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新ことわざで遊ぶ辞典「三人寄ればモンキーの知恵」

三人寄ればモンキーの知恵
【さんにんよればもんきいのちえ】

【意味】優秀な者でなくても,三人も集まって語り合えば,文殊菩薩のような素晴らしい知恵が湧いてくるものだと良くいうが,その三人が揃いも揃って猿並みの頭なら,湧いてくる知恵だって猿並み、いわゆる猿知恵にしかならない。話合いの成果が出るかどうかは,参加メンバーの能力に負うところがやっぱり大きいだろうということのたとえ。
 まあ,一人だけ優秀,残り猿でも,やっぱり集まる意味ないだろう。

優秀
「で,三人集まってはみたわけだが,何かいいアイデアある?」
猿1
「ウキ?キキッ,キキッ」
優秀
「危機は分かってるよ。危機だよね。だって,日本の国家プロジェクトとして取り組んでた開発だからな。それが頓挫して,再開も無理って。国家的な危機と言ってもいいかも知れない。猿2はどう思ってるの?」
猿2
「…」
優秀
「ピーナッツ黙々と食べてるし。困ったな,これじゃ議論にならないよ。誰だよ猿入れて議論したらなんて提案したの」
猿1・2
「キーキキッ。ギャウッ。ウッキャッキャッ」
「キーキキッ。ギャウッ。ウッキャッキャッ」
優秀
「はい,ピーナッツの取り合いに発展しましたよと。だめだこりゃ」

 まあ、こんな具合であろう。
 ちなみに三人(匹?)が知恵を出そうとしていたテーマは,「高速増殖炉もんじゅをどうするか」だった。
 高速増殖炉もんじゅ。アナウンサー泣かせの早口言葉ではない。(余談だが,早口で言おうとするとどうしても「こうしょくぞうしょくりょもんじゅ」ってなるよね)
 もんじゅは,「夢の原子炉」とも呼ばれる「高速増殖炉」と呼ばれるタイプの原子炉だ。どんなところが夢かというと,「増殖」の二文字がポイント。詳しいしくみは難しくて説明できない。結論だけ言います。なんと発電に費やした核燃料以上の核燃料を生み出すことができるという,お前はドラえもんのひみつ道具か何かか?と言いたくなるような,まさに夢のような素晴らしいひみつ道具なのだ。
 間違いを承知で例えよう。もし,ガソリンエンジンで発電する自家発電機で電気を作ると,もれなくガソリンも湧いてきますよ,しかも使ったガソリンよりもたくさんガソリンを吐き出します,いかかでしょうとなったら?買いますね。間違いなく買いです。日本政府もそう思いました。高速増殖炉,これやらん手はないで,買いや,買い,作ったらんかい!ということになった。ちなみにそう思ったのは,日本だけではなく,世界各国でも競って開発が進められた。だが,現在,ほとんどの国でこの開発は進んでいない。というかやめている。もちろん日本でも。2016年に「もんじゅ」は,廃炉となることが決まった。
 なぜかというと,この増殖炉の運転管理が技術的にとても難しくて,安定した運用がなかなか進まなかったから。大きな障害の一つは,金属ナトリウムだ。普通の原子炉は,冷却材として水を使うのだが,増殖炉では,そのしくみ上どうしても金属ナトリウムという溶融金属を使う必要がある。これの取り扱いがものすごく難しいらしい。金属ナトリウムは水や酸素に触れると,高熱を発して燃えたり爆発したりしてしまう性質があり,少量の漏出でも大事故に繋がりかねない。慎重にも慎重な運転管理が求められるのだ。
 しかし,もんじゅは,1995年の運用開始からしばらくして,その金属ナトリウムの漏出が発生し,それにともなう火災事故が起きてしまう。さらにまずかったのは,その失敗を隠蔽しようとしたこと。これで世間から多くの批判を浴びてしまった。
 そんなこんなで,2007年にようやく運転再開のための工事が完了するのだが,2010年の運転再開から数ヶ月後,今度は炉内中継装置の落下事故を引き起こし,またもや稼働できなくなってしまう。
 2012年に再稼働する予定だったが,同年,安全点検の点検漏れが多数発覚(その数9000点以上)。翌年の2013年にも,原子力規制委員会の立ち入り調査で点検の不備および虚偽報告が発覚し,安全管理体制の再構築ができるまでと,無期限の運転禁止を命じられてしまう。
 2015年には,指示されていた改善箇所の半分も改善できていないことが調査で発覚。とうとう,日本原子力研究開発機構(もんじゅの運営主体)には運営を任せられないと,原子力規制委員会から匙を投げられてしまう。
 そして,2016年12月,長い議論の末,もんじゅは廃炉となることが決定する。1994年の臨界達成から2016年の廃炉決定まで22年間で,実働250日。ここまで投入された税金は1兆円になるという。
 このもんじゅは,将来の高速増殖炉の実用化・商用化に向けて,その発電性能や安全性などの検証を行うことを目的で作られたものなので,発電自体を目的としているわけではない。が,22年間やってて結局,実働が1年にも満たないって,発電所として見ればほとんど開店休業状態だったわけだ。当然,休業してても必要経費はかさみ,それが1兆円にもなっちゃった。そして,閉店しても経費はさらにかさんでいく。今後,長年月をかけて廃炉作業を進めていかなくてはならないから。廃炉にかかる費用いくらだろう。全部税金です。
 でも,成果はあったよね。
 どうやら夢の道具は夢で終わらせた方が良さそうだってこと。(ひみつ道具はひみつのままでとも言う)目的は,発電性能や安全性の検証だったわけで,何十年もかけて研究してみて,1兆円かけて開発してみて,結論出たと思いますが,皆さんいかが。
 だけど,政府はまだ諦めてないようだ。今後,新たな開発に着手する方針を廃炉決定の翌日に決めている。1兆円入れてるからね。ここで諦めると全部損失だ。もうちょっと資金投入したらどうにかなるかも…政府の中に集っているのは,お猿さんなのかしら。
 もんじゅの由来は文殊菩薩から。文殊菩薩は,知恵を司る仏様。人類の英知の結晶である原子炉に相応しい名称だけど,その原子炉をめぐるこの間抜けさ加減を考えると何とも皮肉めいた名前に聞こえるね。余談だけど,この,投資したお金や時間が諦めきれない心理,コンコルド効果って言うらしい。お猿さんは,洋の東西を問わずどこにでもいるみたいです。

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