組織風土改革はなぜ難しいか?

なぜ組織風土改革は失敗するのか?

横行する改ざんや不正を受け、多くの企業がいわゆる「組織風土改革」のプロジェクトに手を染めていますが、どうもうまく行っているケースはほとんどないように思います。

今日、ビジネススクールで教えられている組織開発=Organizational Developmentの基礎的な領域を一人で築き上げた巨人、エドガー・シャインは、その著書「組織文化とリーダーシップ」において、組織文化「だけ」を変えようとする試みは必ず失敗する、と述べています。

この本、組織開発やリーダー育成に関わっている人にとっては必読の一冊だと思いますが、なぜシャインがそのように指摘しているかというと、組織文化というのは、仕事をやる上での価値観の優先順位のシステムなので、仕事のやり方・・・もっと言えば最上流の経営戦略やビジネスモデルが変わらない限り、組織文化だけを変えようとしても絶対に変わらない、ということなんですね。

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この点を考えた時に、有用なインサイトを提供してくれるのがクルト・レヴィンの研究です。組織心理学や社会心理学といった細かい領域に心理学が分かれるまえの源流となる研究を行った人ですね。2002年に発表され調査では、20世紀中で最も引用された心理学者としてレヴィンがランクインしています。

組織の中における人の振る舞いはどのようにして決まるのか。クルト・レヴィン以前の心理学者、中でも特に「行動主義」と呼ばれる分野の人々によれば、それは「環境」というのが答えでした。

しかし、レヴィンは「個人と環境の相互作用」によって、ある組織内における人の行動は規定されるという仮説を立て、今日ではグループ・ダイナミクスとして知られる広範な領域の研究を行いました。

レヴィンはさまざまな心理学・組織開発に関するキーワードを残していますが、ここでは中でも「解凍=混乱=再凍結」のモデルについて、説明したいと思います。

レヴィンのこのモデルは、個人的および組織的変化を実現する上での三段回を表しています。

第一段階=解凍

第一段階の「解凍」は、今までの思考様式や行動様式を変えなければいけないということを自覚し、変化のための準備を整える段階です。当然のことながら、人々は、もともと自分の中に確立されているものの見方や考え方を変えることに抵抗します。

したがって、この段階ですでに入念な準備が必要となります。具体的には「なぜ今までのやり方ではもうダメなのか」、「新しいやり方に変えることで何が変わるのか」という二点について、「説得する」のではなく「共感する」レベルまでのコミュニケーションが必要となります。

第二段階=混乱

第二段階の「混乱」では、ここでは以前のものの見方や考え方、あるいは制度やプロセスが不要になることで引き起こされる混乱や苦しみが伴います。予定通りにうまくいかないことも多く、「やっぱり以前のやり方の方がよかった」という声が噴出するのがこの段階です。したがって、この段階を乗り切るためには変化を主導する側からの十分な実務面、あるいは精神面でのポートが鍵となります。

第三段階=再凍結

第三段階の「再凍結」では、新しいものの見方や考え方が結晶化し、新しいシステムに適応するものとして、より快適なものと感じられるようになり、恒常性の感覚が再び蘇ってきます。この段階では、根付きつつある新しいものの見方や考え方が、実際に効果を上げるのだという実感を持たせることが重要になります。そのため、変化を主導する側は、新しいものの見方や考え方による実際の効果をアナウンスし、さらには新しい技能やプロセスの獲得に対して褒賞を出すなど、ポジティブなモメンタムを生み出すことが求められます。

レヴィンによれば、ある思考様式・行動様式が定着している組織は変えていくためのステップが、この「解凍=混乱=再凍結」ということになるのですが、ここでポイントになっているのが「解凍」から、このプロセスが始まっている、という点です。というのも、この「解凍」というのは、要するに「終わらせる」ということだからです。私たちは、何か新しいことを始めようというとき、それを「始まり」の問題として考察します。当たり前のことですね。しかしクルト・レヴィンのこの指摘は、なにか新しいことを始めようというとき、最初にやるべきなのは、むしろ「いままでのやり方を忘れる」ということ、もっと明確な言葉で言えば「ケリをつける」ということになります。

キャリアの転機における「混乱期」の重要性

同様のことを、個人のキャリアの問題を題材にしながら指摘しているのが、米国のウィリアム・ブリッジズです。ブリッジズは、人生の転機や節目を乗り切るのに苦労している人々に集団療法というセラピーを施してきた臨床心理学者です。

ブリッジズが臨床の場で出会った患者は千差万別であり、ひとりひとりの「転機体験」は非常にユニークなもので一般化は難しい。転機の物語も人それぞれにユニークなものだったはずですが、「うまく乗り切れなかったケース」を並べてみると、そこに一種のパターンや、繰り返し見られるプロセスがあることにブリッジズは気が付きます。

そしてブリッジズは、転機をうまく乗り切るためのステップを「終焉(今まで続いていた何かが終わる)」→「中立圏(混乱・苦悩・茫然自失する)」→「開始(何かが始まる)」という3つのステップで説明しています。

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