敵をレバレッジする

メリークリスマス。

クリスマスは言うまでもなくイエス・キリストの誕生をお祝いするお祭りですね。その誕生から2000年以上を経てなお、世界が未だに祝福しているわけですが、そのイエスは大衆によって処刑されました。つまり、現在の世界においては、これ以上はないと言うほどの愛と尊敬をもって語られる彼も、かつては人々から憎悪と軽蔑をもって語られていたということです。

イエスに限りません。ソクラテス、ジョルダーノ・ブルーノ、ジャン=ポール・マラー、坂本龍馬、マーチン・ルーサー・キング・ジュニア、モハンダース・ガンジー・・・現在の世界において、最も尊敬を集めている社会改革のリーダーの多くは、暗殺によってその生涯を終えています。

この事実は、リーダーというものが持つ二面性をよく表しています。愛されるだけのリーダーなどというものは存在しない、リーダーというのは、愛されるのと同僚の憎悪もまた同時に生み出してしまうものだ・・・ということで、この話は以前にNOTEの記事でも取り上げました。

ということで、記事の結論は「嫌われること」を気にしなくていい、ことなのですが、今日はより積極的に、イニシアチブを前に動かすにむしろ「敵をレバレッジする」ということについて考えてみようかな、と。

私たちは、尊敬と軽蔑、愛情と嫌悪といった感情を真逆のものとして捉えてしまいがちですが、これらの感情は、私たちが思うほど離れたものではなく、むしろ表裏一体という側面があります。

今日でいうところの心理学という分野の開祖であるジークムント・フロイトは、精神分析のプロセスにおいて、嫌悪や軽蔑などのネガティブな感情が、しばしば愛情や尊敬などのポジティブな感情の裏返しとして表出することを発見し、この現象を「転移」という概念で整理しました。

愛情と嫌悪が真逆の関係ではなく、表裏一体の関係であるとすれば、それらが同時に生成されるのも当然のことでしょう。では愛情や嫌悪という高エネルギーの感情と真逆の関係にあるものは何か?それは低エネルギーの感情、すなわち無関心であり、つまりは転移の解除ということになります。

フロイトの言う通り、もしこれらの相反する感情が表裏一体のものであるとするならば、そもそも片方だけを求めようとすること自体が無理だということになります。

さらに指摘すれば、クリティカル・ビジネスのアクティヴィストは、活動に対して批判的な人々・・・一言でいえば「敵」が有する嫌悪や軽蔑といったネガティブなエネルギーを、いわば反作用のようにして運動の推進力として利用するというプラグマティックなアプローチも考えるべきでしょう。

特に、運動のために動員できる資源が限られているクリティカル・ビジネスの実践の初期段階においては、運動に批判的な立場をとる人が持つ膨大な「嫌悪や軽蔑のエネルギー」を、運動を推進するためのエネルギーとして大いに利用すべきです。つまり「敵をレバレッジする」という考え方です。

過去の歴史を振り返ると、批判が大きなエネルギーとなって運動や個人の社会的認知が高まったという事例は数えきれないほどあります。

たとえばガリレオ・ガリレイの唱えた地動説は当初、まったく受け入れられませんでしたが、カトリック教会による異端審問にかけられたことがきっかけとなって大きな注目を集めることとなりました。カトリック教会という「大きな権威」によって名指され、ヒステリックに批判されたことが、逆にガリレイの学説の「脅威としての強度」を明証してしまったわけです。

同様のことは現代においてもしばしば起きています。鳴かず飛ばずだった社会学者のニコラス・ルーマンはすでに世界的名声を獲得していた哲学者のユルゲン・ハーバーマスからの批判をきっかけにした論争によって、一躍、世界的な知名度を獲得しています。

レヴィ=ストロースもそうですね。それまで、言うならば「通人」にしか名前を知られていなかった人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは、サルトルからの痛烈な批判がきっかけで一般社会に知られることになりました。あのサルトルが、ここまでムキになって反論しているということは、よほどすごい人なのだろう、と言うことです。

これらのエピソードに共通しているのは、すでに社会的に名声を獲得している人や組織からの批判・攻撃によって、批判・攻撃された側が逆に存在感を高めている、ということです。

しかしなぜ、敵による批判が結果的に真逆の効果をもたらすのでしょう?答えは「運動はネガティブにせよ、ポジティブにせよ、情報を食べて大きくなるから」です。

単純に考えてみましょう。世の中の1/10の人が共感してくれるアジェンダを掲げた人が、ある有名な組織や個人に批判されたとしましょう。当然の結果として、その批判を通じて、多くの人がそのアジェンダの存在を知ることになります。このアジェンダに共感をしてくれる人の出現率は1/10ですから、批判を通じてアジェンダの存在を新たに知った人のうち、1/10の人々は、このアジェンダに共感し、当初の批判とは裏腹に、味方になってくれることになります。

そしてまた、この1/10の人々が、自らの発信力を用いて、今度はポジティブな情報を社会に発信してくれることで、さらに共感する人は増えていくことになります。

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