れる?」というビジネス的コンセプトを分けて考える人もいますし、「ゲームシステム」と「シナリオ」でそれぞれコンセプトを考える人もいると思います。
ぜひ皆さんも、慣れたら自分に最適なやり方にアレンジしてみてください。
また「コンセプトは判断軸」というお話をしましたが、ゲームに含まれるすべての要素が、コンセプトのためだけに存在するわけではありません。
「作りきれる規模に抑えるため」
「より多くの人が遊べるように」
「プラットフォームに対応するため」
などなど。さまざまな要因があることは、覚えておいてください。
次回は「ゲームシステムとゲーム性」というテーマで解説していく予定です。「ゲーム性とはなにか?」「企画書でゲームシステムはどう説明すれば良い?」などといったことをお話していければと考えておりますので、ぜひご期待ください。
CAMP隊員ほりきり