「久しぶりだね」
『あ。久しぶりだね』
そう言って玲は、俺に声をかけてきた。
俺らの過去に何があったか、
まるで忘れてしまったかのように。
『珍しいじゃん、こっちに帰ってくるなんて。』
「ああ。ちょっと用事があって」
『ご両親には会ったの?』
「ううん、これから」
『そっかぁ…』
『じゃあ、私も会いに行っちゃおうかな、なんて』
えへへっ、と笑う玲。
市内を走る路面電車は、前と帰ってきた時と変わらず
動くたびに、不規則にユラユラと揺れていて
俺も玲も、吊革につかまったままだ。
音を立てて、急に電車が止まる。
「おっと」
俺の胸に、玲が飛び込んでくる。
『ごめんねー、あ』
俺の左手を見る玲。
『へぇー、そうなんだー。』
『私を置いて、一人で勝手に、ねぇー。』
『もう1回聞くね』
『私も、実家に行っていい、よね?』
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