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Demi-plié, merci ! : ドゥミ・プリエ、メルシー!

『バレエから歌と台詞が徐々に排除され、踊りと身振り(マイム)によって物語が語られるようになった』。

僕自身が最も足を運んでいる舞台芸術はバレエで、主にパリのオペラ座の公演を観ています。
今住んでいる場所は、ガルニエにもバスチーユにもアクセスが良く、アクセスが良いと思っているのは僕だけではなくて、気付けばオペラ座のエトワールまで同じ駅から出勤していることがわかりました。舞台で観ている彼や彼女たちと、同じ野菜屋さんの列に並んでいるのは、何ともシュールなスペクタクルです。

今となっては、バレエの専門家にマイムを教えることもありますが、逆に僕がバレエを習っていたのは、20年前になります。マルセル・マルソーのマイム学校ではクラシックバレエも必修授業で、2人の先生に師事しました。

はじめてのバレエの先生はカザティというパリオペラ座出身のおじいさんの先生でした。眼鏡の向こうの目がピクサーアニメのキャラクターのようにぎょろぎょろしているのが怖くて堪らなかった。目が全く笑っていない、張り付いたような笑顔がデフォルトの表情。

ピアニストの演奏に合わせて
「ドゥミプリーエ!グランプリーエ!」
と大声をあげながら上機嫌で歩いているかと思うと、トップスピードで走り始め、その笑顔を一気に僕の顔面10㎝位のところまで近づけて来て、
「ドゥミプリーエ!!ドゥミプリーエ!!!メルシー!!!!」
と、驚かしに来る。
僕が何かを出来てないから怒鳴りに来たのか、ただそうしたいからそうしただけなのか、アクションの意味が全く分からない。

これをドゥミプリエと言ってはいけません。©Daido Hiroyasu

ある時などは、いつものように目だけが笑っていない笑顔で空中を見ながら、「ドゥミプリーエ!」の抑揚とリズムそのままに、「ゆーっくり!もーっと、ゆーっくり!」言い始めた。
何がもっとゆっくりなのか、疑問に思いながらも僕たち生徒はプリエを続けていると、例のトップスピードでピアノ伴奏の老婦人のところに飛んでいき、

「もっとゆっくりだって言ってんだろ!何年バレエのピアノ伴奏やってんだよ!!」と、楽譜をびりびりに破いてしまった。

因みに僕がカザティに習った一年間で楽譜を破いたのが4回、ぐちゃぐちゃに丸めてしまったのが2回、そのうち1回は丸めた後に食べた。とにかくこの先生と同じ空間にいること自体が、既にマイムを習っているようだった。

2年目はカザティの体調不良に伴い、恐らく学校の史上初めて、ラザレリという別の先生が教鞭を代行しました。これが僕の2人めのバレエの先生です。

ラザレリはメキシコ国立バレエ団の元プランシパル。
さすがに当時パリのマレオープンダンススクールで一番人気の先生だったこともあり、(狂ったおじいさんのカザティと違い)僕たち生徒の目の前でピルエットを5回回ってくれたりして、心底嬉しく思ったのも束の間。この先生は熱すぎて厄介だった。

ある日などは、「先生、熱が38度5分あるのでさすがに見学させてください」と申し出ると、「…シュウ、見損なった。……俺は、お前だけは、そんな理由で休むやつじゃないと思ってたよ」。
踵を返して「帰れ」と、熱い調子で伝えられる。

そんな言い方をされたので、「これは以上具合悪くなったら貴方のせいだからな!」、となかばヤケクソの気持ちで結局僕は授業に出ることにし、案の定汗びっしょりになっていると、その後ベタ褒めしに来たことは未だに昨日のことのように覚えている。アルブレヒトに裏切られては舞い、裏切られたといって僕を散々踊らせるジゼルさながらの疲労感は、現実世界に必要ない。

本人も熱ければ、生徒の好みも「とにかくパッションを感じさせる」事が重要なようで、技術的なことはイマイチでも、表現が熱い生徒を褒める褒める。

「ヴェルーナ!いいぞ!みんなヴェルーナのように!なぜ!やらないんだ!!」と、情熱あふれる動きのイタリア人の生徒を名指して言うもんだから、「なんだ、熱くやれば褒められるのか」と思い、それをみんながみんなそう思ったものだから、全員が無駄にパッションを込めて動き始めると、授業全体がもうバレエじゃなくてフラメンコ気味になる。

ラザレリ先生は一般興行でもある、僕たちの卒業公演を観に来てくれた。
公演後のバックステージで、全18作品の中、たった一つ僕の作品だけを手放しで褒めてくれて、やっぱりいつものスピードで風のように帰っていった。

後日マレのオープンクラスでの自分のレッスンにたまたま出席していた僕の友人であるダンサーにまで、「君は日本人か?オクノを知ってるか!?」と、授業中に興奮気味に言ってくれていたらしい。

「お前たちはマイムをしにこの学校へ来ているんだから、バレエなんてしょせん馬鹿にしているんだろう」
と言っていたラザレリ先生が、マイムを評してくれて、飛び上がるほど嬉しかったこと、それが凄く自信になったのを覚えている。 

なぜバレエの話を唐突に始めたかと言うと、東京のダンススタジオに、バレエダンサーの友人が、公演のフライヤーを設置してくれたからです。


東京・田町の『アーキタンツ』に設置されています。
アーキタンツでは、友人のバレエダンサー・近藤美緒さんのクラスを受講できます!

9月14日から24日まで、豊岡演劇祭2023にてソロの舞台を上演します。タイトルは『BLANC DE BLANC―白の中の白―』。身体表現とマイムによる、言語を使わない一人舞台です。
60分のオムニバス形式の演劇作品です。短編集を開くような気持ちでお越しください。

2023年 9月14日-24日 豊岡演劇祭2023 (兵庫)
会場名をクリックすると、チケット予約サイトに飛びます

豊岡稽古堂市民ギャラリー
9月14日(木) 17:00開演
9月15日(金) 16:00開演
9月16日(土) 15:15/19:45開演
9月17日(日) 15:15/19:45開演
9月18日(月・祝) 14:00/18:30開演
9月19日(火) 17:30開演
9月20日(水) 19:00開演

豊岡市民会館ギャラリー
9月21日(木) 19:00開演
9月22日(金) 20:00開演
9月23日(土・祝) 13:00/18:30開演
9月24日(日) 14:00/17:00開演

※開場時間は各開演時間の30分前になります。  
※日程により公演場所・公演時間が替わります。詳しくはチケット予約サイト(teket)をご覧ください。

ÔBUNGESSHA BY SHU OKUNO
奥野衆英です。パリ在住のマイム俳優・演出家です。


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